会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第07話

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はじめに

テレビ朝日系放映番組「烈車戦隊トッキュウジャー」第07話での会話の構造を、少し明確にしてみたい。そして、その会話の構造をどのように「記述」「描写」してみるのが良いのかを検討したい。ここで「記述」や「描写」に用いられる語彙というものを、中学生以上なら使うことができて良い語彙として提示する試みである。趣旨の説明は「会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第01話」の最初の節を参照してほしい。

烈車戦隊トッキュウジャー第07話 会話の構造の説明例

トカッチ、ミオ、カグラ、ワゴンの居る車両へ、ライトが入ってきたところから場面は開始する。

  1. 「おはよう!」とライトは言った。
  2. 続けて「さて、たっぷり寝たから、腹ペコー。」と歌うような調子で独り言じみたことをライトは言った。
  3. カグラが下を向いて黙っている。ライトがそれに目をとめた。
  4. トカッチが「おはよう」とライトに言った。
  5. ミオが「おはよう」とライトに言った。
  6. ワゴンが「はーい」とライトに言った。
  7. 少し沈黙があり、ライトが「あれ、何?カグラ?どうかしたの?」と言った。
  8. ミオがカグラを覗き込み、トカッチも少しカグラを気にしている様子だが、返事は無い。
  9. ライトが、その席の前に並べてあったDVDに目をつけた。「おっ!忍者映画。どうしたのこれ?」と言った。
  10. ワゴンが「車掌さんのコレクション。ほかの映画もタップリ有るのよ。」と言った。
  11. トカッチがしばらく聞き取りにくい呼吸音をあげたあと、ライトに「ぼくが…カグラのなりきりバリエーションが増えるかと思って…薦めてみたんだけど。」と言った。
  12. ライトが「あ、なりきり、やっちゃった?」と言った。
  13. ミオが「うん。夕べ映画見たあとに、なりきりすぎちゃったみたいで。」と言った。
  14. そこで、できごとの経緯がひととおり語られたのだろう。カグラはヒカリのけん玉を壊してしまい、けがをさせそうになってしまい、そしてヒカリは怒ってしまい、謝罪がうまくできなかった、ということなのだ。
  15. その説明の間に、ミオが「運悪く、ヒカリが忘れたけん玉が有ってさ。」と言った。
  16. そのあとにカグラが「あたし、ちゃんとごめんなさいって言えなかった。」と言った。
  17. 続けてカグラは「ヒカリ、すごい怒ってて怖くて。」と言った。
  18. ワゴンが「うーん。確かにヒカリ君、クールなところがちょっと怖く見えるかもねえ。でもそういうのがモテたりするのよー。」と言った。
  19. トカッチが「えっ?」と言った。
  20. ミオが「ごめんワゴンさん、今はそういう話じゃないから。」と言った。
  21. ワゴンが「あ、あん。」と言った。
  22. ライトが「つまり、ヒカリに謝ればいいんだろ。よし、俺が一緒に行ってやる。」と言った。
  23. カグラが無言でうなずいた。
  24. しばらくの沈黙ののち、トカッチが「足がすくんじゃってるらしいよ。」と言った。
  25. ライトが「は?」とトカッチに言った。
  26. ミオが「謝っても許してもらえないって思ってるみたい。」とライトに言った。
  27. トカッチが無言で繰り返しうなずいた。
  28. カグラが「私が悪すぎたの。けん玉で危ないことをしただけでもダメなのに、壊しちゃって。」と言った。
  29. ライトが、座っているカグラの目の高さに合わせるようにしてかがんで、「だから、謝るんだろ。大丈夫。根に持つ奴じゃないし。」とカグラに言った。
  30. ミオが無言でうなずいた。
  31. ライトが「ほら、行くぞ。」とカグラに言った。
  32. トカッチが「ぼくも行く。映画見せた責任もあるし。」とライトに言った。
  33. ミオがカグラの肩に手を当てて「カグラ、勇気出して。」と言った。
  34. カグラは無言で首を左右に振った。
  35. カグラは「ヒカリってふだんは言わないけど、私のなりきりとか馬鹿みたい、って思ってたと思う。でももう“みたい”じゃなくて完全な馬鹿だと思われてる。」と言った。
  36. ライトが「じゃあ、それも俺が一緒に聞いてやるから。」とカグラに言った。
  37. ミオが「それはいいよ聞かなくて。」とライトに言った。
  38. ここで車内の照明が消えるという異変が起き、会話はいったんここで別種の話題に変わることになる。

「おはよう」も「はーい」も挨拶である。皆がライトに挨拶をすることで、カグラだけが黙っていることが際立つわけだが、その以前に入ってきたときからすぐにライトはカグラの様子が気になったようだ。入ってきた直後の独り言めいた発話に応接がなかったからかもしれない。そのうえで、挨拶がカグラだけなかったこともあらためて顕在化し、そのしばらくのちにライトは「あれ、何?カグラ?どうかしたの?」と言った。「気にかける」という発話である。この発話に対しては、カグラからも他のメンバーからも特に応答が無い。ミオやトカッチは、カグラの様子を気にしているようであり、自分から切り出したりするつもりはないかのようだ。

その話題を避けようとしたのかどうかわからないが、ライトは、席の前に並べてあったDVDに目をつけた。「おっ!忍者映画。どうしたのこれ?」と「質問」をした。また「おっ!」の箇所は、「発見の主張」とでも定式化できる。ともあれこの質問は応答可能な者が応答すれば良いようになされている。

応答可能な者のひとりがワゴンであった。ワゴンが「車掌さんのコレクション。ほかの映画もタップリ有るのよ。」。「車掌さんのコレクション。」という箇所が質問に対する「返答」であり、「ほかの映画もタップリ有るのよ。」がいわばその補足というか理由の説明である。たとえば「忍者に関するコレクションなのか、映画に関するコレクションなのか」のいずれなのかが、この回答で多少わかるというわけだ。

トカッチがライトに「ぼくが…カグラのなりきりバリエーションが増えるかと思って…薦めてみたんだけど。」と言った。これは、「なぜカグラが黙っているのか」の理由説明の前振りであり、かつ、「なぜ忍者映画がここに並んで置いてあるのか」の理由説明でもある。後者に関しての当事者がトカッチにほかならないので、そのこともあって自分から説明をし始めたように見受けられる。「だけど。」という言い方から、その後に後続するものが期待と違うものであったことが推察される。つまり「なりきりバリエーションが増える」というプランが順調には行かなかったことが推察される。

ライトはこの「前振り」だけでだいたいの事情を察してしまう。「あ、なりきり、やっちゃった?」とトカッチたちに言ったことで、それがわかる。もともとカグラのなりきりに関して、最初から危うんでいたのがライトだったのだから、気づくのも早いのだろう。これは「理解の候補を挙げる」という行為であると定式化できよう。

ミオが「うん。夕べ映画見たあとに、なりきりすぎちゃったみたいで。」と言った。「うん。」でまずその「理解の候補」を肯定しておいて、次いで、それが「夕べ」以降に関係する出来事であることを「説明」した。この「夕べ」というのは、おそらく皆でそろっての夕食よりもあとの、自由時間ということを指すのだと思われる。

ここでは出来事は主に回想映像の形で紹介される。カグラはヒカリのけん玉を壊してしまい、けがをさせそうになってしまい、そしてヒカリは怒ってしまい、謝罪がうまくできなかった、ということなのだ。その映像の合間に、ミオの「運悪く、ヒカリが忘れたけん玉が有ってさ。」というこれは現在の発話が挿入される。これも「状況説明」の続きである。

その回想映像での紹介がひととおり終わったあとに、はじめて明確な形でのカグラからの発話がなされる。カグラが「あたし、ちゃんとごめんなさいって言えなかった。」、そして続けて「ヒカリ、すごい怒ってて怖くて。」というふうに言った。最初のほうは、カグラ視点での「問題の所在」の説明であるといえようか。そして、「ヒカリ、すごい怒ってて怖くて。」というのは、そのことに対する自分の受け取り方を態度で示したものだといえる。すなわち、それを「心細そうに言う」態度によって、そうとしか振舞うことができない自分を提示しているわけだ。

