会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第08話

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はじめに

テレビ朝日系放映番組「烈車戦隊トッキュウジャー」第08話での会話の構造を、少し明確にしてみたい。そして、その会話の構造をどのように「記述」「描写」してみるのが良いのかを検討したい。ここで「記述」や「描写」に用いられる語彙というものを、中学生以上なら使うことができて良い語彙として提示する試みである。趣旨の説明は「会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第01話」の最初の節を参照してほしい。

烈車戦隊トッキュウジャー第08話 会話の構造の説明例

この回は、連鎖をなしているような会話がかなり少なめである。セリフ・発話はあってもモノローグだったり、相手の発言を踏まえてはいても応じてはいないなど、である場合が目立つ。動作的な映像が目立ち、そもそもの「セリフ」の量自体も少ないほうかもしれない。

五人がいた車両に、車掌たちが入ってきての発話である。

  1. 「次の駅でディーゼル列車の信号をキャッチしました。」と車掌が五人に言った。
  2. 「ディーゼル?」とライトが車掌に言った。
  3. 「かなりパワーのある列車ですよぉ。ただ信号は一瞬で消えましたし、相当弱くなってますね。列車はレインボーラインから長く離れているとどんどん弱くなりますから。」とチケットが五人に言った。
  4. 「最終的には朽ち果ててしまうことも。」と車掌が五人に言った。
  5. 「えっ」と五人が小声で言った。
  6. 「見つけても動くかどうか怪しいですよー。何しろサポート列車の中では一番古いですからねえ。」とチケットが車掌もろとも五人の方向に背を向けて言った。
  7. 「しかーし!」と車掌とチケットが同時に大声で言い、五人の方向に向き直った。
  8. 「トッキュウジャーが乗り込めばパワーが戻る可能性があります。特に“イマジネーション!”の強いライト君なら。」と車掌はライトの方を見て言った。
  9. 車掌とライトとは無言で笑みを交わしあった。
  10. 「わかった。そのディーゼル、絶対レインボーラインに戻してやる。」とライトは車掌のほうを向いて言った。

「次の駅でディーゼル列車の信号をキャッチしました。」と車掌が五人に言った。これは「通知」とでも呼べる発話だろう。と同時に、さらに説明しないと「だから何なのか」「つまり何をせよということなのか」がわからない、ということが伝わる発話でもある。尤も、「列車」だと車掌が言うのだから、あるいは事前のチケットからのアナウンスからすれば「サポート列車」であることもわかるのだから、過去の例からすれば五人にとってはそれは「回収」という任務につながることが、この段階でも予想がつく。

「ディーゼル?」とライトが車掌に言った。他の箇所ではなく、その箇所だけを選択的に取り上げて、聞き返しているわけだ。つまり、「列車であることはわかるし、それを回収せよという任務であることも予想できる」という発話になっている。要するに「それってどういう列車なの?」という疑問文を内包した聞き返しなのである。またもちろん、名前を聞き間違えていないかなどの確認も兼ねている。

「かなりパワーのある列車ですよぉ。」とチケットがまず質問に答えるようにして応答したのも、まさに上記のようにしてライトの発話を認識した結果である。サポート列車の場合、事前にその特性をメンバーが知っておいたほうが、戦闘その他で有利になることは過去の例からも明らかであり、だからライトの質問をそのように受け止めてチケットは応答したのだ、とも言える。続けて「ただ信号は一瞬で消えましたし、相当弱くなってますね。列車はレインボーラインから長く離れているとどんどん弱くなりますから。」という説明は、これは任務の性質を説明するための、一種の理由説明と言える。つまり、信号が弱いため、それを手掛かりにして発見することは困難である、したがってそれ以外の仕方で「発見」する必要があり、それが「任務」である、と、そういう理由説明である。

そうすると「外観」についての情報が必要になってくるはずだろう。続けて車掌が「最終的には朽ち果ててしまうことも。」と説明したのはその点と関係づけて理解されるだろうものだ。つまり「朽ち果てている」こともありうるほどの「外観」であるかもしれない、わけだ。それが「発見」のための「外観」上の手がかりだ、というわけだ。尤も、メンバーがディーゼル列車に関して、視聴者の大人がもつ程度の知識や常識を備えているという可能性も一応ある。そうであれば、外観上は「いわゆるディーゼル列車」の姿をしたものを探せばよい、ということになる。しかし実際にはのちのメンバーたちの「捜し方」から推察する限り、「視聴者の大人がもっているディーゼル列車の外観のイメージ」はどうもあまり無さそうではある。色や形について特段の情報が伝達されず、また共有されていなかったことに結果的にはなるわけだ。

「えっ」と五人が小声で言ったのは、これは単純に驚きの表明だろう。驚きというのもどちらかといえば「心配」に近いような「驚き」である。ディーゼルの無事を心配して驚いたといったところだろう。

「見つけても動くかどうか怪しいですよー。何しろサポート列車の中では一番古いですからねえ。」とチケットが車掌もろとも五人の方向に背を向けて言った。この発話は次の発話を際立たせるためのものであり、単独で含意を決定はできないが、五人が驚いて心配したことを、より強めるような発話であると位置づけられよう。「一番古い」というのも重要な情報になりうる。たとえば「外観」についての情報の一部を成しうる。ともあれ、この発話は次の発話で聞き手を驚かせることを狙っているので、この発話でフェイドアウトするように聞こえる必要があるだろう。五人の方向に背を向けて車両の出口で去り際に言うように振舞ったのもそのためだろう。

「しかーし!」と車掌とチケットが同時に大声で言い、五人の方向に向き直った。この「しかーし」が単に大きな声で突然叫んだだけのように聞こえるせいか、或いは車掌がいつもこんな情報提示の仕方をしてばかりいるせいか、五人はまったく驚きを見せなかった。ともあれ「しかし」は先行発話から期待される何かを反転させる語である。

「トッキュウジャーが乗り込めばパワーが戻る可能性があります。特に“イマジネーション!”の強いライト君なら。」と車掌はライトの方を見て言った。これは「説明」であると同時に「指名」でもある。「ぜひライト君がやってください」という「指令」にほかならない言い方なのである。車掌とライトとは無言で笑みを交わしあったのだが、ライトのほうが先であった。実質的な指名を受けてライトはまず軽く笑み、そしてうなずいた。ライトのうなずきと笑みは、「車掌の意図を理解した」という合図にほかならない。それを見て車掌のほうも笑みを浮かべてうなずき返した。これで「ライト君を指名したということを理解してくれたんですね」という「確認」をとったかっこうになったのだ。

「わかった。そのディーゼル、絶対レインボーラインに戻してやる。」とライトは車掌のほうを向いて言った。これは車掌の意図を理解しただけでなく、受け入れたということの明確化と公然化(他の者にもわかるようにすること)にほかならない。そして、車掌に対しては「約束」という行為をも構成していることになる。

なお、ライトが託されたのは、主にディーゼルを「発見」したあとの「パワーの回復」に関してであり、「発見」は五人全員が協力して行なう、ことは言うまでもないことだっただろう。

シャドーの本拠地にて、雷鳴が響く中での会話である。

  1. 「これは」とネロ男爵が言った。
  2. 「ええ、まさしく闇の皇帝がお出ましになる前兆。」とノア夫人が言った。
  3. しばらく雷鳴が鳴り響く間、会話は特にないままだった。
  4. 「消えたようですな。」とシュバルツ将軍が言った。
  5. 「しかし間違いなく陛下を感じた。今少し闇が地上に広がっていれば、間違いなくお出ましになられたものを。」とネロが言った。
  6. 「このところトッキュウジャーに闇を消されてばかりですからね。思ったより邪魔な存在になりましたわ。」とノアが言った。
  7. 「だが、陛下が近くにおられるこのチャンス、逃すわけには。んむ。」とネロが言った。
  8. 続けてしばし黙考ののち「あれが使えるかも知れん。手配が有るので失礼。」とネロは言って、一礼してその場を去った。
  9. 「さあグリッタぁ。あなたの花嫁衣裳の準備も急がなくてはね。陛下のお妃にふさわしいものを。ほほほほ」とノアはグリッタに一方的に言って、その場を去った。
  10. グリッタはノア夫人に特に返答はしなかった。

