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アカデミックライティングの指南書をこのサイトですでに二冊推薦してしまった。戸田山和久『最新版 論文の教室」』と酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために 第2版』である。いずれの著作も良い点ばかりとは言えないと思うが、それでもともかく推薦したのだ。しかし、この二冊を同一人物が推薦することは緊張をはらむことになる。一見するとこの二冊どうしは「矛盾」することになるからだ。
「矛盾」の原因は、戸田山『論文の教室』が改訂される際に「学術論文はこの著書では扱わない」という主旨の文を付加したことである。そして私もそれを支持した。他方、酒井『これから』では、「高校までの作文や感想文のようなものではなく、学術文書を書こう」という主旨の文章群が初めのほうに置かれている。にもかかわらず、この二冊が対象としているのはいずれも、大学生が大学で課される文章課題という点では同じなのである。そうであるなら、戸田山本と酒井本とはどのような関係に在ると言えるのだろうか、という疑念が起きてもおかしくない。
「論文」という語の用法の違いが、この矛盾の外観を作っているとみるのが妥当だろうと私は思う。戸田山は、「学術論文はこの著書では扱わない」という主旨のことを述べたときに、学部生のレポート課題などのことも「論文」と呼んでいる。この用法は私には少し違和感が強いが、しかしともあれ戸田山は一貫して学部生のレポート課題をそう規定している。他方、酒井本では、大学での文章課題(レポート等)を論文とは呼んでいない。おそらく酒井が「論文」と呼ぶとしたら、その対象は卒論以降の課題に限るのではないかと思う。こちらのほうがより普通の用法だろう。
二つの指南書でのこの違いは、或いは、想定している読者層の違いかもしれない。どちらも大学生を念頭においているのは同じなのだが、戸田山が中心的に想定しているのはどうやら将来企業等に就職して学問から離れていくことになるホワイトカラーの層であるのに対し、酒井が中心的に想定しているのはどうやら将来卒論に取り組み、その延長で大学院に進学して修論等に取り組み企業にも研究職として就職する理系の学生であるからではないだろうか。
この二冊の関係は上記のように規定しておけば、両立可能だろうと私は思う。