ワゴンが「うーん。確かにヒカリ君、クールなところがちょっと怖く見えるかもねえ。でもそういうのがモテたりするのよー。」と言った。この発言の位置づけ方は難しいと思うが、一つの候補としては「カグラを励ましている」とでもいうように位置づけることができる。「モテたりする」くらいの態度なのだから「心配」は要らない、とでも励ましている、ということも言いうるのだ。他の仕方で位置づけることも可能かもしれない。

だがここでの争点は「怖く見える」かどうかではなくて「実際に怒っているか、どの程度怒っているのか」なのであるから、モテるモテないは関係はない。その関係のなさに、他のメンバーは応接した。トカッチが「えっ?」と言ったのも、その関連のなさに対しての「驚きの表明」であるし、ミオの「ごめんワゴンさん、今はそういう話じゃないから。」というのは、わりと正面からのその指摘である。この「ごめん」というのは、おそらくワゴンの発話を「カグラへの励まし」と受け止めての応接だ。「ごめん、その励ましは的外れだから」というわけだ。

ワゴンが「あ、あん。」と言った。「残念がる」ことをしている発話だと言えるだろう。

ライトが「つまり、ヒカリに謝ればいいんだろ。よし、俺が一緒に行ってやる。」と言った。「つまり、ヒカリに謝ればいいんだろ。」というのは「理解候補の提示」くらいに定式化できるだろう。そして、「よし、俺が一緒に行ってやる。」というのは、「名乗りを上げる」「引き受ける」「請け負う」などといった語で記述可能だと思う。

カグラが無言でうなずいた。「応諾」したわけだ。しかしその後も特に動きがない。それをいちはやく見て取ったのか、トカッチが「足がすくんじゃってるらしいよ。」と「説明」をした。この説明の「らしい」の箇所に注意したい。これは「推測」するときの言い方ではなく「伝聞」であるときの言い方である。つまり、今回に始まったことではおそらくなかったのだ。ライトがそこに現れる前にも、やはりカグラが謝りに行こうとして行けなかったことがあり、そのときの状況が「足がすくんで動けなかった」というふうに説明されたということなのだろう。その「伝聞」からの類推としてトカッチは「説明」をしている、とそのように見なすべきだろう。

ライトが「は?」とトカッチに言った。この「は?」はけっこう強めの疑念の表明である。なので、「さらなる説明の促し」にも聞こえうる。実際、さらなる説明がその後ミオによってなされる。

ミオが「謝っても許してもらえないって思ってるみたい。」とライトに言った。この発話に対してトカッチがすぐにうなずいた。トカッチのうなずきは、ライトによって「説明の促し」をされたと受け止めたうえでの、それに対する応接の一種であるように見える。つまり、自分の代わりにミオが言ってくれた、というわけだ。さて、ミオの発話の「思ってるみたい」の「みたい」というのは、伝聞というよりはむしろ推測に使う言い方だろう。要するにカグラから直接聞いたわけではないけど、そのように推測ならできる、というそういう主張をしているように聞こえる。なのでこの言い方によって、結局はカグラ自身からの説明がないと状況が充分にはわからない、ということが示唆されることになる。そのためかどうか、ライトやワゴンなども、ミオの発話に対して、何らかの発話上の応接をしなかった。

カグラが「私が悪すぎたの。けん玉で危ないことをしただけでもダメなのに、壊しちゃって。」と言った。「私が悪すぎたの。」が結論であり、「けん玉で危ないことをしただけでもダメなのに、壊しちゃって。」というのがその理由説明であるような構造になっている。「私が悪すぎたの。」は結論であると同時に「だからヒカリが許さなくても、ヒカリは悪くない」という帰結をもちうる主張でもある。それはそのまま「だからヒカリはきっと許さないだろう」という帰結にも転化しうる。これがそのまま「足がすくんで動けない」ことの理由説明にまでなるかどうかはともかく、カグラが「許してもらえる見込みの無い相手に謝りに行く」ことを想定していることまではわかった。

ライトが、座っているカグラの目の高さに合わせるようにして、かがんで「だから、謝るんだろ。大丈夫。根に持つ奴じゃないし。」と言った。「だから、謝るんだろ。」という発話は「説得」と定式化できるだろう。その理由説明が後続する。「大丈夫。根に持つ奴じゃないし。」が理由ということになり、「要は時間が解決する問題に過ぎない」というふうに主張し理由づけたわけだ。「根に持つ奴じゃないし。」の箇所ではミオもうなずいていた。そのミオの行為によって、これがライト一人の判断ではなく、或る程度の客観性のある判断であることが、示される。いわば「援護」である。

ライトが「ほら、行くぞ。」とカグラに言った。これは動作のレベルで動き出すことを「促す」という発話行為である。そして「ほら」という言い方は、「すでに話に出てきたもの」を前提にしているように聞こえる言い方でもある。つまり「行くぞ。」の理由などはすでに挙げてあり、それを指したり前提したうえで「行くぞ」と言っているように聞こえるのである。だからこの促しは「わかっているはずの相手」への促しという種類のものでもある。

トカッチが「ぼくも行く。映画見せた責任もあるし。」とライトに言った。言った相手はライトだが、むろんカグラにも聞こえるように言っているのである。一種の「提案」的な発話である。これは「映画見せた責任」を自分も負うということで、カグラの感じている責任意識を少しでも軽減しようという効果をもちうるものである。また、一般的に言えば謝りに行く人数が多いほうが心強いはずである、という判断が可能となる、そういうやり方でもある。ライトも、トカッチのその発話に軽くうなずいた。

ミオがカグラの肩に手を当てて「カグラ、勇気出して。」と言った。これも「促す」と同時に「励まし」でもあるだろう。だが、カグラは無言で首を左右に振った。これは「拒否」または「却下」だが、それがどの次元でのものだかは、まだこれだけではわからない。

カグラは「ヒカリってふだんは言わないけど、私のなりきりとか馬鹿みたい、って思ってたと思う。でももう“みたい”じゃなくて完全な馬鹿だと思われてる。」と言った。どうやらこのあたりに「核心」があったように聞こえるわけだ。つまり、「今回の一件」以前から「自分はあまりよく思われていないだろう」という、劣等感なり苦手意識なりのようなものがある、ということを含んだ説明なのである。その以前からのものに今回の一件が加わって、よけいに悪化した、だからダメだ、というそういう話なのである。だから「根に持つヤツじゃない」というライトの認識が無効にもなりかねないわけだ。で、これは「カグラの考えの説明」でもあるが、事態に対してもつ関係ということでいえば「理解の候補の提示」ということでもある。カグラは、事態に対する理解の候補を提示した、そのことによってカグラの考えを皆に説明した、とそういうふうな位置関係にあると記述できるだろう。

ちなみに回想映像ではヒカリは「何、馬鹿なことしてるわけ」と言っていたのだから、「完全な馬鹿だと思ってる」という感じ方には十分な根拠があることも確認しておこう。

ライトが「じゃあ、それも俺が一緒に聞いてやるから。」とカグラに言った。この「じゃあ」は、カグラのその理解が事態の核心にありそうだという見方に対応している。それが核心部分であり重要事であるのなら、それならば「聞いてやる」というわけだ。この発話は「提案」とも「援護」ともいえるだろう。

ミオが「それはいいよ聞かなくて。」とライトに言った。つまりライトの発話を「却下」ないし「否定」した。この点を少し詰めてみよう。カグラにとっては、ヒカリに謝ることが難しいわりと中心的な事情は「もとから馬鹿だと思われていた」という想定にある。だが、その点に関して謝罪をしなくてはいけないわけではない。つまり、責任問題と原因とは別の事情に由来している。責任問題に限定して、謝罪すべき点を謝罪するということにしっかりと限定をするのであれば、「ふだんから馬鹿だと思っていたか」まで確認したり問い尋ねるべき必要は、ない。次元の異なる問題を一緒くたにすることで、解決できず混乱させることは、おそらく日常でもよく見られることだろう。ミオのこの発言は、そういったよくありそうなトラブルを「防止」し、「問題解決」に必要な事だけに限定することに、寄与する。そのように位置づけることもできると思う。