「これは」とネロ男爵が言った。このメンバーたちはしばしば、発話を言いっぱなしで済ますことが多いので、この発話も「会話」に展開することを特に期待しているわけではないだろう。たんなる「独り言」と言っても良い。ただ、それに誰かが応じて悪いわけではないのだ。いずれにせよ、この「これは」は「発見や気づきがあったことの表明」である。

「ええ、まさしく闇の皇帝がお出ましになる前兆。」とノア夫人が言った。「ええ」という箇所は二つのことを成し遂げている。一つは先行するネロの「これ」が何を指しているのかを理解していることの表示である。つまり「雷鳴と閃光」つまり「かみなり」を指しているのだ。ついで「ええ」は「同意」の表明でもある。ネロが言わなかったその「発見や気づき」に対しての同意である。つまり、ネロが言わなかったものを、ノアが代わりに述べたような言い方になっている。「まさしく闇の皇帝がお出ましになる前兆。」がそれだというわけだ。

しばらく雷鳴が鳴り響く間、会話は特にないままであり(グリッタのひとりごとはあるが)、その後「消えたようですな。」とシュバルツ将軍が言った。通常の者にはわからないが、シャドーの上層部の者だと、雷鳴のこの状態変化で「消えた」と判断ができるものであるらしい。そのくらいに、微妙なタイミングでシュバルツはこれを述べた。ともかく、この発話も、「自分の状況判断を公共的なものとして表明する」というものになっている。すなわち「この状況なら、誰もが雷が消えたと判断するだろう」ものとして発話された、ということだ。

「しかし間違いなく陛下を感じた。」という後続するネロの発話は、シュバルツの発話内容の否定ではない。「雷は消えた」という判断への異議ではない。そうではなくて、「しかし、少なくとも一度皇帝陛下がこちらの世界に来た」ということの主張である。シュバルツの発話が「もういない」というものならば、ネロの発話は「しかしさっきはいた」というものなのだろう。そういう「しかし」である。「一度は陛下が君臨した」そのことの主張をしている発話なのである。

続けて「今少し闇が地上に広がっていれば、間違いなくお出ましになられたものを。」とネロは述べた。これは、シュバルツの云う「もういない」判断に同意したうえでの、その原因の説明とでもいったものであり、同時に「残念がる」行為にもなっている。

「このところトッキュウジャーに闇を消されてばかりですからね。思ったより邪魔な存在になりましたわ。」とノアが言った。この発話も、ネロの先行する発話の判断に同意した上でのさらなる「原因の説明」である。つまり「トッキュウジャーのせい」だというわけだ。「思ったより邪魔な存在になりましたわ。」という発話は、「したがって、何とか対策を立てねばならない」という主張を、充分含意させうる。というのも、今回のこの一件は「邪魔」であることが言わば「客観的」に証明されてしまった事態だと言えるからだ。皇帝陛下は一度現れかかったのに、こちらの世界には姿を見せなかったのだ。そのことが可視化され、同時にトッキュウジャーの「邪魔」度あいも明確化されたことになるわけだ。

「だが、陛下が近くにおられるこのチャンス、逃すわけには。んむ。」とネロは言った。この「だが」は、先ほどのノアの発話に対しての「だが」であり、相手の発話の含意を受け入れていない可能性を示唆する。ともあれ、「陛下が近くにおられるこのチャンス、逃すわけには。」という発話は、ノアの発話とは独立に「今思いついたこと」の表明であり、同時にそれ以上の内容はわからないようになっている。実際、視聴者がこの発話の内容を「理解」できるのは、もう少し後の回になってからである。この回の中ではほとんどわからない。

続けてしばし黙考ののち「あれが使えるかも知れん。手配が有るので失礼。」とネロは言って、一礼してその場を去った。これで、ネロは自分が今思いついたことを、独断専行で行なおうという意図であることがわかった。このメンバーの間でのいつもの展開である。

いったんは、ノアのほうからネロに歩み寄ったかに見えたが、その状態も終わってしまい、いつもの各自バラバラという状況に戻った。そのことを認識したのだろうか「さあグリッタぁ。あなたの花嫁衣裳の準備も急がなくてはね。陛下のお妃にふさわしいものを。」とノアもまた、自分の関心事にまた話を戻してしまった。つまり、「トッキュウジャー対策」の話ではなく、自分の娘の政略結婚の話に戻してしまった。皇帝陛下が近くに来たという認識なのだから、この方向性自体が誤っているわけではない、となら言える。 「ほほほほ」とノアはグリッタに一方的に言って、その場を去った。

グリッタはノア夫人に特に返答はしなかった。ノア夫人はおそらく娘の意志になど関心は無いので、これもまたいつものことではある。

トッキュウジャーの五人が車外に降りて、市街地に出てからの会話である。

  1. 「さてと。ディーゼル列車のありそうな場所は…」とライトは誰にともなく言いながら周囲を見回した。
  2. 「捜しまわるよりも、情報を集めたほうがいいと思うよ。子どもたちから。」とライトの発話にかぶせるようにして、ヒカリがライトに言った。
  3. 「子ども?大人はダメなの?」とカグラはヒカリに言った。
  4. 「ほら、大人は大抵列車が見えないじゃない。」とミオがカグラに言った。
  5. 「そっか。じゃ子どもたちに聞き込みだね。」とトカッチは皆に言った。
  6. 「よし、行くぞ」とライトは皆に言った。五人は四散した。

「さてと。ディーゼル列車のありそうな場所は…」とライトは誰にともなく言いながら周囲を見回した。これは独り言のようでもあるが、誰かが応じても良いような発話でもある。実際そうなった。「さてと。」で話題の転換を提示している。次いで、「ディーゼル列車のありそうな場所は」とライトは発話するわけだが、そのとき周囲を見回しながら発話している。また、その発話のスピードが少しずつ減速しており、そのため「…」といったふうに表記することも可能なような発話になっている。なので、ここでライトは何か明確な提示を行なおうとしているというよりは、いったん発話を途切れさせそうに聞こえる。これが独り言のようであり、かつ誰かが応じても良いように聞こえる、状況を作っている。「ディーゼル列車のありそうな場所」というトピックだけを提示し、それ以上どのように展開するのかまでははっきりさせていない言い方だ。皆に「提案」や「問題提起」をしようとしているのか、それとも単なる独り言に終わらせるつもりなのか、そういったことが予測できにくいように発話されている。

「捜しまわるよりも、情報を集めたほうがいいと思うよ。子どもたちから。」とライトの発話にかぶせるようにして、ヒカリがライトに言った。これはライトが表明する可能性のあった「場所を探そう」という「提案」に対する先回りした「却下」でもあり、「代案の提示」でもある。

「子ども?大人はダメなの?」とカグラはヒカリに言った。これはヒカリの提示した代案に対する、「疑問・疑念の提示」とでもいった発話である。或いはもっと単純に「質問」したとも定式化しうる。

「ほら、大人は大抵列車が見えないじゃない。」とミオがカグラに言った。本来ヒカリが発話するのが通常だろうが、別に他の者が応接して悪いというわけでもない。そのためかどうか、ヒカリではなくミオが応答した。「ほら」というのは、自明の事柄にあらためて言及するときなどに使われうる。その言及の予示になっている。そしてこれは「質問」「疑念」に対する「応答」である。ところで、この箇所はこの内容がメンバーの間で公然化された視聴者にとっては最初の場面である。しかし先の「ほら」があることから、視聴者に提示される以前にこの内容はメンバー間ですでに公然化されていたことが暗示されていることとなる。

