会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第05話

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はじめに

テレビ朝日系放映番組「烈車戦隊トッキュウジャー」第05話での会話の構造を、少し明確にしてみたい。そして、その会話の構造をどのように「記述」「描写」してみるのが良いのかを検討したい。ここで「記述」や「描写」に用いられる語彙というものを、中学生以上なら使うことができて良い語彙として提示する試みである。趣旨の説明は「会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第01話」の最初の節を参照してほしい。

烈車戦隊トッキュウジャー第05話 会話の構造の説明例

レインボーラインがシャドーの悪影響で急停止したのちのことである。

  1. 窓の外を見たトカッチが「ああっ、線路が!」と言った。
  2. ライトも「うわっ!」などと叫んだ。
  3. 車掌がすかさず「そう、途切れるんです。何度つなげようとしてもね。この先の駅がシャドーに乗っ取られているんですが、その影響かも、です。」と皆に言った。
  4. チケットが「結構闇が濃いですからねえ。けど迂回するのは時間がかかりますし、面倒です。」
  5. ミオが「じゃあ、どうするんですか?」と車掌たちに言った。ヒカリが黙って一緒にうなずいた。
  6. 車掌が「これを使ってください」と、手のひらサイズの鉄道車両状の物を出してきた。
  7. しばらく五人はそれを眺めていたが、ライトが「何これ?」と言った。
  8. チケットが「使ってみればわかりますよ。」と皆に言った。
  9. ライトが「そりゃそうか。」と言った。のちに「カーキャリアー列車」という名前であることを告げられる。

列車の異常が起こったのだから、その異常を窓から見てまず確かめようとするのは当然であり、その結果としてわかったことを「報告」することも当然行なわれて良い。トカッチの発話「ああっ、線路が!」というのは、もちろん「驚きの表明」でもあるが、窓から外を覗いた者が優先的になしうる「報告」でもある。しかもそれは一目見てわかる異常だということをも伝達している。トカッチは他の乗車している皆に対して、問題の所在の「報告」を行なったと記述することも可能であろう。ただしまだ、報告されたのは話題やテーマだけであり、内容的なものは無い。

ライトの「うわっ!」は、そのトカッチの報告を言わば追認したような恰好である。それが見ただけでわかる異常であることはわかるが、内容的な事柄はわからない。

こういった事情に詳しいと思われる車掌がそこですかさず、「説明」を車内の皆に行なったのはだから当然であった。「そう、途切れるんです。何度つなげようとしてもね。」。このように「説明」されれば、なぜ直前に列車が緊急停止したかもわかることになる。線路が途切れているのなら、それ以上進めないのだから、列車が止まるしかないからだ。トカッチの断片的な「報告」をしかるべく補い理解可能なものとするために、事情に詳しい車掌がここで「状況説明」を行なったということになる。

そのまま続けて車掌は「この先の駅がシャドーに乗っ取られているんですが、その影響かも、です。」とも説明した。これは「では次に何をするべきか」という方向へと徐々に話をシフトしているとも言える。乗っ取られている駅が存在する以上、そこへは何らかの方法でトッキュウジャーは移動しないといけない、ということが帰結するはずだからだ。なので、この「説明」は「次」に備えるためのものとなっている。

チケットがその点でさらに踏み込んだ具体的な説明を行なった。「結構闇が濃いですからねえ。けど迂回するのは時間がかかりますし、面倒です。」。この発話はまず車掌が述べた「シャドーの影響かもしれない」という話を肯定的に引き継ぐようにして「結構闇が濃い」とまずそこから説明を開始した。レインボーラインというのは、以前の説明によるとシャドーに乗っ取られた駅に長く停車するのはリスクが有る、という設定だったはずである。「結構闇が濃い」というのも、その設定が該当しそうにも思える。だとすると、たとえば、その一帯を回避したほうが良いようにも思える。なので、チケットは「けど」という逆接を用いた。「けど迂回するのは時間がかかりますし、面倒です。」というわけだ。この説明が、以前なした説明と整合するように合理的になされていることに注意しておこう。また、チケットのこの「説明」はここで終わっているようには聞こえない。当然まだ続きがあるのだろう、そこできっと「対策」も提示されるのだろう、というふうに期待して良いように聞こえる。

ミオが「じゃあ、どうするんですか?」と車掌たちに「正解」でも尋ねるように質問したりヒカリがミオに同意するようにうなずいたのは、先ほどの車掌の発話が進めていた「では次に何をするべきか」という方向に正確に対応したものでもあり、「チケットが次の対策をもっているように思える」という通常の聞こえ方にも対応したものだと言える。

「これを使ってください」と、車掌が手のひらサイズの鉄道車両状の物を出してきたのは、ミオの質問に対する応答でもあるし、チケットが「次の対策をもっている」かのように語ったその「次の対策」に相当する内容でもある。ただし、それ以上の説明が車掌やチケットからなされなかった。

ライトが「何これ?」と質問したのは、その「説明不在」の状況を踏まえてのものだ。だが、この質問に対してはチケットから「使ってみればわかりますよ。」と返答があっただけであった。とは言え、「使ってみればわかる」というのも、説明の一つのやり方ではある。ライトたちを無視したわけではない。つまり「その程度に使い方や機能は簡単にわかるものだ」ということを含意する立派な説明だとも言いうるわけだ。そのためかどうか、ライトのほうも「そりゃそうか。」と返答した。だいたい、今までだって、それほど詳細なレクチャーなどなく何とかやりくりしてきたのだ。今回のもその程度で使うことができるようになる、とわかるのだろう。そういうわけで、このやり取りは「使ってみればわかりますよ。」という「説明不要という説明」に対して、ライトが「なるほど説明不要なわけね、了解」というふうに肯定・是認したものだと定式化できる。

  1. 怪人がミオに攻撃をかけながら「食い物出せえ。」と言った。
  2. ミオが怪人に倒されたときに、カグラが「ミオちゃん」、トカッチが「ミオ」などと言いながら助けに入った。
  3. ミオは起き上がりながら「食べ物なんて持ってないよ!」と怪人に言った。
  4. 怪人は「なーぜ持ってない?」とミオに言った。
  5. ヒカリが怪人に「遠足じゃないんだから、当然だろ。」と言って、他のメンバーとともに怪人に反撃をした。
  6. 怪人は「だったら、お前らに用は無い。」と言って爆撃をしかけ、「がっかりだぜ」と言いながら素早くその場を去って行った。

怪人が言った「食い物出せえ。」は、「命令」だと定式化しても良いだろう。ただし、何かの制度に裏うちされた権限のある者の「命令」ではなく、単に力の強さで生きてきた存在者が行なうような「命令」ではある。

ミオは怪人の攻撃を受けて一度倒れたので、そこへカグラやトカッチが駆け付け「ミオちゃん」「ミオ」などと言った。これは「心配」と定式化すると少し強い気がするので(そこまでのダメージのように見えないので)、「大丈夫?」などと「気にかける」とでもいった行為である、と定式化しておこう。