ここで車内の照明が消えるという異変が起き、この話題はいったん中断されることになる。

怪人の攻撃によって、ライト、トカッチ、ミオの三人が激しい無気力になってしまった。その様子を面白がってワゴンが写真撮影などをしている。そういう場面である。

  1. カグラが「どうすれば戻るんだろう。」と言った。
  2. 車掌が「あの怪人を倒す。これしかないでしょう。」とカグラに言った。
  3. チケットが「はーこんなみっともない姿にされてー情けない。ちょちょちょちょっと、ワゴンさん、そんな写真残さないで下さいよ。」
  4. ワゴンが「ええー」と不満そうに言った。
  5. 車掌が「チケット君、まあそういらいらせずに。」と言った。
  6. チケットが「しますよー。怪人倒すって言いましたけどねー。三人もこんな状態で倒せると思いますー?」と言った。
  7. 車掌が「確かに厳しいかもしれませんねえ。」と言った。
  8. ワゴンが車掌の前にとんできて「じゃあ、この駅、後回しとかー」と言った。
  9. チケットがワゴンに「はー?」と言った。
  10. ワゴンが「次の駅まで出発進行!」となかばひとりごとのように言った。
  11. チケットが「できるわけないでしょう。何言ってくれちゃってるんですかこのお馬鹿娘。脳みそ売っちゃったんじゃないですか。」とワゴンに言った。
  12. ワゴンはチケットのほうを向いて「むー」と怒りの感情を表して言った。
  13. 車掌は「チケット君、言い過ぎですよ。」とチケットに言った。
  14. ワゴンは「激しく、やる気消滅ー。」と言った。
  15. 車掌が「ワゴンさん、今のはチケット君の失言ですから。」とワゴンに言った。
  16. ワゴンが「もう働きたくなーい。」と車掌の反対側に向かって言い、別の車両に行ってしまった。

カグラが「どうすれば戻るんだろう。」と言った。これは「助け・助言を求める」という行為に比較的近い発話である。発話の宛先は事実上、車掌かチケットしかいないので、その両方に向けてつぶやいてみたといったものだろう。

車掌が「あの怪人を倒す。これしかないでしょう。」とカグラに言った。車掌は或いは、カグラとヒカリとの間がぎくしゃくしていることを知らない可能性もある。実際にはその二人でのチームプレイからして困難であるかもしれないのだ。ともかく、車掌は、最も当たり前に思いつきそうな事柄を述べるにとどまった。それは暗に「カグラさん、あなたがやらないとどうにもなりませんよ」と述べたのにも等しい。そういうわけで、車掌の発話は「行動することの要求」を示唆した、とでも定式化できるだろう。

一方、チケットが「はーこんなみっともない姿にされてー情けない。ちょちょちょちょっと、ワゴンさん、そんな写真残さないで下さいよ。」と、前半では被害に遭ったメンバーに関して慨嘆し、後半ではワゴンを制止したとでも、定式化できるだろう。「制止」だと少し強すぎるとしても、ワゴンの行動を否定的に評価したことは間違いない。ともかく、被害に遭ったメンバーを面白がっている場合ではない、ということが言いたいことの中心に在る発話である。

ワゴンが「ええー」と不満そうに言った。その「制止」や「否定的評価」に対して、「非同意」の態度を提示したわけだ。

車掌が「チケット君、まあそういらいらせずに。」と言った。これはむしろチケットのほうを「制止」というとこれまた強すぎるが、まあ「宥めた」といったあたりの発話である。チケットが冷静でない場合は、車掌が冷静に振舞うというのが、一つの協働のパターンのようである。ワゴンの「ええー」という発話が比較的強めだったのも、その理由の一つかもしれない。ともかく、ただでさえ危機的状況なのだから、これ以上場を紛糾させないほうが良いに決まっている。車掌の発話を合理的なものにしているのは、おそらくその「これ以上のトラブルは避ける」ことの要請である。

チケットは「しますよー。」と車掌に対して「非同意」ないし「却下」の発話をなした。そして先ほどの、言ってみれば当たり前のことしか言わなかった車掌の発言にも、言及してきた。「怪人倒すって言いましたけどねー。三人もこんな状態で倒せると思いますー?」この発話は疑問文の形をとってはいるが、もちろん「倒せない」と思ってなされているし、相手もそう思っているはずだ、と想定している。つまり、車掌の発話の実現可能性を疑問視・悲観視して述べられている。この悲観というものが、さきの車掌の発話への非同意や却下の「理由」として述べられている、というそういう構造をとっている。

車掌が「確かに厳しいかもしれませんねえ。」と言った。これはチケットの疑問視・悲観視に対して、言わば追認をした発話である。断定こそ避けたが、その一歩手前くらいまでは言っている。ここでもまた、車掌は「これ以上のトラブルは避ける」の原則には従って、チケットに反対はせず、しかしそれ以上の何かの進展をさせることができないでいる、といった状況にある。

その進展させられない状況に、突然妙な一石を投じたのがワゴンであった。車掌の前にとんできて「じゃあ、この駅、後回しとかー」と言ったのである。後回しにしたところで、別に、無気力になった三人が回復するわけではない。のだが、「二人だけで敵と戦う」よりはましかもしれない。しかしともあれ問題の解決を単に回避するのに過ぎない発案である。また、車掌たちも知らないかもしれないが、実は問題を先延ばしにするほど事態は悪化していくというそういう被害なのでもあった。いずれにせよチケットは、実際の被害の想定をすることよりは、ワゴンの態度のほうに注意が向いてしまって、その点に言及するという展開となる。

チケットがワゴンに「はー?」と言った。この発話は、「否定」したというくらいの定式化で良いと思う。

ワゴンは、意に介することなく、「次の駅まで出発進行!」となかばひとりごとのように言った。これは問題を解決することを提案しているのではなく、単に実現可能性のある選択肢の一つを述べているに過ぎないのである。そして問題は解決されることはない。

チケットが「できるわけないでしょう。何言ってくれちゃってるんですかこのお馬鹿娘。脳みそ売っちゃったんじゃないですか。」とワゴンに言った。チケットのほうも、きちんとした現実的な説得ができない精神状態になってしまっているようである。説得ができないまま、ただ単に、相手を否定的に評価し、悪口を述べるだけになってしまっている。

ワゴンはチケットのほうを向いて「むー」と怒りの感情を表して言った。もしワゴンが彼女なりのしかたで「場を和ませよう」などと殊勝なことを考えたうえでの発言であった場合なら、怒るという展開も特にありうる。また、そうでなくても、チケットは言う必要のないことまで言ってしまった。

車掌は「チケット君、言い過ぎですよ。」とチケットに言った。これは「諌止」したのである。「いさめた」という言い方のほうがわかりやすいかもしれない。車掌のこの時の行動原理は何度も述べるが「これ以上のトラブルは避ける」に尽きているのである。なので、こう出るしかないだろう。

ワゴンは「激しく、やる気消滅ー。」と言った。これは「宣告」あるいは「態度表明」である。言いながら、その場から去って行った。

車掌が「ワゴンさん、今のはチケット君の失言ですから。」と「制止」するも、もうそれは有効ではなかった。ワゴンが「もう働きたくなーい。」と車掌の反対側に向かって言い、別の車両に行ってしまった。これで完全に「宣告」になった。車掌の「制止」に対する応答にももはやなってはいない。その制止の存在を踏まえているだけである。