「そっか。じゃ子どもたちに聞き込みだね。」とトカッチは皆に言った。この発話は「そっか」でまず「理解の表明」を行なっている。「わかった」というわけだ。必ずしも断定できないが、「賛同」に近いともとりうる。「じゃ子どもたちに聞き込みだね。」で、まず「じゃ」ということで、実質的に「賛同」であったことを提示しつつ、「子どもたちに聞き込みだね。」というふうに、さらなる「提案」を行なっている。そこまでの話の進行を踏まえて賛同したうえで、さらなる「帰結」を提案したわけだ。

「よし、行くぞ」とライトは皆に言った。これはトカッチの提案に対して特に異論や追加の論点などがなさそうであることを言わば確認したうえで、その確認の終了を促し、次の行動への促しを行なっている。実質的には「指令」に近い。ライトはリーダーが誰かという話題に関心は大して持たない一方で、実質的にリーダー的な発話をしていることは多い。

サッカーをしていた少年たちのボールをライトが拾って声をかけた場面である。

  1. 「あのさー、聞きたいことあるんだけど。」とライトは少年たちに言った。
  2. 途中映像で省略があったもようである。
  3. 「ディーゼル?」と少年Aはライトに言った。
  4. 少年たちは互いに見合い、これといって思い当たるようなそぶりを見せなかった。
  5. 少年Aが「そんなの見たことないし。な!」と他の少年たちに言った。
  6. 他の少年たちも「うん。」などと言った。
  7. 「そっか。サンキュー。」とライトは少年たちに言った。
  8. ライトはボールを巧みに操って、少年たちにボールを返してみせた。少年たちは「おー」などと感心したように言った。
  9. 「すげー」と少年Aはライトに言った。
  10. 「こんなの簡単だって。教えてやろうか。」とライトは少年たちに言った。
  11. ここで映像は他の場面に切り替わるので、会話はここまでとなる。

この箇所は、会話の一部が省略されているため、或る程度の推察を伴わざるをえない。

「あのさー、聞きたいことあるんだけど。」とライトが少年たちに言ったが、この後が省略されているのだ。いずれにせよ、これは「話しかける」という行為であり、事後に「話題」、つまりこの場合は「質問したいこと」が後続することを予示している。だが、その箇所がどのように発話されたかは、映像からは省略されている。

「ディーゼル?」と少年Aはライトに言った。この発話からだけだとわかることはあまり多くない。ライトが少年たちに「ディーゼル」以外にどんな情報を提示したかがわからないからだ。つまり少年のこの聞き返しが「聞き取り」に関するものなのか、「理解」に関するものなのかもわからないし、その「理解」もどの程度のものなのかがわからない。「ディーゼル」という単語は、それを知らない者が一発で聞きとることができるとは、まったく保証できない単語だからだ。ただ、他のメンバーのその後の子供たちへの質問の仕方から察するに、「ディーゼルという大きな列車」以上の事柄はたぶん提示していないし、逆に、その程度は提示しているだろう、と推察ならできる。後の展開をあらかじめ知っているので、「実はこの少年はディーゼルを知っているし、その名前も知っていておかしくない。」ことが事後的に指摘はできる。つまりここでは「聞き取り」についての質問ではなく、「理解」を踏まえたうえでの質問であることが推察はできる。「ディーゼルというものはまあ知ってるけど、それがどうしたの?」という質問だというわけだ。

少年たちは互いに見合い、これといって思い当たるようなそぶりを見せなかった。「特にそのありかを知っている」のでなければ普通はそうなる。しかしのちの展開からわかることは、実際にはこの少年たちは皆ディーゼルを見聞きし、知っていてもおかしくない、ということである。だが、もしそうならばそれは「大人に存在を否定された」経験とワンセットであるはずだ。なのでかどうか、そのあたり、はっきり「知らない」というほどでもないような、どこか曖昧なリアクションとなった。それは期せずして、本当に知らない場合のリアクションと似ることにもなった。

少年Aが「そんなの見たことないし。な!」と他の少年たちに言った。おそらく少年Aがその件に関して特に強めの経験を何かしているのだろう。真意はともかくとして、ここでは「そんなの見たことないし。」とまるで本当は知っていて隠しているかのような答え方となった。単純に見たことがない者にしては「そんなの」という言い方が少し強すぎる感じなのだ。まるで隠しているかのようにして相手の質問に否定的に答える、それがこの少年Aがここでなしたことである。

「な!」と少年Aは続けて、他の少年たちに言った。これは「同意を求める」とでもいうような発話であり、事実としては「この件は隠しておこうぜ」という念押しでもある。他の少年たちも「うん。」などと言って、この同意の要求に賛同する者は居ても、反対する者は居なかった。

「そっか。サンキュー。」とライトは少年たちに言った。ライトはこの前後で表情には少年たちを少し不思議そうな様子で見ていた。少年Aの応答が不自然であったことや、他の少年たちもなんだかはっきりしない様子であったことは、先に述べたとおりである。ライトの表情は、それへの反応であるように見受けられる。で、その事後の「そっか。」という発話である。これは相手の発話を「受け入れた」というふうに定式化できるだろう。内心どう思ったかは不問にふして、ともかく受け入れた・受け止めたということだけを提示する発話である。そして「サンキュー。」と「感謝」を述べるとともに、発話の連鎖を終了させることも行なっている。

ライトはボールを巧みに操って、少年たちにボールを返してみせた。ボールを相手に返却するのも、会話の終了の一部をなしており、「これにて会話終了」とでもいう意図を提示することになる。ところが、少年たちは「おー」などと感心したようにライトの方を見て言った。「すげー」と少年Aはライトに言った。少年たちがここで「感嘆」を提示したことで、あらためて少年とライトとの間に、今一度のコミュニケーションが開始されることとなった。

「こんなの簡単だって。教えてやろうか。」とライトは少年たちに言った。「こんなの簡単だって。」というのは、「感嘆」に対しての、一種の「否定」とも言える。「驚くほどの程度の事柄ではない」ということだからだ。だがその「否定」は「謙遜」ではない。そのことを「教えてやろうか。」という後続の発話が示すこととなった。「驚くほどの事柄ではない」のは別に容易な技能だからではなく、学習のしかたが有るからにほかならない。そのことを「教えてやろうか。」の発話で提示しつつ、同時に「勧誘」をも行なっている。その後の展開は映像上は提示されずここで終了することとなる。ともあれ、ここでライトは「任務」のことをまるで失念して、無関係の事柄に熱中しているようなかっこうとなる。

ライト以外の四人が待ち合わせ場所に集合した場面である。

  1. 「あれ、ライトは。」とトカッチは言った。
  2. 「さあ?ま、自由すぎる人は措いておいて、ディーゼルの情報何かあった?」とミオは言った。
  3. 「あたしたちは、ダメ」とミオは言い、カグラは同調するように手を振って否定の身振りを示した。
  4. 「こっちも全然。」とトカッチは言った。
  5. 「同じ。タンクレッシャーみたいにどっかに埋まってるというのは…」とヒカリが言っている間に、突然騒ぎ声が聞こえ、ここで会話は中断することとなった。

「あれ、ライトは。」とトカッチは言った。これは「不審の提示」とでも定式化できるだろう。おそらく時間と場所を決めて待ち合わせしていたのにライトが居ない、ということなのだろう。