ミオは起き上がりながら「食べ物なんて持ってないよ!」と真正面から返答した。これは怪人の「命令」に対して理由を述べることで「拒否」をした、とでもいったものになろう。理由を述べただけで「拒否」を構成するケースは実際しばしば見られるものだ。

「なーぜ持ってない?」というのも、ミオの挙げた理由の箇所への疑念の形をとっているが、二つの含意をもちうる。「持っていなきゃダメだ」か「持っていないなら許さない」というものだ。前者は「食べ物くらい持っていろ」という「命令」を伏在させているし、後者だと「非承認」とか「不許可」といったものになる。これらのどのあたりがいちばん適切かは状況次第だろうし、「そのどれでもある」ということもある。要するにこれらは一応区別はできるものの、そんなに大きく違うものではない。

怪人の発話は明らかにミオに向けたものだが、他の者にも聞こえるようになされている。また、他のメンバーにしても「食べ物を持っていない」という点では同じなので、応答する資格のようなものも同等に有る。そのためかどうか、ここではヒカリが、怪人の発話に応接した。「遠足じゃないんだから、当然だろ。」。ここで注意するべきことは、もし仮にトッキュウジャーが遠足をしていて、食べ物を持っていた場合であっても、ヒカリたちはその食べ物を渡したりなどしない、ということだ。つまり、ここでのヒカリの発話は、「相手の発話にまじめに応対したりしないで、会話自体をさっさと終了させる」ということに主眼があるのだ。たまたまその目的のためには、「理由説明」をすることが適していたにすぎない。実際、その発話の直後に、ヒカリたちは怪人を一斉射撃している。

怪人のほうはヒカリのこの「理由説明」を大真面目に受け取って、「だったら、お前らに用は無い。」と応答しつつ、わりと強めな攻撃で報復して去って行った。文字通りにはこの怪人の発話こそが「会話自体を終了させる」ものになっていることも注目だ。ヒカリが行なった事実上の「会話終了」に対して、怪人は文字通りの「会話終了」で以て応酬したといったように定式化できるだろうと思う。

怪人が去っていったのちのライト以外の四人のメンバーの会話である。

  1. 「大丈夫?」とミオがカグラに言った。
  2. 「あいつ、食い意地張ってるけど結構強い。」とトカッチが言った。
  3. 「うん、ライトと合流して一緒に戦ったほうがいいかも。」とミオが言った。
  4. 「ああ」と素早く他の者が一緒に言った。
  5. 「探そ。」とカグラが皆に言った。
  6. 「おお。」と他の者が言った。

この箇所の会話は「合議」のようにしてなされている。

「大丈夫?」とミオがカグラに言ったのは、先ほどと同じで「気にかける」とでもいった発話である。これは相手の攻撃がなかなかに強力なものであり、メンバーが全体としてそれなりのダメージを受けたから出てきたものだ。

「あいつ、食い意地張ってるけど結構強い。」というトカッチの発話も、その件と同じところから出てきている。つまり「相手の攻撃が強力である」ことそれ自体を皆に共通する「問題提起」の形で述べたわけだ。

「うん、ライトと合流して一緒に戦ったほうがいいかも。」というミオの発話は、まず「うん」とトカッチの発話を肯定しておいて、それに対応するような「提案」を行なっている。この提案に対しては、わりと力強く「ああ」と複数の者から承認が得られた。

ただし「ライトと合流する」という結果を得るためには、いくつかのありうるルートが有る。カグラが「探そ。」と言ったことで、それを一つに絞り明確化することとなった。これも引き続きの「提案」である。そして、これに対しても、「おお。」と一応の承認が得られた。

キャンプ場でキャンプしている五人の会話である。気絶しているライトに応急処置をしたのちのことである。

  1. 男性Aが「じゃあ、決まりでいいな。あの男を今のうちここから運び出そう。」と言った。
  2. 女性Aが「そうだよね。あのカップ麺が最後の食べ物だし、ひどいとは思うけど。」と言った。
  3. しばらく沈黙がある。
  4. 男性Aが「しようがないって。自分たちでせいいっぱいだよ。」と言った。
  5. 男性Bが「あいつ、めちゃくちゃ食いそうだし、おっ!」と、ライトが勝手にカップ麺を食べているのを目撃して、叫んだ。

キャンプの五人のほうも「合議」という形で意思決定を行なっているのはトッキュウジャーと同じなのであった。男性Aが「じゃあ、決まりでいいな。」という言い方をしていることで、それ自体が合議的になされている。そして、その決定事項というのは「あの男を今のうちここから運び出そう。」というものであった。強めの言葉で言えば「遺棄」に近い。要するに、最小限度の「傷の手当」以上のことはしないで、どこかに置き去りにしようというわけだ。ただその決定の理由は、この箇所だけではわからない。

女性Aが「そうだよね。あのカップ麺が最後の食べ物だし、ひどいとは思うけど。」という発話をすることで、初めて「理由」が明らかになる。「与える食料が無い」というのがその理由だったのだ。最初の「そうだよね。」の箇所が、男性Aの「じゃあ、決まりでいいな。」に始まる発話に対する「賛同」を表していると定式化できる。次にその理由が「あのカップ麺が最後の食べ物だ」の箇所で述べられ、最後に、弁明というかそういったものを「ひどいとは思うけど。」という箇所で述べている。つまりこの箇所で、積極的にやりたいのではなく、やむを得ずやる、と主張して正当化しているわけだ。

しばらく沈黙がある。結局先ほども積極的な見解を述べた男性Aがこの沈黙を破ることになる。「しようがないって。自分たちでせいいっぱいだよ。」この発話は、主に発言しないメンバーに向けたものだろう。先ほど「じゃあ、決まりでいいな。」という言い方を男性Aがしていたことからも、その「反対派」や「消極派」のような者もこの中に居るのだろう。沈黙というのは、その「反対派」等からの是認が得られなかったことを意味することになる。おそらくその事態に対応した形で、今一度の念押しとして「しようがないって。自分たちでせいいっぱいだよ。」と述べたといういきさつなのだろう。この発話もまた「正当化」でもある。

男性Bが「あいつ、めちゃくちゃ食いそうだし」と述べたのも、その男性Aの援護のような発話であると定式化できるだろう。ちょうどそのとき、ライトが寝ぼけたままカップ麺を勝手に食べ始めてしまっていたため、以降のキャンプメンバーの行動の「流れ」が決定されることにもつながった。ともあれ、「カップ麺が最後の食料だ」というほかに「あの男は大食いのように見受けられる」というものも理由として挙げられていて、それがたまたま事実として裏づけられてしまう展開となったのであった。

寝ぼけたライトがキャンプメンバーのカップ麺を勝手に食べ始めたところを、男性Bが取り上げようとして、はずみでカップ麺が地面に落ちてしまい食べられなくなったのちの、会話・やり取りである。