シャドーラインにて、怪人が集めた闇がノア夫人のもとに届けられた。

  1. ノアがふたを開けて出てくる闇を見ながら「これは良い闇。さすがはハンコシャドー」と言った。
  2. 続けてノアはグリッタに容器を渡して「さ、グリッタ。これであなたの美しさに磨きをかけなさい。」と言った。
  3. ネロ男爵がそれを見ていて「なるほど、まあまあですな。」と言った。
  4. ノアが「まあまあ?無気力に堕落した人間が生み出した最上級の闇ですのよ。これこそ皇帝陛下にふさわしい闇ですわ。」と言った。
  5. ネロが「それは闇の皇帝陛下がお出ましになればわかること。いずれが最も陛下に忠誠を尽くしたか。もし一瞬でも“こやつは要らぬ”と陛下に思われれば、その瞬間にも消滅する。ふふ。お互い気をつけたいものですな。」とノアに言った。

ノアの「これは良い闇。さすがはハンコシャドー」という発話は、ひとりごととしてなされているが、しかし他の者が応接・言及することは可能である。また、この発話内容を踏まえた発言をすることも可能であり、実際、その後のネロの発話はそういうものになっている。

続けてノアはグリッタに容器を渡して「さ、グリッタ。これであなたの美しさに磨きをかけなさい。」と言った。どんな方法でかはわからないが、その方向性にそった行為を「促し」たのである。「命令」という記述だと強すぎる。

ネロ男爵がそれを見ていて「なるほど、まあまあですな。」と言った。これは先ほどのノアの発言を踏まえており、それよりも少し低めになるようにわざわざ言ったように聞こえるものだ。つまり「相手の気分を少し悪くする」くらいのあたりを狙って言ったように感じさせる。「なるほど」という言い方で、まず相手の発言や行為を肯定するように期待させておいて、しかし「まあまあ」という言い方で特徴付けてしまうわけである。「まあ」に肯定から否定までの幅があるのとおそらく同様に、「まあまあ」にも幅がある。「まあまあである」から「まあまあでしかない」までである。その後者であるようにノアには聞こえるように、意図的になした発言であると言ってよい。そう言ってよいのは、結局毎週のようにこの二人はこういうやり取りをしているからにほかならない。この一回だけで意図性を問うことはできないと思う。あと、「ですな」という言い方からもわかるように、そもそも「評価を下す」こと自体もいくぶん不躾にも思える。以前にもこの種のネロの言い方は出てきたが、それと同様に「上から目線」や「高圧的」というふうにも聞こえうる。

ノアが「まあまあ?無気力に堕落した人間が生み出した最上級の闇ですのよ。」とこれまた、相手が下げた分だけよけいに「上げた」と言えるような言い方、つまり「最上級」という語を用いて、自画自賛をした。そして後続する発話からわかるように、その評価基準というのは、彼らの言わば「外部」にある。「これこそ皇帝陛下にふさわしい闇ですわ。」というのがそれである。「ふさわしい」かどうかが、その闇の品質を決める基準なのだ。そしてノアは、ここで「自分にはそのふさわしさの判断ができる」というふうに振舞っていることになる。

なので、やはりその点をネロは突いてきた。「それは闇の皇帝陛下がお出ましになればわかること。」というのがそれである。この言い方は、「皇帝陛下にふさわしいかどうかを決めるのは、あなたで良いのか」という疑念を、強く含意している。そして、「いずれが最も陛下に忠誠を尽くしたか。もし一瞬でも“こやつは要らぬ”と陛下に思われれば、その瞬間にも消滅する。ふふ。お互い気をつけたいものですな。」とまで言った。これは「威嚇」でもあり、また「ふふ」というあたり「自信の表れ」でもあると言えるが、「最も」という箇所が注目される。つまり、ネロとノアとの間に、どういう形にせよ「順位」がついてしまうこと、「一番」とそれ以外とに分かれるということを示唆しているのである。とは言え、「どっちもどっち」になる可能性だって本当はあるわけだが、ともかくネロの発言はそういう事態は考慮に入れていないものになっているのである。「最も」という語を用いることで、「一番忠誠を尽くした者」というものが決まる、ということを前提にした発話になっているのである。そこでさらに補足すると、次のことも言える。ネロがどこまで意図的かはわからないが、この言い方は「保身」にばかり長けている者を皇帝陛下は評価しない、ということを含意しており、それは後続するノアの独り言からうかがえるノアの状態にまさに当てはまってしまうのである。自分の娘を「切り札」と呼んでいるのがそれにほかならない。「忠誠を尽くす」と「保身」とはまずは対立概念だと言ってよい。そしてノアはその「保身」が評価されない可能性に全く気付いていない。このように、ネロの発話に含まれている含意をそのようにして、いろいろと引き出しておくことは可能であり、それをここに書いてみたのである。

  1. グリッタが「あの、シュバルツ様、これをどうぞ」と、さきほどノアから受け取った「闇」の入った容器をシュバルツに差し出した。
  2. シュバルツは「私に?情けは無用と申し上げたはず。」とグリッタに言った。
  3. グリッタは「私はただ、このあいだのお怪我が早く治るのではと。」とシュバルツに言った。
  4. シュバルツは「お気持ちだけいただく。」と言って去って行った。
  5. グリッタは、声にならない声をあげてシュバルツのほうを見ていた。

グリッタが「あの、シュバルツ様、これをどうぞ」と、さきほどノアから受け取った「闇」の入った容器をシュバルツに差し出した。後述されるように、怪我の治療にも役立つということらしい。そして、母親ノアからの「促し」はまるで無視しているかのようである。いずれにせよ、グリッタはシュバルツに「贈与」をした、と記述すれば良いのではないかと思う。その「贈与」は他の用途の想定を押しのけるほどのものであり、自発的なものであった。

シュバルツは「私に?情けは無用と申し上げたはず。」とグリッタに言った。理由は不明だがグリッタからの贈与を却下したのである。

グリッタは「私はただ、このあいだのお怪我が早く治るのではと。」とシュバルツに言った。この発話は少し難しい。「ただ」という箇所が難しいように思うのだ。「情けをかける」こととくらべて「ただ単に怪我が早く治ることを願う」ことが、話として小さめのサイズの話になっているような気がしない。「ただ」という言い方は、もう少し話のサイズが縮小されたときに使うものだろう。とそのように思える。だとすると、ここで比較されているのは、「シュバルツは敗軍の将なんかではない」という認識が、グリッタからすれば「情けをかけた」ものではなく、「事実」である、というそういう捉え方があり、それとの比較ということになるだろう。「シュバルツが敗軍の将であるかどうか、という点はおいておいて、ただ単に怪我が早く治れば、とだけ思った」というそういう比較であるのかもしれない。もともとは「情けをかける」というのが、「敗軍の将であるか否か」問題にも、「早く怪我が治る」問題にも適用できてしまうことから、この難しさが生じている。ただそこで、シュバルツは「早く怪我が治る」問題として言ったつもりの「情けをかける」という表現が、グリッタからは「敗軍の将であるか否か」問題のように把握され、そのため「ただ」という言い方でそれよりはサイズの小さい話になります、という説明のしかたになったのではないか、…とそのように推察が可能である。ともあれ、この発話はグリッタの「意図の説明」であり、あるいは「正当化」である、と定式化できる。

シュバルツは「お気持ちだけいただく。」と言って去って行った。おそらくシュバルツはその贈与された「闇の入った壺」のようなものが、本来自分の怪我の治療のために使われるために収集されたものではない、ことを知っている。つまり、それを自分のために提供しようというのがグリッタの独断であり、シャドー全体の利益に必ずしも適うものではないことを知っている。さきほど不明だと述べたが、相手の好意だけを受け止め、提案は却下するというこの在り方をもっとも説明できるのは、上記のようなシュバルツの認識なのではないかと、筆者は考えた。

グリッタは、声にならない声をあげてシュバルツのほうを見ていた。おそらくシュバルツの怪我を案じる気分と、好意を受け取ってもらえなくて残念という気分とが、ないまぜになったものであろう。そのように推測可能なようにして、この声にならない声は上げられている。