ミオが「さあ?」と、トカッチの提示した「不審」に対して、「自分はその件はわからない」ということを主張した。要するに「連絡」などを誰もライトから受けていないということがここで公然化されたかっこうになる。誰かライトからの連絡を受けているならこの場で述べるのが通常あるべき在り方だからだ。

「ま、自由すぎる人は措いておいて、ディーゼルの情報何かあった?」という発話は、前半の部分は「ライトが居ない件」に関する言及を「終了」させる発話になっている。その際、「自由すぎる人」という言い方でライト自身の意志によってこの不在がもたらされている、という認識を提示している。続けての「ディーゼルの情報何かあった?」とここでイニシアチブをとるようにして「各自の報告の開始」を提案した。今から「報告会」をやろう、というわけだ。

「あたしたちは、ダメ」とミオは言った。「報告する」という発話である。そこへカグラは同調するように手を振って否定の身振りを示した。「あたしたち」の結果なので、カグラも何かここで提示するのが自然であるから、という事情もあるかもしれない。

「こっちも全然。」とトカッチは言った。「全然」のあとに述語が無くとも、「こっちも」の「も」があるため、「全然なかった」などの文意であることがわかる。ともあれこれも「報告する」発話である。

「同じ。」とヒカリは言った。これも「報告する」という発話であるが、「子どもたちに聞き込みをして情報を集めよう」と最初に提案した提案者としての発話でもある。なので、後続して「タンクレッシャーみたいにどっかに埋まってるというのは…」というふうにして、「捜査方針の変更」を提案しかかっていたりする。ここで怪人が市街地に出現するというトラブルがなければ、おそらくそのようにして四人の間で話を進めていただろう、と推測ができるくらいにまでは発話されている。いずれにせよ、ここで発話は中断されることとなった。

トッキュウジャーの四人の前にシャドー怪人が現れた場面である。

  1. 「トッキュウジャー。俺はシャドーラインのバクダンシャドーだ。一緒にゲームをしないか?」と怪人は四人に言った。
  2. 「ゲーム?」とトカッチは言った。
  3. 「何のゲームか知らないけどあたしたち忙しいのよね。」とミオは怪人に向かって言った。
  4. 「あっそ。じゃいいや。っておい。」と怪人はいったん去るような態勢をとったが、「っておい。」と言いながらすぐに四人のほうに向きなおって戦闘態勢に入った。

「トッキュウジャー。俺はシャドーラインのバクダンシャドーだ。一緒にゲームをしないか?」と怪人は四人に言った。前半で「自己紹介」をしつつ相手がトッキュウジャーであることは既知であることも示し、また後半では「勧誘」をしている。というか、「勧誘」なのかそれとも「実質的には命令」くらいに強いのか、そのあたりの「強度」がはっきりとはしないくらいにして述べられている。ともあれ、この発話によって、この怪人が最初から「ゲーム」をするという目的のためにわざわざトッキュウジャーの居る場所へ現れたことがわかる。

「ゲーム?」とトカッチは言った。これは多少独り言めいてもいるが、普通に怪人への「質問」という発話だということで良いと思う。

「何のゲームか知らないけどあたしたち忙しいのよね。」とミオは怪人に向かって言った。怪人の「勧誘」に対する「却下」であり「拒否」である。と同時に、仲間に対しての、「サポート列車の捜索という任務のほうを優先させる」という「意思表示」のようにも受け取りうる。

「あっそ。じゃいいや。」と怪人はいったん去るような態勢をとった。これはおそらく、のちの展開から推察するに「演技」であり、本当に去るつもりはなかっただろう。というのも、ちゃんと部下たちを配備しているからだ。だが、ともあれ、言語上のやり取りとしては、「あっそ。じゃいいや。」というのは、「勧誘が却下されたことを受容した」という発話であり、いわば「断念」の意思表示でもある。尤もすぐに「っておい。」とミオの「却下」に対して「異議申し立て」を行ない、あらかじめ配備していた部下たちを出現させ戦闘態勢をとった。この段階では結局「ゲーム?」というトカッチの質問というか疑念に対する回答は与えられない帰結となった。

シャドー怪人が出現したことを電話で知ったライトが、少年たちのところを去ろうとする場面である。

  1. 「ごめん、行かなきゃ、じゃね。」とライトは急いでボールを少年たちに返して、すぐに去ろうとした。
  2. 「ちょっと待って。」と少年Aがライトに言った。ライトは振り向いた。
  3. 「教えてあげようよ。この人なら見えるかもよ。」と少年Aは他の少年たちに言った。
  4. 「うん」「いいよいいよ」「いいよな」などと他の少年たちが少年Aに言った。
  5. 「え、何のこと?」とライトが少年たちのところにまた戻り始めた。
  6. 「さっき言ってた列車見たよ。でもパパたちには見えてなかった。」と少年Aがライトに言った。
  7. ここで映像が別の場面に切り替わるので、この会話は以降はわからない。

サッカーをしながら電話をしていたライトが、電話を切って「ごめん、行かなきゃ。」と少年たちに言った。この少年たちは「電話をする」ことの意味はわかるくらいの年齢であるから、「ごめん、行かなきゃ。」でライトの言わんとすることやその事情は理解できるはずである。この発話は、会話やサッカーの中止を「宣告」する発話なのであり、それを言わば丁寧に言うための「ごめん」なのである。謝罪というよりは丁寧語に近い。「じゃね。」と言う前に、まずボールを少年に返却して、そして「じゃね。」で「別れを告げる」ことをしているわけだ。

「ちょっと待って。」と少年Aがライトに言ったのは、その少し後だ。完全に去る予定だったライトがそれを聞いて振り返った。「ちょっと待って。」という発話は、「呼び止める」くらいの行為だと言えようか。ともかく、再度コミュニケーションのチャンネルを開くために使う言い方だ。

「教えてあげようよ。この人なら見えるかもよ。」と少年Aは他の少年たちに言った。これは仲間への「提案」とその「理由」である。そして、そもそもこの件を知らないことにしてやり過ごそうとしていたのもこの少年Aが主導だったわけだから、自分自身の前言撤回的な要素のある発話でもある。そして「この人なら見えるかもよ。」という発話内容によって、それまでこの件を「教えてあげ」なかった理由も示唆されることとなる。「この人にもどうせ見えないに決まっている」と思っていたからだったのだ。

「うん」「いいよいいよ」「いいよな」などと他の少年たちが少年Aに言った。もともと他の少年にはこの件を隠し通す強い動機がたぶんなかったのだろう。少年Aの提案に対して驚くほど素直に「同意」をした。

「え、何のこと?」とライトが少年たちのところにまた戻り始めた。「相手の発話が理解できない」ことの表明とでも定式化できるだろう。理解できないがとにかく話を聞こうという態度を提示しているわけだ。

「さっき言ってた列車見たよ。でもパパたちには見えてなかった。」と少年Aがライトに言った。最初にこの少年Aとライトとが出会った直後の会話に、ここでようやく「応答」したことになるわけだ。「でもパパたちには見えてなかった。」というのは、その件を今までライトに隠していたことの「理由説明」とも受け取りうる。「見たよ」というのは、「知ってる」よりも強い言い方だ。自分自身が直接見たということだから、その見た場所や状況も説明可能だということを含意するからだ。

ただし、ここで映像が別の場面に切り替わるので、この会話は以降はわからない。

シャドー怪人とトッキュウジャーの四人が戦っているところに、ライトがあとから来て、怪人を蹴飛ばしたら、怪人がすぐに上空で爆発してしまった場面である。黒煙だけが残り続けている。

  1. 「うそ」とカグラが言い、他のメンバーも「消えた」などと口々に言った。
  2. 「もう終わり?巨大化するのかも」とミオが言った。
  3. 「うっ」などと言いながらしばらく皆、戦闘態勢を構えていたのち、ライトが「ま、とりあえず列車呼ぶか。」と言いその手続きをとった。