  1. ライトが、落ちたカップ麺に対して「ごめんなさい」と言った。その次に、キャンプメンバーのほうを見て、「朝から何にも食べてなくて。ほんとごめんね。」と言った。
  2. すかさず男性Aが「うるせえ。お前それ最後の食料なんだぞ。」と言った。
  3. ライトが「え?最後ってどういうこと?」と言った。
  4. すかさず男性Bが「知らないのか。怪人のせいに決まってんだろ。」と言った。
  5. ライトが「え?」と言った。
  6. 男性Bが「たまたまキャンプしてたから助かったけど、そんなに食料持ってきてないし。」と言った。
  7. 女性Aがライトを指差して「もうやだ。この人だって怪人と一緒だよ。出てって。私たちのキャンプから出てってよ。」と言った。
  8. そのとき、キャンプメンバーの五人から、「闇」が発生するのをライトは見た。

ライトが「ごめんなさい」「朝から何にも食べてなくて。ほんとごめんね。」と述べたのは、ごくふつうの「謝罪」という定式化で構わないだろう。謝罪の対象は、勝手に他人のカップ麺を食べたことと、それを地面に落としてしまったことと、二つになるだろう。ただし後者は、第三者が見る限り、ライトの責任ばかりとは思えない。だが少なくとも、勝手に食べた件は、謝罪の必要があろう。なのでライトも主にそちらを述べることになる。一番目の「ごめんなさい」は落とした件のほう(というか、落としたカップ麺に対して謝罪しているように見えるほどである)だが、二番目のほうはそうではない。で、ここでの「朝から何にも食べてなくて」という箇所は、弁明というか正当化というか、そういう箇所になる。ここで弁明や正当化を述べて謝罪するのと、単に謝罪だけするのと、どちらが相手に良い印象を与えるだろうか、という点が筆者には気になっているのだ。というのも、この場合、弁明や正当化をしたうえで謝罪するほうが、相手に与える印象がまだしも良いように思え、ライトも、だからこそそういうふうに謝罪したように見受けられるからだ。この点は筆者にははっきりとしたことはわからない。だが、理由抜き、弁明抜きに、その場だけをしのぐために謝罪だけする、という行為だと、印象は良くない。それよりは、弁明有りのほうがまだまともに見える、ということくらいは言えるだろう。

だが、ことこの件に関してはこのライトの謝罪のしかたは失敗だった。というのは、相手のほうは「朝から何にも食べてなくて」以上にひどい状況に在ったからである。男性Aは「うるせえ。お前それ最後の食料なんだぞ。」とライトに言ったが、その「うるせえ。」はそういう状況であることと合致した言い方である。ライトの弁明内容自体に腹を立てたという表現になっているのである。なので発話行為としては「否定」或いは「非難」あたりで良いだろう。で、「お前それ最後の食料なんだぞ。」という発話がその「理由説明」である。

事情を何も知らないライトは「え?最後ってどういうこと?」と質問をした。これはわりとふつうに「質問」と定式化しても良いだろう。この質問が「なぜ?」ではなくて「どういうこと?」を尋ねていることがいくぶん興味深い。というのも、「どういうことか=文意」が先に決まってから、その後に「なぜ=事実関係」が決まるというほうが、ふつうの考えだからだ。だから、両方ともわからない場合、まず「どういうこと=文意」のほうを尋ねるほうが理にかなっているのだ。このあたりやはりライトの言語能力の高さが現れているように筆者には思える。

なので、それに対して男性Bが「知らないのか。怪人のせいに決まってんだろ。」と、ライトの質問が「なぜ=事実関係」を問うものだったかのようにして返答していることが、際立つことになる。質問と返答とで、ズレが出てしまっているのだ。そのくらいに、答える側の男性に余裕が無いのだろうな、ということまでこの答え方で伝わってきてしまうのだ。ともあれ、この男性Bの発話はライトの「質問」への(少しずれた)「返答」であり、「事実関係の説明」の一部であるわけだが、その全体が「当たり前のことをわざわざ説明させる者」に対する「非難」や「怒り」を伝えるものになっている点にむしろ特徴が有る。ただ、そういう述べ方を定式化できる端的な語が、筆者には特に思いつかなかった。

ライトが「え?」と言った。おそらくこれは「怪人」という語が使用されたからだ。そもそもライトがこの場所に来ているのは、そのためであった。「怪人」の話題なら捨ててはおけない、とライトなら当然思う。その点も含めての、相手への「さらなる発話の促し」だと定式化できよう。

男性Bが「たまたまキャンプしてたから助かったけど、そんなに食料持ってきてないし。」は、その「発話の促し」に応接したものでもある。これも必ずしもわかりやすいものではないが、「事実関係の説明」の一部にはなっている。「そんなに食料を持ってきていない」から「最後の食料」というものが出てしまうこと、「キャンプしてなければ怪人から助からなかったこと」など、断片的に事実関係が説明されていき、事態の想定がしやすくはなった。

むしろ次の女性Aの発話こそが、事態をかなり鮮明にしたと言える。ライトを指差して「もうやだ。この人だって怪人と一緒だよ。」と言った件だ。このことによって、ライトにはその怪人がどのような行為に及ぶ存在なのかが、否応なしに見当がついてしまう。「勝手にカップ麺を食べたり、それを食べられないものにしたりする」のと同列のことをする怪人なのだ。と同時にこの女性の発話は、「ライトをこのキャンプ場から遺棄する」という最初の「決定の表明」を再度繰り返すものとなる。ただし今度は「遺棄」ではなく「追放」「排斥」といったものになる。「出てって。私たちのキャンプから出てってよ。」という発話である。これは当初の決定を確認的に繰り返し、ただしライトが覚醒したという状況に合わせて微修正して、かつ、最初の決定と同等の結果を得ようという発話である。この発話のキャンプメンバーにとっての意義はそういうものだ。一方、ふつうに発話としてみれば、ライトに対して命令にも近い「通告」をするものでもある。受ける印象としては「懇願」にも近いが、他のキャンプメンバーもおおむね賛同している内容のはずなので、その点を考慮すれば「懇願」よりは強い効力をもつ発話であろう。