戦える状態にあるヒカリとカグラの二人が出動しようというときの場面である。

  1. しばらく二人とも黙り込んでいいたが、ヒカリが「ごめん。」とカグラに言った。
  2. カグラが「え?何が?」とヒカリに言った。
  3. ヒカリが「けん玉壊れたくらいで、あんなに怒ったこと。」とカグラに言った。
  4. カグラが「え、そんな。悪いのは私だし、もしかしたらヒカリが怪我したかもしれないんだし。ほんとうにごめんなさい。」とヒカリに言って、カグラは頭を下げた。
  5. ヒカリは「それとは別。普通なら笑って終わりだよ、あんなの。けど、あの瞬間、気づいたら…ほんと、何で。」とカグラに言った。
  6. 続けて「とにかく気まずかったんだよね、今朝は。だから、ごめん。」とヒカリはカグラに頭を下げて言った。
  7. カグラは「んーん。全然。」とヒカリに言った。
  8. 続けてカグラは「そっか。私、完全に嫌われたと思って、いつもなりきりとか馬鹿みたいって思ってたろうなって。」とヒカリに言った。
  9. ヒカリは「ああ、それはちょっと思ってる。でもそれがお前だし、いいんじゃない。それに今からそのなりきりが必要だしね。」とカグラに言った。
  10. カグラは「え?」とヒカリに言った。
  11. ヒカリはカグラに笑みをうかべてみせた。

ヒカリのほうから「ごめん」と切り出された。ヒカリもカグラもこの一言を言うのに大変な勇気や覚悟が必要だったことは、すでに或る程度カグラの立場からのものとして説明されている。ただ、この時点では、登場人物だけでなく視聴者もまだヒカリの「ごめん」が何についての謝罪なのかが、わからない。というか提示されていない。ともかく、これは「相手を無視するつもりはない」という態度表明でもある。特にカグラの側からするとそう捉えられる。「ごめん」と言った者が、その後冷厳な態度をとるとは思えないからだ。

だから、そこではじめてカグラのほうが「え?何が?」と質問をした。この質問の内容自体は全く自然なのだが、それを「実際に言い出して良い」というふうに発言権という権利を「ヒカリのほうからごめんを言ったこと」によって、カグラに与えられた格好になっているのだ。

ヒカリが「けん玉壊れたくらいで、あんなに怒ったこと。」とカグラに言った。これは、「謝罪の続き」であり、「理由説明」とでも位置づけられよう。ただけん玉は自然に壊れたのではなく、人が壊したのであり、壊した本人が「はい、そうですね」と即座に応諾することは、あまり道徳にかなっていない。なので、カグラもやはり次のように発話することになる。

カグラは「え、そんな。悪いのは私だし、もしかしたらヒカリが怪我したかもしれないんだし。ほんとうにごめんなさい。」とヒカリに言って、カグラは頭を下げた。カグラはここで、「けん玉壊し」の件と、「ケガさせそうになった」件と、二つで謝罪しないとならない状態になっている。前者に関してはヒカリの謝罪内容ですでに許容されていたこともあり、前者に関しては「そもそもの原因を作ったこと」に主眼をおいて謝罪し、そして後者のほうを強調するような仕方で、カグラは謝罪した。

ヒカリは「それとは別。」とまず言った。これは「ケガさせそうになった」件についてだ。これは「別」扱いだが、そこを追及したりはしなかった。むしろ「別」でないほうの「けん玉壊し」の件のほうに言及を進めた。「普通なら笑って終わりだよ、あんなの。けど、あの瞬間、気づいたら…ほんと、何で。」とカグラに言った。これは、「当惑の表明」である。「あの瞬間、気づいたら…ほんと、何で。」というのは、当人にとっても当惑していたことの説明なのである。この箇所に述語が無いのでわかりにくい表現だが、「なぜあんなに怒ったのか」という当惑なのである。

続けて「とにかく気まずかったんだよね、今朝は。だから、ごめん。」とヒカリはカグラに頭を下げて言った。この「ごめん」は、「怒ったこと」についてだけでなく、「気まずかったから何も言えなかったこと」への「謝罪」でもある。

カグラは「んーん。全然。」とヒカリに言った。この発話は少しややこしいかもしれない。カグラは本来なら、自分のほうも謝る立場にある。一方で、ヒカリのほうも謝り、そしてそれに関して、責めるつもりはカグラには全然ない。こういうときに、「許す」という行為が成立しがたいわけだ。つまり、どちらかと言えば先に原因を作ってしまったカグラのほうがここで「許す」ことが成立するのは難しい。そのような場合、「気にしていないという態度表明」とでもいった行為として成立させるしかないだろう。

続けてカグラは「そっか。私、完全に嫌われたと思って、いつもなりきりとか馬鹿みたいって思ってたろうなって。」とヒカリに言った。これは、責任問題や謝罪とは別の問題である、がカグラにとってはそうではなく、むしろ核心に属する問題なのであった。これは、直後にすぐに謝罪することがあまり簡単にはできなかった理由の説明にはなっている。「完全に嫌われたと思っ」たというわけである。そして、このカグラの「なりきり」という性質は、小学生時代には素質は無論あったわけだが、まださほど公然のものではなかった、ということも重要である。当時「なりきり」の本態はライトくらいしか把握していなかったのだ。なので、昔仲良かったとしても、この「なりきり」まで現在の彼らに認められたとは限らない。再会してから公然のものとなった性質なのだ。なので、この点を現在のカグラが心配する、ということは決して奇異なことではない。ともかく、ここでカグラは日頃から心配している事柄を、話題として顕在化させることを行なっている。

ヒカリは「ああ、それはちょっと思ってる。でもそれがお前だし、いいんじゃない。」と言った。これは「馬鹿みたい」と思わないわけでもないけど「嫌い」ではない、という回答である。嫌われているかがカグラの心配事だったのだから、これでいったんは問題の解決ということになる。

そしてヒカリは、次のように続けた。「それに今からそのなりきりが必要だしね。」。「今から」というのは、シャドーとの戦闘にということだ。ともかくここでは「なりきり」が「必要」という位置づけをヒカリによって与えられたことになる。そして、その「必要」ということが、「それがお前だし、いいんじゃない」の理由づけにも少し聞こえることもポイントである。

カグラは「え?」とヒカリに言った。今まで「馬鹿みたいだと思われてる」と心配だった「なりきり」に対して「必要」とまで言われたための、「疑念の表明」ということになろう。ヒカリはカグラに笑みをうかべてみせた。この笑みで何か「考え」(「作戦」)がヒカリの側にあるらしいことが推察できる。

ハンコシャドーの前に、ヒカリとカグラが現れた場面である。

  1. シャドーが「貴様ら、堕落しに来たのか。それとも死にに来たのか。」と二人に言った。
  2. ヒカリが「どっちでもない。」とシャドーに言った。
  3. カグラが「お前を倒しに来た。」と指差してシャドーに言った。
  4. シャドーは「無理だな」と言いながら攻撃を開始してきた。

シャドーが「貴様ら、堕落しに来たのか。それとも死にに来たのか。」と二人に言った。これは、一度戦闘した相手であることをシャドーの側が認識したうえでの、発言である。その際に、シャドーはこの二人にダメージを与えることができなかった。他方、他の三人は戦闘不能な状態にすることができた。なので、戦闘可能な二人だけで、再度自分に戦闘を挑もうとしていることがシャドーにはわかる。しかし、自分のほうが負けるつもりはシャドーには無い。そこでいわば二人を「挑発」するような発話をした、というわけだろう。「選択肢はその二つしかない」という「挑発」ないし「宣言」である。

ヒカリが「どっちでもない。」とシャドーに言った。その宣言自体の「否定」である。

カグラが「お前を倒しに来た。」と指差してシャドーに言った。これは、シャドーによって提示されなかった、そして提示されるはずのない、第三の選択肢である。これによって、「宣言」の応酬を行なったわけである。

シャドーは「無理だな」と言いながら攻撃を開始してきた。そのカグラの宣言の「否定」であり、とは言え、もはや言葉のレベルでのやり取りをする気もなく、実行あるのみ、というそういう状態での発話である。