この箇所はあまり会話らしくない箇所である。「うそ」とカグラが言い、他のメンバーも「消えた」などと口々に言った。要するに、ここでの発話の多くは、その後誰かに応接されたりしなかった。

「もう終わり?巨大化するのかも」とミオが言った。これは誰かの発話に応接したものではなく、踏まえているだけである。「もう終わり?」というのも、カグラらの発話と同列に、誰にも応接されないものだったが、次の「巨大化するのかも」という「問題提起」或いは「提案」のような発話は、他のメンバーに影響を及ぼした。会話上の連鎖を構成したりはしなかったが、「うっ」などと言いながらしばらく皆、戦闘態勢を構えることとなった。

次いでライトが「ま、とりあえず列車呼ぶか。」と言いその手続きをとった。「ま」「とりあえず」という言い方も、先行する誰かの発話に応接したものではない。ただ、その存在を踏まえて、「保留する」とでもいうような態度を提示したものと言えるだろう。そして「列車呼ぶか。」と提案しつつ同時にその手続きを開始してしまっている。

総じて言えば、ここでの発話群は、相互に言及しあったり応接しあったりしていない。当初の予定ではそういう箇所は扱わないつもりだったが、この箇所は逆にそのことが特徴的だと思ったので、一応取り上げてみた。

列車に乗り込んだトッキュウジャーが残り続ける黒煙の中を運転している場面である。

  1. 「何あれ?巨大化しないよ。」とトカッチが言った。
  2. 「こっちに来る。」とヒカリが言った。
  3. 「なんかまずいな。」とライトが言った。
  4. 「え」とカグラとミオが言った。

メンバー同士は別々の部屋にいるが、おそらく通信か何かで相互に聞こえ合っているものと仮定して以下参照する。

「何あれ?巨大化しないよ。」とトカッチが言った。これは「問題提起」の発話であり、「危機感の表明」でもある。

「こっちに来る。」とヒカリが言った。これはトカッチと同じ対象についての言及であり、トカッチの発話への言及ではない。これも「問題提起」「危機感の表明」という発話であると言って良いだろう。

「なんかまずいな。」とライトが言った。これも先行する発話への言及ではなく、先行する発話と同じ対象への言及であり、わりと直接的な「危機感の表明」そのものである。

「え」とカグラとミオが言った。これは「なんかまずいな。」というライトの発話或いはそれも含む先行する発話群への言及であると見なしたい。この箇所があるため、辛うじてこのやり取りが会話的に聞こえるようになっている。で、この「え」は、「危機感の表明」に対する、或る種の「同意」である、と見たい。先行する発話が表明する危機感を基本的に受け入れたがゆえに発せられた、「え」というそれ自体もまた危機感の表明的な発話になっている、というふうに聞こえるからだ。全然うまい説明になっていないが、そのように思える。要するにここでは「危機感の表明→危機感の表明→危機感の表明→同意(=危機感の表明)」というふうな流れになっていると聞こえるわけだ。

列車内の換気を行ない、車内の黒煙をあらかた排出し終わった場面である。

  1. 「なんだったんだ。」とライトが四人に言った。
  2. 「なんか、すっきりしないよな。」と続けてライトが四人に言った。
  3. 「確かに、さっきの煙も気にはなるよね。」とヒカリが四人に言った。
  4. そこに現れた車掌が「念のため、全員で車内点検をしましょう。」と五人とあとワゴンに対して言った。
  5. 「あ、そうだ。ディーゼルのこと、子どもたちに教えてもらった。」とライトが皆に言った。
  6. 「え?」と皆がくちぐちに言った。
  7. 「は、早く言ってください。どんな情報です?」とチケットはライトに言った。
  8. 「博物館で見た、って。」とライトは言った。
  9. 「博物館?展示されてんのかな。」とトカッチが言った。
  10. 「至急確認したほうがいいですね。ライト君お願いします。」と車掌はライトに向かって言った。ライトは無言で「わかった」というポーズをとった。
  11. 「われわれは車内点検を」と車掌は他の者に言い、皆それぞれの任務に向かった。

「なんだったんだ。」とライトが四人に言った。これは「合議の開始」の表明だと見なしたい。「今から話し合おう」というわけだ。

「なんか、すっきりしないよな。」と続けてライトが四人に言った。これはその合議の「議題」に該当するものである。「問題提起」という発話だと見なしたい。

「確かに、さっきの煙も気にはなるよね。」とヒカリが四人に言った。ここは視聴者の立場では少し戸惑う発話であり、少し考え込む。が、要するにライトが言っていたすっきりしないのは「怪人が即座に爆発した」件であり、ヒカリが気になるのは「煙」の件である、ということであるらしい。で、そのように受け取りにくいのは、その直前までずっと車内の喚起やら車両のバックやらで、問題となっていたのはすでに「煙」のほうだったはずではないか、と思うからである。「煙も」ではなく「煙こそが」でないと奇妙に聞こえるのだ。だが、ともかく、少し考えて解釈をしてみれば、いちおうつじつまは合うふうに理解はできる。で、その前提で行くと、ヒカリの発話はライトの問題提起を受け入れたうえで、そこに同じ方向性の別の議題を並置した、というふうに見なすことができるようになる。

そこに現れた車掌が「念のため、全員で車内点検をしましょう。」と五人とあとワゴンに対して言った。これは、そこまでのライトやヒカリの発話を聞かずになされている可能性が高い発話だ。ただ聞こえていたという可能性もある。ともあれ、それまでの発話とは或る程度無関連な形で、ここで車掌によって「指令」がなされたと定式化できる。

「あ、そうだ。ディーゼルのこと、子どもたちに教えてもらった。」とライトが皆に言った。この「あ、そうだ。」は「今思い出したという主張」でもあるし、先行する車掌の発話を一旦中断することも積極的に行なっている発話である。後続する「ディーゼルのこと、子どもたちに教えてもらった。」、これは「報告」という発話である。

「え?」と皆がくちぐちに言った。これは、「驚きの表明」「驚くということをしている」くらいの発話であろう。ともあれ、ライトの「報告」に対する応接である。

「は、早く言ってください。どんな情報です?」とチケットはライトに言った。ライトがこの報告をしたのは、おそらく可能な最も早いタイミングであった。というのも、その直前まで怪人の登場や煙騒動があったからである。そして、「次の任務」が車掌から指令が出たのを遮ってのものだったからである。なので「は、早く言ってください。」というチケットの要求は無茶な話ではあるのだが、しかしまあ、「ぜひ今すぐ聞かせて下さい」という自分の気分や意欲の表明ではあろう。そして「どんな情報です?」というのも、やはり「ぜひ今すぐ聞かせて下さい」という態度表明の続きであろう。ライトはすでに報告を始めようとしているところだったのだから、今さらこの箇所が「質問」というふうには聞こえにくい。

「博物館で見た、って。」とライトは言った。これは「報告」の実質的な内容の端的な提示である。

「博物館?展示されてんのかな。」とトカッチが言った。後半の「展示されてんのかな。」は結局誰にも応接されなかったので、独り言めいてしまっているが、ともあれトカッチの発話は、ライトの報告に対する、言わば「可能な解釈の提示」を行なったと言える。捜している車両がどのような状態にあるのか、平たく言えば「無事」かどうかは、彼らにとって決して重要でないとは言えない情報である。「展示されている」というのはかなり車両の状態を推測できる手掛かりにもなる。

「至急確認したほうがいいですね。ライト君お願いします。」と車掌はライトに向かって言った。博物館というところまでわかっていれば、「確認」はかなりしやすい。確認しやすいのだし、「無事」かどうかも気になるわけだから、「至急」ということにもなる。ここでの「確認」は「展示されているか否か」も否応なしに含むので、結局はトカッチの発話を踏まえたものにもなっている。ともあれ、車掌はライトに「指令」を出したことになる。ライトは笑みをたたえて無言で「わかった」というポーズをとった。