この女性Aの発話の直後に、五人から「闇」が発生するのをライトは見た。このことでもライトは事態をかなり適切に理解できたに違いない。

キャンプメンバーの五人から、「闇」が発生するのをライトは見たのちのやり取りである。

  1. ライトは「これって。」と言った。
  2. 男性Aは「なんだよ。早く出てけよ。」とライトに言った。
  3. ライトは「ちょっと待って。その前にさあ、なんかみんなで美味しいものでもイメージしてみない。」と皆に言った。
  4. 男性Aは「は?イメージしてどうなる。」とライトに言った。
  5. ライトは「腹減ってると暗くなるし、ほら、頭の中でこう、でっかい焼肉弁当とか、カリカリの唐揚げ、ジュージューいってるハンバーグ。」と皆に言った。
  6. 皆は素直に従って、「イメージ」をしてみた。
  7. しばらくのちに「どう?」とライトは皆に言った。
  8. 「あー」などと何か皆は言った。女性Aは「そんなの想像したらおなか空くだけだよ。」とライトに言った。
  9. 男性Bは「想像で腹がふくれるかよ。余計なことさせやがって。」とライトに言った。
  10. 男性Aは「お前最悪。」と言いながらライトにつかみかかり、「絶対戻って来んなよ。」とライトを突き飛ばした。
  11. ライトは皆に「ごめんわかった。出てくから。」と言って退散した。その途中で振り返って、「あ、これ、ありがとね」と傷口に手当してある箇所を指して皆に言い、去っていった。

五人から「闇」が発生するのを見てライトは「これって。」と言った。これはひとりごとである。他人に聞こえるように言っているが、聞かせるために言っているわけではない。ただし、聞こえるように言ったために、次のような帰結を生み出した。

男性Aは「なんだよ。早く出てけよ。」とライトに言った。「なんだよ」の箇所は、ライトが「これって」とひとりごとを述べた点に言及している。文法的には「疑念の表明」だが、発話行為としてみればすでに「非難」の域に入っている。「早く出てけよ。」の「早く」という箇所も、この「非難」を構成している。もはやカップ麺をダメにしたことを非難しているというよりは、一秒でも早く出ていかないことそれ自体を非難しているのだ。

しかしこの「出ていけ」問題に関しては、ライトも譲る気はなかった。ライトのほうは、事態の全貌はわからないにしても、これがシャドー怪人の影響下の出来事であることだけははっきり知っている。知っている人間にはそれ相応の「使命」というものがある。ここでのライトはその「使命」感に突き動かされており、キャンプメンバーの「非難」は却下することとなった。「ちょっと待って。その前にさあ」というあたりが、その「却下」である。

続けてのライトの「なんかみんなで美味しいものでもイメージしてみない。」というのは、文字だけだと伝わりにくいが、「提案」である。この頃のトッキュウジャーは、まだ「子供はイマジネーションが豊かであるが、大人はイマジネーションが貧困である」という一般則をよく知らない可能性が高い。なので、過去に子供相手にうまくいったやり方を、ライトはキャンプメンバーに試そうとしたのだろう。

男性Aは「は?イメージしてどうなる。」とライトに言った。これはわりと文字通りに「疑念の表明」と定式化しても良いと思う。「は?」という最初の発話からうかがえるように、ライトのこの応接は少し意外であり、即座に対応できるものではなかったのだろう。「は?」という語はそういう場合に使われうる。まずそもそもどう対応したものか、からして仕切り直しが必要になる場合だ。で、結局それを「疑念の表明」として定式化することにした、というわけだろう。あらためて「イメージしてどうなる。」と質問と言えば質問だが、非難や却下の後続を予感をさせるような言い方での質問をすることとなった。「は?」という言い方自体がいくぶんそういう予感をさせる語である。もし単に意外な発話に即座に応接する場合なら「え?」でも良いわけだからだ。「は?」のほうが最初から否定的な用法であることを期待させやすい。

ライトは「腹減ってると暗くなるし」とまず言った。これは目前で自分に「出てけ」と言った人々にそのまま適用できる内容であり、そのことにライト自身が自覚的でもあることに注意したい。ライトはここでは、もはや「自分が過失をしたのだから出ていかなければならない」という考えを上回るようにして「出てけとかそういう過剰な対応をする人々こそがどうにか対処されねばならない」と考えるようになっている。そのことがうかがえるような口調になっている。平たくいえば「出てけ」とかそういう対応のほうが間違っている、という気分をにじませているのだ。まあこれは口調からの感じ方の問題ではある。ともかくこの発話は「イメージしてどうなる。」という男性Aの「質問」に対する「返答」かその準備にはなろうとしてなされているのだ。「イメージすれば明るくなるでしょ」というわけだ。なので後続してそこで「ほら、頭の中でこう、でっかい焼肉弁当とか、カリカリの唐揚げ、ジュージューいってるハンバーグ。」と、まるでそういう世界に誘いかけるようにして述べている。これらの全体が「提案」であり、「勧誘」ですらあると定式化できるかもしれない。

キャンプのメンバーもこの意想外の提案に、意外なほど忠実に従ってみた。しかしその結果は無惨であり却って空腹を強く意識させられる結果となった。ライトに対して、女性Aは「そんなの想像したらおなか空くだけだよ。」と「異議申し立て」を行ない、男性Bも「想像で腹がふくれるかよ。余計なことさせやがって。」と「異議申し立て」と「非難」とを行なった。ふつうの意味でのイマジネーションは健在であったため、それが却って逆効果になったとも言えるし、そこに「夢」とかそういう要素が無かったということでもあろう。もっとも、仮にイマジネーション豊かな子供であっても、この件では同じような結果になったのかもしれない。

男性Aは「お前最悪。」と言いながらライトにつかみかかり、「絶対戻って来んなよ。」とライトを突き飛ばした。これはもはや言語行為という範囲のものではなく、動作レベルでの実力行使である。発話でいくら「非難」や「出ていけという宣告」をしても言うことをきかないので、物理的に排斥しようとしたわけだ。

ライトは皆に「ごめんわかった。出てくから。」と言って退散した。自分の試みが失敗して、このままそこにとどまっても誰も幸せにしないことがわかったからであろう。ともかく、これは「出ていく」という「意思表示」であり、「出ていけ」という宣言に対する応接である。その際、最後に「あ、これ、ありがとね」と傷口の手当に言及して「お礼」を述べたことが、或いはその後に影響した可能性はあるが、その点は結局わからない。ともあれ、この「お礼」は単独の発話となり、その後に「応答」などは無かった。

一転して、シャドーラインでの会話である。画面越しに怪人からの報告を受けたことに関して、ネロ男爵が何か話し始める。

  1. 「素晴らしいぞ、バケツシャドー。人間の飢えでこの上ない闇が生まれている。さすがは我が配下。」とネロ男爵が演説のようにして、その場に居る者にも聞こえるように言った。
  2. その発話にかぶせるようにして「ほんとにねえ。このグリッタのために嬉しいことですわー。ふふふ。」とノア夫人が言った。
  3. 「これは心外。闇の皇帝にこの世界をお渡りいただくためにやっている事。誰があなたの娘のためになど。」とネロがノアに言った。
  4. 「(何か呼吸音のあと)闇の皇帝のためになることは、グリッタのためでもありますわ。何しろ皇帝陛下のお妃になるのですから。」とノアがネロに言った。
  5. グリッタが何か呼吸音のような声を発したが、必ずしも明瞭ではなかった。
  6. 「ふん!何かと言えば妃、妃と耳障り。」とネロは言い、そのときもノアは笑い声を上げた。
  7. 続けて「奴は奴で何をしているのか一向にわからんし。ふん、皇帝陛下さえお出ましになれば、奴ら皆用済みだ。」とネロが、ノアにも聞こえるように言って去って行った。ここで最初のほうの「奴」とは、カーテン越しに見えるシュバルツのことを指す。
  8. ノアが何か嬌声をあげて笑っていた。