シャドーの及ぼしていた「術」が解けたことによって、ようやく普段通りに戻ったライト、トカッチ、ミオが遅れて戦闘現場に到着した場面である。

  1. トカッチが「ヒカリ、カグラ、お待たせ。」とヒカリ・カグラの二人に言った。
  2. ミオが「迷惑かけてごめん。」と二人に言った。
  3. トカッチが「ごめん」と二人に言った。
  4. カグラが「みんな、大丈夫?」とミオたち三人に言った。
  5. ライトが「完全復活!やる気満々だ。」と言った。
  6. トカッチが「ああ」と言った。
  7. シャドー怪人が「こっちは貴様らを殺る気満々だ。」と五人に言った。
  8. その怪人を、ライトがすかさず銃撃した。ライトは「悪いな。こっちもだ。」と怪人に言った。

トカッチが「ヒカリ、カグラ、お待たせ。」とヒカリ・カグラの二人に言った。「お待たせ」というのはもちろん「待たせていた」ときに述べる、少し「謝罪」寄りの発言であるが、同時にまずコミュニケーションのチャンネルを開く発話でもある。すでにそこに居るメンバーに対して、そこに新たに現れた者によって使われるものだろう。

ミオが「迷惑かけてごめん。」と二人に言い、トカッチが「ごめん」と二人に言った。コミュニケーションのチャンネルを開いたあとに、「謝罪」が後続するという標準的な発話のパターンである。「謝罪」とは言っても、悪事を働いたわけではなく、必要な援助ができなかったということへのものだ。

カグラが「みんな、大丈夫?」とミオたち三人に言った。これは「気にかけた」くらいの発話であろう。そこに登場してきている時点で、シャドーの術が解けていることはわかる。あとは、後遺症のようなものが無いかだけを心配すれば良い。

ライトが「完全復活!やる気満々だ。」と言った。ライトの応答がこの「後遺症など」まで含めての心配に応接したものであることが見て取れる。ヒカリとカグラへの「宣言」でもある。

トカッチが「ああ」と言った。これもライトに同調することで「賛同」ないし「補完」したと言える。

シャドー怪人が「こっちは貴様らを殺る気満々だ。」と五人に言った。この言い方だと漢字での表記が「殺る」であるのがふさわしいように聞こえる。「貴様らを」の「を」という助詞が特にそう聞こえる理由だろう。これはライトの宣言に対する応酬になっている「宣言」でもある。

ところがその怪人を、ライトがすかさず銃撃した。ライトは「悪いな。こっちもだ。」と怪人に言った。応酬へのさらなる応酬である。そして、より強めた「宣言」でもある。

連結バズーカで敵にとどめを刺そうという場面である。その際、メンバーのうち誰かのイマジネーションを活用する必要がある。

  1. ヒカリが「カグラ、お前が決めろ。」とカグラに言った。
  2. カグラが「え?」と小声で言った。
  3. トカッチが「ほら、せっかくDVD見たし。」とカグラに言った。
  4. カグラが「うん。」と言った。
  5. ライトが「ほれ。」とカグラに武器を渡した。
  6. カグラが「うん。」と言って武器を受け取った。
  7. 続けてカグラが「レインボーラッシュ、ハンコ返し!」と言った。
  8. トカッチが「え、忍者じゃないの?」と言った。

ヒカリが「カグラ、お前が決めろ。」とカグラに言った。この怪人との戦闘で中心的役割を果たしたのは、前半で連係プレーでダメージを怪人に与えたヒカリかカグラになる。そのいずれかが、この局面でのイマジネーションを活用するのにふさわしい。そのプレーでイマジネーションをより発揮したのは、カグラのほうであった。その作戦を構想したのはヒカリであった(その構想もまたイマジネーションと呼ぶことはできる)。なので、作戦を構想したヒカリが、この最終局面でイマジネーションを発揮するメンバーを指名するのは、自然な流れである。そういうわけで、この発話は「指名する」とでも呼べるだろう。

カグラが「え?」と小声で言った。おそらくこの局面でメンバーが自分から立候補しないで、「指名」によって決まることが多くなかったから、その決定手続きに不慣れということもあるだろう。以前にカグラが担当したときも自発的に立候補したのであった。そのため、「疑念の表明」がなされた。

トカッチが「ほら、せっかくDVD見たし。」とカグラに言った。これは、カグラがこの局面でのイマジネーション担当になることに、理由付けというか正当化を与えたことになる。「理由付けを与えて、推薦する」くらいの発話行為である。「ほら」という言い方は、「すでに話に出てきたもの」を前提にしているように聞こえる言い方だということは、少し前にも援用した。その「すでに話に出てきたもの」つまりこの場合「DVD」が後続することで、「推薦」がスムーズになされるようになっている。

カグラが「うん。」と言った。この「うん」という肯定が、ヒカリに宛てたものか、トカッチに宛てたものか、あるはその両方なのかが曖昧であり、それがこの場面での「面白さ」を作っている。ふつうに聞くと、トカッチに対して肯定したように聞こえる。だがそう単純ではなかったことがのちにわかる。映像でみると、このとき後姿が映されているのはヒカリのほうであることも伏線かもしれない。

ライトが「ほれ。」とカグラに武器を渡した。これは渡すことのほうに主眼が有り、言語でなくとも可能な行為である。たとえば何かの音を決めておいて、それを合図にしても構わない。何なら無言で行なうことも可能であるし、それでも無作法にあたるとは限らない。ここでの言語による発話はこの種の行為の場合、「道具的」なものでしかない。そのため、この発話を適切に定式化することは難しい。強いて言えば「知らせる」とか「合図をする」くらいのものだろう。そのくらいに、武器を渡す動作に従属した発話である。

カグラが「うん。」と言って武器を受け取った。これは、そのライトの発話を聞き届けたことのこれまた「知らせ」「合図」といったものである。

続けてカグラが「レインボーラッシュ、ハンコ返し!」と言った。これは「宣言」でもあるが、そもそもここで発話すること自体が、攻撃の一環でもあるようにできているので、「宣言」がそれ自体「攻撃」でもある。その点では、さきの「ほい」と言いながら武器を渡すのと似ている。

トカッチが「え、忍者じゃないの?」と言った。トカッチに限らず、カグラの攻撃が或る程度意外であると感じる者が居ることは間違いない。ただ、そう感じるはずの者の筆頭がトカッチであることも明らかだ。さきほどのカグラの「うん」が誰宛なのかいくぶん曖昧だった事情も効いている。なので、これは「驚いてみせた」とでもいった発話になると思う。異議や疑念といったものの表明ではない。

巨大化した怪人を、トッキュウジャーがロボットで応戦している場面である。その操縦室内の会話である。

  1. ヒカリが「これ、距離を取って攻撃したほうがいいかも。」と言った。
  2. トカッチが「うん、遠距離攻撃というと…」と言った。
  3. カグラが「はっ、ライト、カーキャリアー呼んで。いいこと思いついた。」と言った。
  4. ライトが「おっ、よし、任せた。」と言った。

ヒカリが「これ、距離を取って攻撃したほうがいいかも。」と言った。これは「提案」であるが、「問題提起」の要素も含んでいる。つまり、「問題提起+回答の候補の提示」に近い。誰かの問いに対する答といったものではなく、問いと答のセットになっている「提案」なのである。「どういうふうに攻撃すればいいんだろう?」という問いそのものを内蔵しているのである。

トカッチが「うん、遠距離攻撃というと…」と言った。これはヒカリの提示した「提案」を受けいれたうえで、さらに具体的にどのようにやるのか、に関して、「考えることをする」或いは「問うことをする」になっている発話である。

カグラが「はっ、ライト、カーキャリアー呼んで。いいこと思いついた。」と言った。まず「はっ」の箇所で、「今、何か思いついたという主張」と解しうる発話を行なっている。「ライト、カーキャリアー呼んで。」というのは「要求」である。この要求の理由は、「今思いついた」ものと関係あるだろうと期待させる。そして後続する発話で「いいこと思いついた。」とあらためて、その点が明示的に述べられる。「さっきの“はっ”というのはいいこと思いついたということだよ」と「説明」していることになり、同時に、要求の理由説明にもなっている。そういうわけだ。そしてその「思いついたいいこと」はトカッチの「問い」に応接したものに違いない。