「われわれは車内点検を」と車掌は他の者に言い、皆それぞれの任務に向かった。「はい」という応答も誰かが言っている。要するにここでは車掌が先ほどの「指令」を今一度繰り返し、それに対してメンバーが「受諾」したということになる。

怪人によってトカッチの肩に爆弾が仕掛けられまた、列車のブレーキ機能も破壊された。そのことが列車に侵入していた怪人に告げられた場面である。ライト以外の車内メンバーが全員そろっている。

  1. 「ブレーキは潜り込んでた俺の分身が壊したんだ。そいつの首に着いてるのと同じ奴らがな。」と怪人は皆に言った。
  2. 「分身。やっぱりあの黒い煙が。」とヒカリが言った。
  3. 「いやーん。ブレーキ壊れたら停まれなーい。」とワゴンが言った。
  4. 「すでにその状況ですよ。スピードは上がる一方。」とチケットが言った。

「ブレーキは潜り込んでた俺の分身が壊したんだ。そいつの首に着いてるのと同じ奴らがな。」と怪人は皆に言った。のちの言動からすると、これは一種の「宣戦布告」的な発話であろう。その布告の前振りのような説明である。

「分身。やっぱりあの黒い煙が。」とヒカリが言った。この発話は、怪人に対してのものというよりは、独り言か或いはメンバーに聞こえるため、というのに近いだろう。いずれにせよ、怪人の発話のなかの「分身」という箇所を切り出して、それを「黒い煙」という既知の要素に結びつけて理解した、というその理解説明の発話である。というか、そういうふうにかなり明確化しないと、鉄製の怪人の「分身」が「煙」である、という事態は伝わりにくい。そのことを誰かが明確化する必要があり、ヒカリがそれを行なったということになろう。

「いやーん。ブレーキ壊れたら停まれなーい。」とワゴンが言った。これも、怪人の発話を受けてはいるものの、怪人に対してではなく、他のメンバーに聞こえるように言ったものだろう。これも、怪人の発話の帰結を、やはり理解説明してそれを皆に公然化するようになした発話というふうに言える。

「すでにその状況ですよ。スピードは上がる一方。」とチケットが言った。これは「その状況」という語を用いて、ワゴンの発話に言及しており、唯一会話の連鎖が成り立っている観が多少はある箇所である。つまり、ワゴンの発話に対して応接し、ワゴンに対して言っていると聞くことも可能な箇所である。とは言え、同時にこの発話もまた、理解説明して皆で公然化するというものにもなっている。実際、ワゴンはこのチケットの発話に応接しなかったので、そういうかっこうになった。

爆弾を仕掛けられて身動きができないトカッチと、ワゴン、車掌、チケットが残った状況である。一定以上の揺れや或いは身体から外そうとする操作などで爆弾は爆発する、と怪人に宣告されているのである。

  1. 「ワゴンさん、トカッチお願い」とミオはワゴンに言って、怪人を追って他の車両に行った。
  2. 「はいはーい」とワゴンはミオに聞こえるように言った。
  3. その直後に列車が強く揺れて、トカッチがワゴンに倒れ掛かるかっこうになった。
  4. 「あん。いやーん」とワゴンは言った。
  5. 「あ、すいません。」とトカッチは狼狽して言った。
  6. 「大丈夫、私に、ま・か・せ・て」とワゴンはトカッチに言った。
  7. その直後にまた強い揺れが来て、ワゴンによってトカッチの動きや揺れが辛うじて食い止められるかっこうとなった。
  8. 「自動運転だと限界ありますよこれ」とチケットは言った。
  9. 「仕方ありませんねえ、ここは私が。」と車掌が運転室に向かった。チケットが「おー」と言った。

「ワゴンさん、トカッチお願い」とミオはワゴンに言って、怪人を追って他の車両に行った。ミオの発話は「依頼」と定式化できる。

「はいはーい」とワゴンはミオに聞こえるように言った。これはミオの「依頼」に対する「応諾」「承諾」といったものである。ここではミオとワゴンの間に、普通の会話が成り立っている。

その直後に列車が強く揺れて、トカッチがワゴンに倒れ掛かるかっこうになった。「あん。いやーん」とワゴンは言った。このワゴンの発話は、ワゴンの固有のキャラクターや口癖と密接に結びついておりそれを考慮しないといけないだろう。そうすると、普通の人が「わ」とか「え」とか口にするのと同じようなタイプの、「驚きの表明」くらいに定式化できると思う。

「あ、すいません。」とトカッチは狼狽して言った。これは普通に、「謝罪」でいいと思う。ワゴンの「驚き」に対して、驚かせるような事態を生じさせてしまったことへの「謝罪」である。とは言え、トカッチのこの状態は不可抗力ではあるし、ワゴンもそれはわかっている。

「大丈夫、私に、ま・か・せ・て」とワゴンはトカッチに言った。この発話は、「誓う」「約束する」という定式化だと少し強すぎる感じなので、「請け負う」くらいの定式化になるかと思う。まず「大丈夫」という言い方で、「謝罪」に対して「気にしなくて良い」というメッセージの伝達を行なった。「謝罪するには及ばない」というメッセージと、「謝罪するような事態ができるだけ発生しないようにする」という意思とを、少しずつ伝えていると言える。その後者をより明確にしたものとして「私に、ま・か・せ・て」と「請け負う」発話を行なった。そのように言えるだろう。

その直後にまた強い揺れが来て、ワゴンによってトカッチの動きや揺れが辛うじて食い止められるかっこうとなった。

「自動運転だと限界ありますよこれ」とチケットは言った。これは先ほどの揺れという事態を踏まえているが、ワゴンに対してというよりは、どちらかと言えば車掌に対して言った発話だろう。内容的にそのように判断できる。運転できるとすれば今いるメンバーだと車掌が最適任だろうからだ。ただこの発話は、ワゴンによるトカッチへのサポートだけでも限界がある、という内容を同時に含むものでもあるので、ワゴンに対して聞こえるように言っているという面も当然ある。かろうじて、このチケットの発話がそれまでの会話とつながっているように聞こえるのは、そのためだ。ともあれ、この発話は「問題提起」ないし「警告」するといったものであろう。

「仕方ありませんねえ、ここは私が。」と車掌が運転室に向かった。声の調子だと半分独り言のようでもあるが、チケットの顔の向きを自分の方に向けるようにして、つまりチケットに言い聞かせるようにして、車掌は述べている。その「問題提起」「警告」に対する応答になるような応接であり、「請け負う」といった発話である。もちろん「手動運転」を行なうことを請け負ったのだ。

チケットがそれを聞いて「おー」と言った。これは「感心」の表明くらいのものであろうか。車掌がずいぶんと真剣な調子で言ったので、その真剣さに対して「感心する」ことでもって応じた、というふうにも聞こえるし、おそらく車掌と呼ばれるくらいだからめったな状況では運転はしないのだろう。その珍しさに対しての「感心」でもあるだろう。

「この先急カーブです。お気をつけてください。」と車掌からの放送があった場面である。

  1. 「え?このスピードで?」とミオがカグラに言った。
  2. 「これは揺れるぞー。」と怪人が皆に言った。
  3. 「どうしよう、トカッチが。」とカグラがミオに言った。ミオが「あ」などと声をあげた。

「この先急カーブです。お気をつけてください。」と車掌からの放送があり、それが緊張感のある声色であった。この車掌の発話は、車内の者皆に対する「警告」だと言ってよいだろう。

「え?このスピードで?」とミオがカグラに言った。というのは、車掌の「警告」を踏まえたうえで、心細さのあまり言ったというようなものだ。なので、これは「心配の表明」とでも定式化できよう。