この場面では、複数の登場人物がいろいろ発話したりひとりごとを言ったりしているが、しかしちゃんとした会話になっている箇所はあまり多くない。その多くない箇所を確認しておく。

ネロの「素晴らしいぞ、バケツシャドー。」までは或いは画面越しにバケツシャドー怪人に向けて言った発話だったかもしれないが、それ以降の「人間の飢えでこの上ない闇が生まれている。さすがは我が配下。」というあたりになると、独りで勝手に演説でもしているかのようである。ともあれ、その「演説」はその場に居る者に聞こえるものではあるのだ。

そこで、この発話にノアが言及をした。「ほんとにねえ。このグリッタのために嬉しいことですわー。ふふふ。」といううちの「ほんとうにねえ。」の箇所がそうである。これはネロの発言に言及をしただけであり、そこから先の内容は、自分の言いたいことを勝手に述べているだけである。この発話がいかなるものなのかは、「解釈」ならいろいろと可能であろう。たとえば「喜んでいるネロにいわば水を差すとでもいった意地悪を言う」などという意図的行為に聞こえないわけではない。少なくとも、客観的にみればこのノアの発話は、ネロを不快にするだろうことまでは、予測可能である。ともあれ、確実に言えることは、相手の発話に言及しながら、相手の発話に全く無かった内容に結びつけているばかりか、しかもそれがまるで「ネロの意図」であるかのように「このグリッタのために」というふうに述べていることである。「相手の意図に言及する発話」これが、このノアの発話の特徴であると言えよう。

だからネロのほうは「これは心外。」とすぐに応答した。ノアのなした「相手の意図への言及」に対して、「否定」「拒否」でまずは返したのである。「闇の皇帝にこの世界をお渡りいただくためにやっている事。」という箇所で、その「否定」「拒否」の「理由説明」が行なわれた。そして、「誰があなたの娘のためになど。」と、その「否定」のポイントを今一度強調した。「これは心外」だけだと、どの箇所が「心外」なのかがいくぶん曖昧だが、それをもう少し明確になるように追加したわけである。

推察される人物像では、ノアにはこのようなネロの応答は想定済みである。だからかどうか、まず一呼吸おいてネロのほうに向き直ったあと「闇の皇帝のためになることは、グリッタのためでもありますわ。」と毅然と答えた。だが、これはいっけん良さそうでいて、その実けっこう奇妙な答え方である。ふつうにこういう事を主張したければ、反対の順番で、つまり「グリッタのためになることは、闇の皇帝のためになることでもありますわ。」と答えるのが自然のようにも思えるからだ。「闇の皇帝のためになる」ことであれば両者に共通する大義名分になるからだ。反対に、「闇の皇帝のためになることは、グリッタのためでもありますわ。」と答えても、それは共通する大義名分を帰結しないし、ネロが賛同するとも思いにくい。だが、結局ノアはその賛同すると思いにくいまさにその部分を賛同させたいのだ、と思うしかないように見受けられる。ノアは、一貫して自分の娘を皇帝と(政略)結婚させることに邁進しているばかりか、そのことに皆を賛同させたいのである。なので、「闇の皇帝のためになることは、グリッタのためでもあ」ることまで、ネロに承服させたいのである。そうでないと気が済まないところまで、このノアは自分のプランで頭がいっぱいなのである。また、「結婚」の時期が間近になってきているので、ネロがその件に関して承服以上の賛同をしてくれないと、困るという現実的な事情も有るのだろう。ともあれ、確かなことはここでノアは、ちょっと聞いただけだと聞き逃すような調子で、「相手の賛同を得られそうにないものへの賛同を要求した」という発話行為をネロに対して行なった、ということなのだ。

続けての「何しろ皇帝陛下のお妃になるのですから。」というノアの発話は、また、「相手のすでに知っているはずの事柄をわざわざ述べる」というものになっている。「相手の賛同を得られそうにないものへの賛同を要求した」発話に後続して「相手のすでに知っているはずの事柄をわざわざ述べる」ことによって、否応なしにネロ相手に自分の発話を承服させよう、というそういう一連の発話になっているのである。

グリッタが何か呼吸音のような声を発したが、これは必ずしも明瞭なものではない。だが、フィクションというものの約束事に慣れていれば、そうとも言えない。この呼吸音のような声は、「お妃」の箇所に対する、「不賛同」「しかし代案が何もない困惑」などといった感情を表現しているのである。「代案」というのは「他に結婚したい相手がいない」という代案の無さではなく、「他に結婚したい相手はいるがどういうふうにすれば良いのか手段が無い」という代案の無さである。もちろんその相手はシュバルツである。ただ、グリッタのこの声にならないような声は、その場ではもちろん言及も注目もされることなく通り過ぎていった。

ネロに対するノアの「承服させたい」かのような発話に対して、ネロは返答しなかった。返答はしないで、ノアに聞こえるように「ふん!何かと言えば妃、妃と耳障り。」と感情的に述べるにとどまった。その際にもノアの笑い声が聞こえるが、その笑いがネロに対するものかどうかまでは、よくわからない。わかるのは「ネロに対して笑い声を浴びせるというあからさまな行為」ではないことまでだろう。とにかくこの時点でノアはもうネロのほうを向いていない。グリッタのほうを向いている。ネロと特に話す気もないというふうに見受けられる。

ネロは続けて、カーテン越しに見えるシュバルツのことを指して「奴は奴で何をしているのか一向にわからんし。ふん、皇帝陛下さえお出ましになれば、奴ら皆用済みだ。」と言った。これも、その場に居る者皆に聞こえるように言った発話だったが、特に返答や言及はなかった。そこでノアが何かおそらくグリッタに関して何か笑い声をあげていただけであった。

そういうわけでこの場面は、発話量こそ多くても、会話になっている箇所はかなり限られているという、そういう場面であった。

ライトを追放したのちのキャンプメンバーのところに、トッキュウジャーの四人がライトを探しに現れた場面である。

  1. トカッチが「ああ、すいません。ちょっとお聞きしたいんですけど、この辺りで男の人見ませんでした?」とキャンプの五人に言った。
  2. ミオが「赤いスタジャンで、背は…これぐらいの。」と手で身長を示しながら言った。
  3. それを見聞きした、キャンプメンバーのうち座っていた四人がいっせいに立ち上がって、トッキュウジャーメンバーのほうを見つめた。
  4. ヒカリがその様子を見て「どうかした?」とキャンプの五人に言った。
  5. キャンプの五人は互いに顔を合わせて黙っていたが、男性Bが「別に。」とだけ言った。
  6. 今度はトッキュウジャーの四人が、互いに顔を見合わせて何か言いたげにしていた。