ライトが「おっ、よし、任せた。」と言った。「任せた」というのは、「その思いついたいいこと」が何かをカグラに今、説明させたりしない、ということも含む。とにかく、説明よりも先にまず、カーキャリアーの召喚をしてしまおう、という「意思表示」でもある。カーキャリアーを召喚することの意思と、カグラに進行を委任するという意思とを、表示したのである。「よし」という箇所で前者を、「任せた」という箇所で後者を、提示していると解しうる。では最初の「おっ」は何かと言えば、「カグラの要求を理解した」という主張であろう。少なくともライトのような即断即決で物分かりが良い者の場合は、そう受け取って良いように思う。

職務に復帰したワゴンが車内で商品をテーブルに並べている場面である。

  1. ライトが駆け寄って来ながら「おおーーー」と叫んだ。トカッチ、ミオ、カグラも集まって来た。
  2. ミオが「すっごーい。」と言った。
  3. カグラが「うん。」と言った。
  4. ミオが「ワゴンさん、これどうしたの?」と言った。
  5. ワゴンが「お給料がチラッとアップしたので、お・ご・り。」と言った。
  6. ライトが「やったー!」と言い、他のメンバーも口々に喜びを表している。
  7. ライトが「いっただきまーす」といってすかさず着席して弁当を開け始めた。
  8. ワゴンが「どうぞ。」と言った。

ライトが駆け寄って来ながら「おおーーー」と叫んだ。これはかなり「つい叫び声をあげた」ようなかっこうになっているが、それでもある程度統御された社会的な発話行為である。痛さのあまり叫ぶようなものとは、本質的に異なる。「楽しそうなもの」や「喜びそうなもの」を見た時の「期待」をかなり強めに表明したものと言える。彼らが駆け寄ってくる前のワゴンの独り言によると、この並べられている商品のなかには新商品も含まれているらしいので、そういったこともその「期待」に関与しているかもしれない。

トカッチ、ミオ、カグラも集まって来た。ミオが「すっごーい。」と言い、カグラが「うん。」と言った。この「すっごーい。」は充分な至近距離から、商品の全体を見たうえで述べられているので、ライトの「期待」よりももう少し輪郭のはっきりした感じ方になっている。「すっごーい。」は、「感嘆」の表明であり、「うん。」はそれへの賛同の表明である。そもそも、そういう感じ方をし、そういう発話をするからこそ、集まって来たのだとも言える。

ミオが「ワゴンさん、これどうしたの?」と言った。というのも、ふだんは商品はそれこそキャスター付きのワゴンに乗せられているから、商品をテーブルに並べることには何か意図があるだろう、というそういう「推測」に依拠した「質問」であろう。要するに「ふだんと違ったこと」に対する質問である。なおかつ「新商品」の存在に関する質問でもありうる。

ワゴンが「お給料がチラッとアップしたので、お・ご・り。」と言った。車内弁当の支払いシステムははっきりとはわからないが、おそらく「労働」、特にシャドー相手の戦闘等の「対価」として支給されているのではないかと思われる。それが「おごり」になるということは、少し「所得」が増えることを意味するのだろう。そうなれば、「パスでの買い物」がその分だけ可能になる、ということなのだろう。過去回からわかっていることからは、そのような推測ができる。これは言語行為論などでよく言われるように「約束します」と述べることがそのまま約束になるのと同様に、「おごります」と述べることで、「おごる」、つまり料金を自分のほうで負担する、という行為を行なっているというふうに言える。

このとき、四人がくちぐちに何か言っている。ライトの「やったー!」以外ははっきりと聞き取れないので、誰かが「お礼」を言っているかどうかわからない。誰も言っていないとすると少し奇異な気がするので、きっと誰かは言っているのだろう。トカッチの姿勢がお礼を言うときの姿勢になっている。ともかく、「やったー!」というのは、「喜びの表明」であるので、「感謝」よりも、より礼節にかなった応接だというふうに見なすことも見方によっては可能である。

ライトが「いっただきまーす」といってすかさず着席して弁当を開け始めた。これはもちろん挨拶でもあるのだが、「喜んでいることを全身で表現している」というくらいのものになっている。特別意識せずにライトは自然にやっているのだろうが、自分の行為がそう見えていることがわからない、というほどでもないはずだ。

ワゴンが「どうぞ。」と言った。ワゴンのここでの一連の行為は全体として「もてなす」といったものになっているが、その「もてなし」を特に集約しているのがこの「どうぞ。」であろう。もちろん、ライトの「いっただきまーす」という挨拶への応答でもある。

けん玉を一人でやっているヒカリにカグラが近づいていって話しかける場面である。

  1. カグラが「ヒカリ。」と言った。
  2. ヒカリがカグラのほうを見た。
  3. カグラが「あのね、思ったんだけど、そのけん玉誰か大事な人からもらったんじゃないかな。」と言った。
  4. ヒカリがけん玉をじっと見つめている。
  5. カグラが「だからすごく頭に来たのかも、って。」と言った。
  6. ヒカリがカグラのほうを見つめた。
  7. カグラが「あ、ごめん、変なこと言って。」と言った。
  8. ヒカリが「いや。(少し間をおいて)それは思いつかなかった。」と言った。
  9. ヒカリがけん玉をしばらく見つめながらうなずいた。「かもしれないな。」と言った。
  10. カグラが「うん、きっとそうだよ。」とヒカリに笑顔で言った。
  11. 二人で互いに笑顔で見合った。
  12. ミオがそこに来て、カグラに「はい。」とお菓子を渡した。
  13. カグラが「ありがとう。」とミオに言った。
  14. ミオがヒカリにも「はい」とお菓子を渡した。
  15. ヒカリが「ありがとう。」とミオに言った。
  16. ミオとカグラで見つめあって笑顔になった。それを見ていたワゴンが「あらあら。」と言った。

カグラが「ヒカリ。」と言った。これはわざわざ何かを言いに来た、用件があって来た、ということがわかるような、位置関係にある。カグラは、他のメンバーとともに食事をし始めていた。それを中断して、離れた位置に居るヒカリのところにわざわざ言いに来たのである。そのような状況であることが明白であるような「ヒカリ」という呼びかけである。これは呼びかけたあとに、何らかの話や用件が後続することがはっきりとわかるような話しかけ方である。

ヒカリがカグラのほうを見た。ここでヒカリが何かを言うことも可能だっただろうが、それよりも先にカグラのほうが先に話し始めた、といったくらいのタイミングとなる。

カグラが「あのね、思ったんだけど、そのけん玉誰か大事な人からもらったんじゃないかな。」と言った。「あのね」というのも、その後にまとまった話が後続することの予示に使う語句である。わずかな間をおいて、次に「思ったんだけど」が後続する。この言い方によって、「用事」などというよりは「話」が後続することが予感されることになる。また、「思ったんだけど」という言い方は、「思った」時点から可能な限り素早く伝達したということをも、伝えている。たとえば、今まで何度も話す機会がありながら話さなかった内容を、「思ったんだけど」という言い方で伝えることはできない。なので、カグラがそれを「思っ」てから可能な範囲ですぐに伝えに来た、というのに近いわけだ。その内容というのは、「そのけん玉誰か大事な人からもらったんじゃないかな。」である。「仮説の提示」「提案」といったあたりの発話である。

ヒカリがけん玉をじっと見つめている。ヒカリは今まで見てきた限り、あまり「相槌」を打たないほうの人である。別のメンバーなら、同じ状況でやはりけん玉を見つめるとしても、相槌を何か言うことも多いだろう。だが、ヒカリはそういうとき黙っているほうのタイプなのだ。もちろんカグラもそれは承知している。