「これは揺れるぞー。」と怪人が皆に言った。この怪人の発話は、トッキュウジャー側のメンバーとの会話をなしていることはほとんどなく、一方的である。この場合もそうだが、ただし、ミオが心配の表明をしたことを踏まえて、言わば「嘲る」ことをしている、と言える。それを聞いたメンバーが応接することも可能な発話だが、誰も応接はしなかった。

「どうしよう、トカッチが。」とカグラがミオに言った。これはミオのなした「心配の表明」を受けて、それに追加するような形で「問題提起」したとも言える。と同時にやはりそれ自体も「心配の表明」にもなっている。

それに対するミオの「あ」は、「相手の発話を聞き入れた」ことの表明程度である。声色に込められた情感のようなものは「困惑」とかそういったものであり文字で伝えることの難しいものだが、ともかくカグラの「問題提起」を「聞き届けた」ことの表明だけはこの発話で達成している。

その後にヒカリが「うっ」などのように声を上げて隣の車両に行くが、その声も、或る程度ミオの発話と同じような性質をもつとも言える。つまり、自分もまたカグラの問題提起を聞き届けたのだという表明も少し兼ねている。ただ明確に誰かに向かって言った発話とは言い難い。

こちらも「この先急カーブです。お気をつけてください。」と車掌からの放送があった事後の場面である。トカッチをワゴンが車内の手すり等に(リボンで)縛りつける等の処置をした。

  1. 「これなら、激しく揺れても大丈夫。」とワゴンがトカッチに言った。
  2. 「緊迫感ないけどありがとうございます。」とトカッチがワゴンに言った。
  3. ワゴンが何か言いながらうなずいた。
  4. 「でも、いざとなったら、僕から離れてください。」とトカッチがワゴンに言った。
  5. 「はっ、いやーん、キュンとするー。」とワゴンがトカッチに言った。

「これなら、激しく揺れても大丈夫。」とワゴンがトカッチに言った。これはトカッチの危機への対処準備が完了したことの「通告」或いは「説明」とでも定式化できるだろう。自分が縛り付けられ固定されることで保護されていることは理解できても、その対処が完了したかどうか、どの程度可能なのかはトカッチのほうにはわからない。たとえば、どの程度縛り付けるためのリボンのストックがあるかなどはわからない。だからその対処作業の完了はワゴンのほうが説明・通告するほかない。そういうわけで、このワゴンの発話は合理性がある。

「緊迫感ないけどありがとうございます。」とトカッチがワゴンに言った。これは自分への保護対処への「お礼」である。と同時に「緊迫感ない」ことに言及することで、軽く「心配」をにじませてもいる。つまり、ワゴンが事態を楽観しすぎている可能性を心配しており、それを少しにじませるような言い方になっている。

ワゴンが何か言いながらうなずいた。「お礼」に対する「聞き届けた」という応接である。

「でも、いざとなったら、僕から離れてください。」とトカッチがワゴンに言った。これがトカッチの主に言いたいことであったことは間違いない。要するに緊迫感があまりなくて心配なので、あえてきちんと言語化された形で「警告」をしたのである。ただこの「警告」は自己犠牲を前提にしたものではある。

「はっ、いやーん、キュンとするー。」とワゴンがトカッチに言った。この発話は、トカッチの発話が前提している「自己犠牲」に対する言及であると言える。例によってワゴンの口癖やキャラクターと不可分の発話であるが、要は「感嘆」の表明であると言える。トカッチが言わば覚悟している「自己犠牲」に対する感嘆ということである。

列車がカーブを曲がり切り、当座の危機を乗り越えて少し落ち着いた状態での車内での会話である。

  1. 「もう、諦めろよ。列車も限界だろうぜ。ゲームの勝利者は俺で決まりだな。」と怪人が言った。
  2. 「それはどうかな。」とトッキュウ2号(=トカッチ)に扮したヒカリが言った。
  3. 「ん?お前は、確かメガネの…。」と怪人は言った。
  4. 「爆弾は取り外した。」とトッキュウ2号(=トカッチ)に扮したヒカリが言った。
  5. 「何!」と怪人は言って、飛び跳ねた。
  6. 「そんな馬鹿な。」と怪人が言った。
  7. 3号ミオがその怪人を素早く両手で捕まえた。「捕まえた!」と言った。
  8. 5号カグラがその怪人の、爆弾解除スイッチを押した。
  9. 「なに、しまった。」と怪人は言った。
  10. トカッチに仕掛けられていた爆弾が自動的に取り外された。
  11. 外れた爆弾をワゴンが「いよっと」と言いながら、キャッチして拾い上げた。
  12. 「やったー」と5号カグラが言った。
  13. 「激しく大成功」とワゴンが言った。
  14. トッキュウ2号に扮したヒカリが、乗り換え装置によって本来のトッキュウ4号の姿に戻り、3号ミオにしっかり捕捉されている怪人に対して「引っ掛かってくれたな。」と言った。
  15. 「貴様ー!だが喜ぶのは早いぜ。言ったよな。タイムリミットは列車が限界を迎えるまでって。どうやらその時が来てるんじゃないか。もうバランスは保てない。突っ込んだら町も人間も巻き込んで大惨事だ。ひゃははははー。ゲームは俺の勝ちだ。」と怪人は言った。
  16. トッキュウ3号と4号は怪人と爆弾とを、車外に放擲した。それらは爆発した。

「もう、諦めろよ。列車も限界だろうぜ。ゲームの勝利者は俺で決まりだな。」と怪人が言った。この発話は案外難しい。というのは、もし本当に「諦め」たとしたらどのような展開になるのかは全く不明であり、推察するほかないからである。ともあれここで怪人の発話が行なっているのは、「ゲームの終了(トッキュウジャーの降伏)を勧める」というものである。或る種の「勧誘」を行なっているのである。ゲームの終了が何を帰結するのかわからない以上、そのような文字通りの受け取りをする以上の解釈などは難しい。

「それはどうかな。」とトッキュウ2号(=トカッチ)に扮したヒカリが怪人に言った。直接的には、相手の「勝利」宣言に対する異議申し立てであるが、要するに相手の「勧誘」の「却下」に近い。ただ「真偽不明である」というタイプのものの言い方になっており、そこまで強い「却下」ではない。その準備段階くらいだと言っても良いだろう。なので「異議申し立て」という発話である、と定式化しておくくらいが良い。

「ん?お前は、確かメガネの…。」と怪人は言った。最初の「ん?」が相手の発話が理解困難であることの表明である。「その異議申し立てがよくわからない」というわけだ。「お前は、確かメガネの…。」という発話は、発話相手が何者なのかの「探りを入れる」とでもいった発話だと言えるだろうか。変身した姿で現れているので、「メガネの」人物と同一であることが直ちにわかるわけではない。推測や記憶に基づく言い方になる。のちの発話から推測すると、怪人はそれ以上の含意はこの発話には特に込めていないと思う。つまり「爆弾を仕掛けられていて動けず、本来現れることが不可能な者が現れた驚き」のようなものまでは、ほぼないと言って良い。なので、ここでは「探りを入れる」とか「様子を窺う」とでもいった発話にとどまっていると定式化しておく。

「爆弾は取り外した。」とトッキュウ2号(=トカッチ)に扮したヒカリが言った。このような手口で相手を騙すためには、青色の2号がメガネのトカッチの変身した姿であることを知っていてくれないと、できない。なので、それができると看て取ったヒカリが素早く言ったのがこの発話だったのである。この発話は「騙す」ことを行なっているとも言えるが、戦略上、肝腎なのはむしろ相手(怪人)を動揺させることである。その「動揺させる」ことをも行なっている。ともあれこの発話は文字通りには、「通告する」とでもいった行為である。偽の通告によって相手を騙し、動揺させようという作戦なわけだ。