トカッチが述べた「ああ、すいません。ちょっとお聞きしたいんですけど、この辺りで男の人見ませんでした?」というのは、語用障害のない多くの人にとっては、「この人たちは誰か人を探している」ことをまず積極的に含意する。そして、その人探しのための「予備的な質問である」とそのように理解する。ともあれ、トカッチの発話は「質問」である。そして、このトッキュウジャーのほうは仮にも「同い年」という設定なのだから、見れば大体の年齢はわかるし、探している「男の人」も同年代だろうとまずは優先的に推察も可能である。

とは言え、トカッチの発話だけではあまりにも茫漠としている。なのでミオが「赤いスタジャンで、背は…これぐらいの。」と手で身長のあたりを指し示しながら、キャンプメンバーの五人に言った。ミオの発話も、より詳しい情報を与えながらの「質問」になっている。トカッチの発話を前提してそこに接続するようにして行なわれていることから、そう言える。

と、ここまで書いてふと思ったが、このトッキュウジャーメンバーの人探しの仕方は少し奇妙である。というのも、すでに駅で目撃したように、この町の人々は飢えに苦しんでいるはずであり、トッキュウジャーのメンバーはそのことを知っているのである。なのに、そのことへの配慮や言及が、人探しに先立ってまず無い、というのが少し奇妙なのである。平たく言えば、そのような人探しの質問に応じることができるような「余力」が相手にあるかどうかの、配慮や見極めが特に見られないのである。まあきっとおそらく「余力」があると思ったのだろう。

ミオの「質問」というか「情報」を見聞きしたときの、キャンプメンバーの反応は顕著だった。座っていた四人が一斉に立ち上がってミオの方を見たのだ。それに対してヒカリが「どうかした?」とキャンプの五人に対して、さらに「質問」をした。もっともこれは素朴な意味での質問というよりは、「心当たりがあるのですね?」という「誘導」に近いような質問になっている。

キャンプの五人は互いに顔を合わせて黙っていたが、男性Bが「別に。」とだけ言った。これはヒカリの「質問」に対する、「返答」ではある。つまり「どうかしたり、ということはない」と返答したわけである。だがこの顔の見合わせや「別に」という返答こそが、その真逆である可能性を物語るものになっている。明らかに心当たりがあるようにしか見えないわけだ。そのため、今度はトッキュウジャーの四人のほうが、互いに顔を見合わせ困惑することとなった。何か言いたげではあったが、それ以上の発話に進展しないまま、突然そこにライトが現れ事態は急展開することになる。

キャンプメンバーとトッキュウジャーの四人が遭遇したところに突然ライトが現れた場面である。

  1. 「おーい!(何か呼吸音のような声)」とライトが走りながら河原に現れて言った。
  2. 「はっ」と手を振るライトに、「ライト?」とトカッチが言った。
  3. 「おー、みんな来てたのか。ちょうどいい。怪人倒す前に腹ごしらえだ。」と魚を取り出して、トッキュウジャーの四人に言った。
  4. 「どうしたの、それ?」とカグラがライトに言った。
  5. 「まだ三月だからって山なめるなよ。奥に清流があって、もうヤマメがいたんだ。それと、まだ全然顔出してない筍。生で食べられるんだぞ。」とライトが皆に言った。
  6. キャンプの男性Bが「すごい。俺たち全然見つけられなかったのに。」とライトに言った。
  7. ライトが小声で「ふふん。」と言った。
  8. ミオが「そう言えばライトって、こういうのも得意だったよね。食いしん坊だけに。」とカグラと顔を見合わせながら言った。カグラも「うん」と言った。
  9. ヒカリが「思い出した。」と言った。
  10. ライトが「みんなで食おうぜ。キャンプしてたから道具あるだろ?」とキャンプの五人に向かって言った。
  11. キャンプの男性Aが「俺たちも食べていいのか?」とライトに言った。
  12. ライトが「は?当然だろ。」とキャンプの五人に言った。
  13. ライトが「お前らも手伝って。」とトッキュウジャーの四人に言った。
  14. ミオが「任せて。」とライトに言った。

「二度と現れるな」とキャンプメンバーに言われたのに、もう一度その場に現れたライトは、第一声が「おーい!」であった。これは電話で言えば、呼び鈴を鳴らす行為に近い。「何か用事がある」ことの予告である。その相手として想定されているのは、キャンプの五人である。で次に「はっ!」と手を振った。これが「こんにちは」と同様の「挨拶」である。その「挨拶」にはトカッチが応えた。「ライト?」という発話で、疑問形ながら相手を認識したことの主張をして、返答に代えたわけだ。

「おー、みんな来てたのか。ちょうどいい。」とライトは言い、トカッチへの返答や仲間の四人に対する認識の主張をしたのち、すぐに頭を切り替えて「怪人倒す前に腹ごしらえだ。」と言った。数秒前まで四人が居ない状態を想定していたはずなのに、すぐに四人が居る状態を前提としたプランに切り替え、その開陳をしてみせたのである。それが「五人で怪人を倒す→その前にまず食べる」というものであった。

ライトが魚を取り出したときに、カグラが「どうしたの、それ?」と言った。これはいくつかの質問の要素を含んでいると思うが、根本にあるのは、「この町の食料は怪人にすべて収奪されているはず」という疑念だろう。それがあっての質問であると見たい。

ライトは、そういった想定可能な疑念や前提をも押さえたことになる返答をした。「まだ三月だからって山なめるなよ。奥に清流があって、もうヤマメがいたんだ。それと、まだ全然顔出してない筍。生で食べられるんだぞ。」と、「どうしたの?」に対する「説明」を行なった。その説明の要所に「自負心」のようなものを含ませてもいる。「誰にでもできることではないんだ」というわけだろう。

キャンプの男性Bの「すごい。俺たち全然見つけられなかったのに。」という発話には、その「ライトの自負心をあらわにした箇所」への「素直な賞賛」のようなものが含まれている。つまりここで、ライトが「自負心を披露」し、それを男性Bが「賞賛」する、というそういう連鎖的な流れが構成されているのだ。それに対してライトが小声で「ふふん。」と言った。男性Bの「賞賛」に対する「承認」というか、今一度「自負心の披露」でもって応接したといったものだろう。

ミオが「そう言えばライトって、こういうのも得意だったよね。食いしん坊だけに。」とカグラと向かい合って言った。カグラも「うん」と言った。これもライトへの「賞賛」だとも言えるし、「懐かしむという行為」でもある。「そう言えば」という言い方で「今思い出した」ことの主張をし、「得意だった」と過去形で語ることで、それが過去にも及ぶことを提示することで、「懐かしむ」ことがなされている。