相槌が特に返ってこない状態のまま、カグラは「だからすごく頭に来たのかも、って。」と言った。さきほどの「仮説」や「提案」の続きである。

ヒカリがカグラのほうを見つめた。そしてカグラが「あ、ごめん、変なこと言って。」と言った。ここでの「変なこと」というのは、「的外れ」というケースとは限らない。反対に図星であった場合をも含みうる。的外れなら的外れなりに、図星なら図星なりに、相手を怒らせるということもありうる、そういうわりとデリケートかもしれない話題なわけだ。つまり、デリケートかもしれない話題を、ストレートに言い過ぎてしまった、ということに対して、カグラは、いわば「予防線をはった」とでもいうような発話をしたと定式化できよう。いざとなれば、謝罪なり撤回なりできるように、という「準備」のような発話である。そのことで、カグラのヒカリに対する苦手意識が消えていないことをも、示唆してしまうこととなった、とは言える。ただ、のちに見るように、その点はここでは問題にならなかった。

ヒカリが「いや。(少し間をおいて)それは思いつかなかった。」と言った。「いや」がわりとすぐに発話されたのは、やはり、カグラが「予防線をはった」ことに対応してだろう。「その必要はない」ということをまず伝えたわけだ。そのうえで、少し間をおいて「それは思いつかなかった。」と言った。少し前に書いたと思うが、ヒカリはけん玉を壊されたとき、自分でも戸惑うほどの怒りに襲われた。その原因というものを、自分でも把握していなかった。そして、その戸惑いや原因のわからなさをかつてカグラにも伝えた。その点に関説したのがこの箇所なのである。「自分は思いつかなった。カグラは思いついてくれた。」という対比のなかに、この発話はある。要するに、カグラの思いついた内容は、ヒカリが自分でも考えたけど棄却したというものではなくて、まったく候補に浮かばなかったものだったのだ。その「説明」にヒカリのこの発話はなっている。

ヒカリがけん玉をしばらく見つめながらうなずいた。「かもしれないな。」と言った。ここでは回想映像が流され、きわめて茫漠とはしているが、そのけん玉が誰かからもらったものであるらしいことを示唆するものであった。その程度の茫漠とした記憶がヒカリの中に「ありうる過去」としてくらいに根付いたかっこうである。「かもしれないな。」は結局カグラの「仮説」「提案」を、可能性のある有望な候補として、承認する発話となっている。

カグラが「うん、きっとそうだよ。」とヒカリに笑顔で言った。ここには直感と願望はあっても、根拠はそれほどはない。ただ、けん玉を趣味として始めるという場合に、誰か第三者が介在している可能性が比較的高い、というのにすぎない。なので、カグラのこの発話は、自分の直感や願望といったものを、「それこそがヒカリにふさわしい」と主張するような形で述べたものだと、筆者は思う。「ヒカリにはきっと誰か大事な人というのが居たはずだ」という願望であり直感である。カグラにとってのヒカリ像を「確度の高い推測」として述べるというそういう形の発話であると言えよう。「ほんとうに推測したもの」を述べているというわけではないのだ。

ヒカリが、カグラがはった「予防線」に対して「その必要は無い」と応じたことや、そのカグラの考えるヒカリ像などが好印象なものであることもあってかどうか、カグラのヒカリに対する苦手意識などは消えたようなかっこうになった。二人で互いに笑顔で見合った。

その、二人が笑顔で見合ったのを確かめながら、ミオがそこに来てカグラとヒカリにお菓子を渡した。カグラとヒカリの関係が無事に修復され、それ以上の良い関係になったことに対する「祝福」の行為のようにも見える。トカッチやライトやワゴンの分も合わせて、四人の代表としてミオが来たかのようである。その点はあとで説明する。

そもそもこのお菓子は、まず間違いなく、ワゴンが皆に「おごった」分のなかに含まれている。しかも、まるでちょうど二人分用意されていたかのようである。ただ映像で確認してもその辺はものすごくはっきりとわかるわけではない。運搬する器具のほうのワゴンから、お菓子を見つけ出したのはミオであった。お菓子は二人分だけしか無いようであった。ミオがそれを取り出したときに「それもいいわよね。」などとワゴンが言っていた。このあたりのやり取りや振る舞いから、主にミオが主導となって「仲直りのしるしのお菓子」という発想をまず考案し、「それをおごりの分に含める」ということをワゴンが行なったように見える、と言えばまあ見える、そんなシーンなのである。

この「仲直り」は、けん玉が大事な人からの贈与である話とは独立に最初から考案されていたとしてもおかしくはない。というのも、少なくとも、ミオ・トカッチ・ライトが怪人の攻撃から回復したのは、ヒカリとカグラの連携プレーによってだからである。その時点で、すでに半分は仲直りしたようなものであり、それを三人がことほぐというのは、そうおかしな事ではないのである。三人の回復がなければ、車掌とワゴンとのあいだの融和も無理であっただろう。結局ワゴンもその恩恵を蒙っているのは同じである。

ミオがカグラとヒカリにそれぞれお菓子を渡して、それぞれ「ありがとう」と返答があるのは、普通に「贈与した」と「お礼を言った」という発話で良いと思う。ただ、その後に、ミオとカグラで見つめあって笑顔になった。この点を、少し詰めておこう。

まず思い浮かぶ疑問は「お礼を言う相手はなぜミオになるのか」である。というのも、これがワゴンからのおごりであることは充分高い可能性としてあるのだから、ワゴンにお礼を言うというのも、有力な選択肢になるはずだ。だが、ここではそのようにならなかった。つまり、カグラとヒカリはともに、ミオを「単におごってもらったお菓子を運搬する人」と見なしたわけではない、ということを示唆しているのである。二人とも、このお菓子の贈与の「意思」がミオに代表されるようなものであることに、気づいているかのようなのだ。

「ミオとカグラで見つめあって笑顔になった」のは、ミオがカグラのこの問題に寄り添っていた時間が最も長いからである。と、そのようになら言って良い。先にも述べたように、トカッチが「足がすくんじゃって動けないらしい」と「伝聞」の形で言ったのに対して、ミオは「謝っても許してもらえないと思ってるみたい」と「推測」の形で言った。トカッチが誰からの「伝聞」で言ったかといえば、ミオに決まっている。ということは、このカグラの問題は、まずミオとの間でスタートして、徐々に他のメンバーをも巻き込んでいった、というふうに推移したのだ、とわかる。最初の相談相手はミオであり、いちばん長く寄り添ったのもミオだったのである。この回がライトの視点で最初開始するのでそのことが多少見えにくいが、ミオがこの問題の中心に当初から居たことは充分推測できる事柄なのだ。おそらくそれは全メンバーの公然の事柄でもあっただろう。

カグラだけでなく、ヒカリもが、お菓子のお礼をワゴンにではなくミオに直接言ったのは、おそらくその辺の事情がだいたいわかるからであろう。つまり、ミオがわざわざお菓子を持ってきたのは、仲直りというか関係修復・改善の「祝福」といった意図がある、ということがだいたいわかったからであろう。

この物語が「仲直り」というテーマの陰に、「友情」というもう一つのテーマを伏在させていたことが、最後のそのミオとカグラの見合って肩を寄せ合うシーンでわかる。そこで興味深いのは、ワゴンの態度である。ワゴンはちょうどそのタイミングで「あらあら。」と言ったのだ。何を指しての「あらあら」なのかは、断定はできない。できるのは、その「あらあら」が「ミオとカグラ」のほうを指しているようにどうしても見えてしまう、と推察することまでである。その場合だとすれば、ニュアンスというものは「あらあら、仲のよろしいことで」といったものになるだろう。他意も特にないのだろうが、独特のリアクションではある。声の調子から判断すれば、この「あらあら。」も「祝福」の一種だと見なして良さそうだ。ともあれ、他のメンバーが「カグラとヒカリの仲直り」のほうを祝福しているように見えるのに対して、ワゴンだけはそれを上回るくらいに「ミオとカグラの仲」のほうを祝福しているようにも見えるのである。

第07話の主な会話の箇所の記述・描写は、可能な箇所はまだ有ったと思うが、それでも主要なものはだいたい行なったと思うので、ここで終わらせたい。