「何!」と怪人は言って、飛び跳ねた。これはまずは「驚きの表明」なわけだが、そのあと飛び跳ねていることからすると、おそらく「確認」をその後に予定しているだろうと思われる。「そんな馬鹿な。」と怪人が言った。これは相手の「通告」に対する「否認」とでも言える。そして、相手の発言が本当かどうかを確かめようというわけだったのだろう。

3号ミオがその怪人を素早く両手で捕まえた。「捕まえた!」と言った。この発話はカグラに向けて言ったものだ。あらかじめメンバー間で作戦を立てていたらしいことは事前の映像で示唆されている。5号カグラがその怪人の、爆弾解除スイッチを押した。おそらく、この「一人が怪人を捕まえて、もう一人が解除スイッチを押す」という手順からして計画的だったのだろう。カグラは発話ではなく動作によってミオの行為に対して応接したことになる。

「なに、しまった。」と怪人は言った。この「なに」はそれほど明晰に発音されたわけではなく「あいん」と聞こえる。そのくらいに咄嗟に驚きが口をついてしまった、というように聞こえる。なので、これは発話行為というよりは反応に近い。「しまった。」は「状況認識の表明」とでも言えるだろうか。ともかく「自分にとって不利な状況である」という認識を言語で提示したものである。このあたりの怪人の発話は総じて、独り言に近いところがある。誰かが応接すれば会話になるだろうが、誰も応接はしなかった。

トカッチに仕掛けられていた爆弾が自動的に取り外された。外れた爆弾をワゴンが「いよっと」と言いながら、キャッチして拾い上げた。これはワゴンの独り言である。と同時に、爆弾がうっかり床に落ちて爆発しないように、きわめて素早く機敏に対応した行動でもある。

「やったー」と5号カグラが言った。これは感嘆の表明でもあるし、「解決した」という状況認識の提示でもある。「激しく大成功」とワゴンが言った。これも同様であり、「解決」認識の提示である。

トッキュウ2号に扮したヒカリが、乗り換え装置によって本来のトッキュウ4号の姿に戻り、3号ミオにしっかり捕捉されている怪人に対して「引っ掛かってくれたな。」と言った。これもまた「解決」認識の提示であるが、あえてその「トリック」からすべてを相手にわざわざ見せつけるように行ない、相手を悔しがらせている。これは「報復する」とでも言った行為に近いだろう。怪人はトッキュウジャーたちをさんざん翻弄し、命の危険にもさらしたので、その阻止を言葉ではっきりと「思い知らせる」ことまでしたかったのだろうと思う。ともかく、この「報復」は「相手の失敗を通告する」という発話行為によってなされている。

「貴様ー!だが喜ぶのは早いぜ。言ったよな。タイムリミットは列車が限界を迎えるまでって。どうやらその時が来てるんじゃないか。もうバランスは保てない。突っ込んだら町も人間も巻き込んで大惨事だ。ひゃははははー。ゲームは俺の勝ちだ。」と怪人は言った。これは、トッキュウジャーメンバーたちが「解決した」という認識を提示したことに対しての、「異議申し立て」および「勝利宣言」である。「まだ解決してないだろう」というわけだ。それによって、ヒカリがなした「報復」をも無効化しようというわけでもあろう。どうやらこの怪人は勝ち負けに必要以上にこだわるタイプのようで、発話の特徴にも表れている。

トッキュウ3号と4号は怪人と爆弾とを、車外に放擲した。それらは爆発した。この行為は意図がよくわからない。たぶん、そうすれば怪人が倒せると推測していたのだろう。また、怪人が宣言したような「危機」への対処のために怪人が邪魔である、と考えたのかもしれない。だが、これはうまくいったからいいようなものの、本当にこれで怪人が倒せるのかは不明なわけだから、実際には賭けの要素の強い行為であった。ともあれ、怪人が最後に残した「勝利宣言」に対して、言語で応接した者は居なかったことになる。

戦闘が終わり、ディーゼルが元の博物館の裏に戻ったときの場面である。

  1. 「結局ここに戻っちゃったけど、気に入ったんだな、ここ。」とライトが言った。
  2. 「長く居たから待機場所としてインプットされただけでしょ。」とヒカリが言った。
  3. 「いや、気に入ったんだって。」とライトが言った。
  4. 「まあまあ、どっちでもいいじゃない。もういつでも呼べば来てくれるんだから。」とミオが言った。

「結局ここに戻っちゃったけど、気に入ったんだな、ここ。」とライトが言った。これは誰かが応接しても良いし、しなくても良いような言い方である。「感慨の表明」とでも定式化できるかもしれない。ライトはこのディーゼルにことのほか愛着が深く、その愛着によってこの列車を「復活」させることができたのではないかと視聴者に思わせるほどであった。なので、「本当なら一緒に同行したかった」という気分を「戻っちゃった」という言い方で提示している。だが、「したがって残念だ」という言い方にはならずに「気に入ったのなら、それで良い」とでもいうように聞こえる感慨深げな言い方になっているわけだ。「感慨する」などという言い方は日本語にはたぶん無いのだが、要はそう総括できるような発話になっている。

「長く居たから待機場所としてインプットされただけでしょ。」とヒカリが言った。これは列車を擬人化して理解するかしないかの相違の表われとでも言えるだろうか。ヒカリは列車を擬人化したりせず、即物的にのみ理解している、ということのようだ。要するにこれはライトの「感慨の表明」に対する「異議申し立て」である。

「いや、気に入ったんだって。」とライトが言った。これはヒカリの異議申し立ての発話に対する「却下」ないし「否定」である。その点に関してはライトは譲る気はまったく無いらしいことが窺える。

「まあまあ、どっちでもいいじゃない。もういつでも呼べば来てくれるんだから。」とミオが言った。「まあまあ、どっちでもいいじゃない。」というのは、少し大仰になるが「仲裁する」とでもいうような発話である。「もういつでも呼べば来てくれるんだから。」というのがその理由として述べられている。つまり、ライトとヒカリの擬人的な理解の相違など些細であることの理由である。肝腎なのは「呼べばいつでも来てくれる」ことのほうである、という認識を示し、それを理由として仲裁しているわけだ。

ディーゼルを子どもが見て指差したのち去っていった後の場面である。

  1. 「ここならさみしくないね。」とカグラが言った。
  2. 「だね。似合ってるよ、ここ。」とトカッチが言った。

「ここならさみしくないね。」とカグラが言った。これもまた「感慨の表明」とも言える。ただ「ね」という言い方をしているため、独り言的ではなく、誰かに応接・同意を求めているようにも聞こえる。

「だね。似合ってるよ、ここ。」とトカッチが言った。「だね。」の箇所で、カグラの求めていた「同意」を表明し、「似合ってるよ、ここ。」というふうにカグラの感慨に対して、付加・補足といったものを行なっている。

カグラもトカッチも、ライトと共通するような方向での感慨を表明しているわけだが、ライトがその際使った「ここ」という指示詞を、そのまま踏襲している。言い換えたりなどしていないのだ。ライトは当初この場所を探し当てる際には「博物館の裏のほう」という言い方を頼りに探していた。だが、その言い方はこの会話のシークエンスのなかには登場しなかった。「ここ」なのである。偶然と言えば偶然かもしれないが、感慨深げにしている者は皆「ここ」という言い方で統一して表現していたことを少し気に留めてはおきたい。

第08話の主な会話の箇所の記述・描写は、可能な箇所はまだ有ったと思うが、それでも主要なものはだいたい行なったと思うので、ここで終わらせたい。今回扱った箇所には、あまり会話らしくない箇所も含まれていた。