ヒカリも「思い出した。」とこれは文字通りに述べ、その懐かしがられていた記憶が他のメンバーにも共有されているものだ、という点を主張したことになる。事実、トカッチもうなずいていた。

続けてライトは「本来の用事」とも言える、キャンプメンバーへの食料の提供を行なった。「みんなで食おうぜ。キャンプしてたから道具あるだろ?」と五人に言った。これはまあ「勧誘」「誘い」といったものだろう。

男性Aが「俺たちも食べていいのか?」と言った。これはもちろん「質問」でもあるが、何しろ「みんなで食おうぜ。」と言われたあとの「質問」である。単純に許可を求めているというだけでは、到底ない。「なぜ、自分たちも食べていいのか。そんなはずはないだろう」という「疑念」を含んだ「質問」なのである。

それに対してライトは「は?」とまず述べ、その次に「当然だろ。」と言った。ライトの側からすると、「なぜ自分たちも食べて良いのか」などという疑問自体が、あまり念頭に来ないような考えなのだろう。だから「は?」と相手の疑問に対して疑念を表し、これだけだと発話順番が交代されかねないので、次にすぐに「なぜ自分たちも食べて良いのか」という疑問などを払拭するかのように「当然だろう。」とこともなげに端的に返答した。そういう疑問をもつこと自体が想定外だ、という態度をライトはあらわにしたのである。

そしてごく自然に「お前らも手伝って。」とトッキュウジャーの四人に言った。リーダーシップというかそういったものが(も)すごく自然にとれてしまうのがライトなのである。この「手伝って」はまあ、自然発生的なリーダーにふさわしく「依頼」くらいに定式化しておくのが良いだろうか。「命令」という定式化がなじまないように思う。

ミオが「任せて。」とライトに言った。こういうときにすぐに適切に対応するのがミオなのである。これは「依頼」に対する「応諾」といったところであろう。

キャンプのメンバーに交じってライトが円陣を組んで一緒に食事をしている場面である。

  1. ライトが「いただきまーす。うーん、うま。」と言った。
  2. キャンプの女性Aが「最初からこうして分け合ってれば良かった。」と言った。
  3. キャンプの男性Aが「腹減ってても気分はずっと良かったんだな。」と言った。
  4. キャンプの男性Bが「ごめん。」とライトに言った。
  5. 「んーん。俺だってカップ麺ダメにしたし、まあどっちも原因は一緒だ。(しばらくおいて)腹が減ってたから。」
  6. カグラが「ライト優しいね。誰の事も怒らないなんて。」と言った。
  7. ライトが「そう?めちゃくちゃ怒ってるよ。」と言った。
  8. キャンプのメンバーが少し怖そうにライトを見る。
  9. ライトが立ち上がって「こんなに腹ペコにしてくれたシャドー怪人にな。」と言った。
  10. カグラたちが「あー。」とうなずいた。
  11. ライトが歩きながら「たーっぷり思い知らせてやる。ふっふっふっふ。」と指を鳴らしながら言った。
  12. トカッチが「見えるよ。」と言った。
  13. カグラが「ん?」と言った。
  14. トカッチが「ライトのイメージしてるものが、僕にも見える。」と言った。
  15. ミオついでヒカリもうなずいた。

ライトが「いただきまーす。うーん、うま。」と言った。「いただきまーす。」は「挨拶」であり、その後の「うーん、うま。」という感想も含めて、他人にも聞こえるように述べているが、誰も返答しなくても別におかしくない。実際返答や言及はなかった。

女性Aが「最初からこうして分け合ってれば良かった。」と言った。尤も視聴者視点で見る限りそれが可能だったかは少々疑問の余地が有るが、ともあれ、この人物がそういう感想をもつことくらいならできる。この発話は誰かにはっきりと働きかけるタイプの発話ではない。誰も応接しなくても構わない発話であり、述懐とでもいったものだ。

男性Aが「腹減ってても気分はずっと良かったんだな。」と述べ、先ほどの女性Aの発話での述懐を前提にしたような言い方をした。その際「な。」という語句で発話を終わらせている。最後の「な。」があるため、少し他人に働きかけを行なう言い方に近づく。ともあれこの発話は「気づきの表明」とでも言えるだろう。

その男性Aの発話に対しては応答が無く、その代わりに、キャンプの男性Bが「ごめん。」とこれははっきりライトに言った。「謝罪」である。

「んーん。俺だってカップ麺ダメにしたし、まあどっちも原因は一緒だ。」というライトの発話もなかなか独特である。「謝罪」に対して「謝罪」をし返したりはしないのである。まず「んーん。」で相手の謝罪を「謝罪の必要は無い」というふうに軽く応接しておく。軽い「却下」であると言っても良い。次に、「俺だってカップ麺ダメにしたし」とその「却下」の理由を述べたが、その件の謝罪はすでに済んでいるためかどうか、ここでは繰り返されない。「俺も同罪だよ」程度の主張どまりなのである。そして「まあどっちも原因は一緒だ。」という、かなり独特の方向へ話を進めていく。ここではライトは、キャンプメンバーに比べて事情や状況にはるかに通じている者として振舞っている。つまり「シャドー怪人のしわざ」というものが根本に有ることを知っており、その立場の者として振舞おうという、「使命」感のようなものが見られるのである。なので、その認識を踏まえたうえで、少し時間をおいて「腹が減ってたから。」と「原因の説明」をした。この説明自体は別に「誤り」というわけでもないせいか、キャンプのメンバーもこれでうなずいたり納得したように見受けられた。

カグラが隣のテーブルから、「ライト優しいね。誰の事も怒らないなんて。」と言った。キャンプメンバーとライトとの関係や経緯をこの時点で、間接的にしか聞いておらずあまり承知していないのだろう。カグラのほうが、「シャドー怪人のしわざ」という「根本原因」と事態との連関をいまいち把握していないわけがないからだ。ともあれ、この発話は、ライトの行為に言及し、それを「賞賛する」といった発話行為になっている。

ライトが「そう?めちゃくちゃ怒ってるよ。」と言った。これは自分への「賞賛」に対して、いっけん「反対」するように思わせておいて、実は結論へと「誘導」する発話にほかならない。それはカグラの言う「誰」の中に、ここまで話題に登場してきていない者を入れることによってである。

ライトのこのテクニカルな言い方で、事情を知らず素朴に受け取ったキャンプのメンバーが、自分たちに怒りの矛先が向いたのかと、一瞬動揺したりする態度をみせた。だが、実際はそういうことではなかった。

ライトが立ち上がって「こんなに腹ペコにしてくれたシャドー怪人にな。」と説明をした。「腹が減ってたから。」という「原因の説明」をしたのは、ここへの伏線だったのにほかならない。実はライトこそが「怪人」の介在に関して事情にいちばん疎いはずの者である。何しろ見たことがないのだ。だが、上記のように、それまでの経緯で相当にその状況が推察できるような判断材料はもっていた。そして、他のメンバーは多かれ少なかれ「怪人」という語で或る程度以上のことがわかる者ばかりなのであった。ともかく、これがライトのこの件に関する言わば「結論」であり、「次の行動の指針」なのでもあった。そういう意味でライトのこの発話は「意思表示」というあたりに定式化できるだろう。

カグラたちが「あー。」とうなずいたのは、「それなら納得」とでもいった認識の主張であろう。

ライトが歩きながら「たーっぷり思い知らせてやる。ふっふっふっふ。」と指を鳴らしながら言った。これは、皆と反対のほうを向いてひとりごととしてなされている「意思表示」であるが、その場に居る者に聞こえるように言っているので、応接や言及も可能ではある。実際、言及はその後される。

トカッチが「見えるよ。」と言った。これは「話題の提供」であると定式化できるだろうが、まだ言い始めたばかりであり、「何が」などを欠いた断片である。ただし、この時点でトカッチの言いたいことが推察・同意できる者が居れば賛同できるような言い方ではある。ライトの言動について述べていることはほとんど自明だからだ。

カグラが「ん?」と言った。これはトカッチに対する「発話の促し」であるだろう。実際トカッチもそう受け止めた。

トカッチが「ライトのイメージしてるものが、僕にも見える。」と、今度ははっきりと内容が述べられた。「ライトのイメージしてるもの」というのは、「怪人への報復の仕方」に関するものであることが、これでかなり明確化された。「思い知らせる」という言い方をライトはしていたのだから、「怪人を倒すときに、きっと、怪人に空腹の苦しみを味あわせてやろうというのだろう」と、そのくらいならイメージまでできなくとも推定くらいならできる。ミオやヒカリがうなずいたり、カグラが少し驚いたような表情を見せているのも、その「イメージ」がだいたい伝わったからであろう。ともあれ、トカッチは「話題の提供」を完了させ、それへのリアクションが非言語的に皆から得られた、といった展開であったと記述可能だろう。

怪人を斃したのちに、帰還したレインボーライン内での会話である。

  1. 車掌が「さて、皆さん。サポート列車のおかげでまたひとつシャドーラインから駅を取り戻し線路もつながったわけですが、実は手許にあるのは、カーキャリアーで最後です。」と言った。
  2. トッキュウジャーの五人がいっせいに「えっ」などと言った。
  3. カグラが「もう無いの?」と車掌たちに言った。
  4. 車掌が「はい。あとはみんなシャドーの侵出が激しくなったとき、レインボーラインから外れて行方不明になってるんです。」と言った。
  5. ライトが「え?」と言い、他の者も同調して「え?」と言ったりした。
  6. チケットが「それを探すのもお前たちの任務の一つというわけですが、町・森・山・海、今どこにあるのかは全く。」と言い、ガクンと下を向いてしまった。
  7. すかさずライトが立ち上がって「あ!じゃあ、あれ、そうかな?」と言った。
  8. 車掌とチケットが「え?」と言った。
  9. ライトが「山の中で食べ物探してるときに変なの見たんだよ。この列車くらいありそうな水色のー」と言っているところで、すかさず車掌とチケットが「それですよ!」と言った。
  10. 五人はまたもやいっせいに「えー!」と声を上げた。
  11. ミオが「ライトー?」とライトに言った。
  12. ライトが「だっ」などと何か言った。
  13. ヒカリが「ライト早く言えよ。」とライトに言った。他のメンバーもくちぐちに何か言いながらライトに詰め寄った。
  14. ライトが「わかんなかったんだ。」「知らなかったんだ。」と責め立てる皆に言った。

車掌が「さて、皆さん。サポート列車のおかげでまたひとつシャドーラインから駅を取り戻し線路もつながったわけですが、実は手許にあるのは、カーキャリアーで最後です。」と皆に言った。この言い方は少し奇妙だと筆者は感じる。通常だと、話の流れというのは「既知→未知」という方向性のほうが理解しやすいからである。だから、この車掌の発話も次のようにして「さて、皆さん、またひとつシャドーラインから駅を取り戻し線路もつながりました。これはカーキャリアーつまりサポート列車のおかげでもあったわけですが、しかし、実は手許にあるサポート列車は、カーキャリアーで最後です。」という順番や言い方のほうが理解しやすい。少なくとも筆者にはそう思える。その主な理由はサポート列車というものがまだ、この第05話と前回の第04話にしか登場しておらず、また、その二つをまとめてサポート列車と呼ぶという「上位語」としての登場頻度も低かったからだ。ただし、ともあれこういったサポート列車といったものがまだまだたくさん有る、ということは、この第05話で初めて、一度アナウンスされてはいる。だが、そんなことに注意を払っている者など、登場人物にも視聴者にも、決して多くないはずだろう。そのように思うのだ。だが、また例によってというべきか、放映時間の都合その他の点で、いちばんきりつめた言い方を車掌は行ない、かつそのことは物語の中ではまったく問題化されることなく、ふつうに流通していった。「実は」と述べているが、そのことを意外に思うことができるほど、サポート列車などという話題になど誰が注意を払っていただろうか、と思いたくなるところである。だが、とにかくここでは「実は」が使われ、それがとても意外な事柄であるかのようにして、話が進んでいった。メンバーは皆、サポート列車というものがまだまだたくさんの種類がある、というアナウンスをとても良く注意して記憶もしていたのである。

だから、トッキュウジャーの五人がいっせいに「えっ」などと言ったりもした。「疑念」や「不審」の表明である。ただそれだけだと、何についての疑念なのかは、あいまいなままではある。

カグラは「もう無いの?」と車掌たちに言った。この発話によって、「疑念」の方向性が明確になった。つまり「実はこれで最後です」という点に「疑念」が向けられていたのである。「もっとたくさんある」というアナウンスをメンバーがとてもよく注意・記憶していたからである。ともあれ、カグラの発話は、「疑念の明確化」とも言えるし、端的に「質問」という定式化でももちろん良い。

車掌が「はい。あとはみんなシャドーの侵出が激しくなったとき、レインボーラインから外れて行方不明になってるんです。」と「説明」をした。これがこの車掌の語り方の特徴なのである。まず先にその行方不明の件を説明すれば早いとも思えるのに、先に「実はもうありません」と「驚かせ」ておいて注意を引き付けてから、おもむろに「説明」をする、というスタイルなわけだ。このときの車掌の発話群もまさにそれであった。

ライトをはじめとして、皆がくちぐちに「え?」などと発話し、動揺というか心配或いは深刻そうなそぶりを見せていた。いわば「重大な報告と受け止めて驚く」ということを実演的に行なったわけである。

「それを探すのもお前たちの任務の一つというわけですが、町・森・山・海、今どこにあるのかは全く。」とチケットはそこまで言って、ガクンと下を向いた。落ち込んでいるようにも見えるそぶりである。ただし、文がここで切れてしまったのは、下を向いて落ち込んでしまったからとは限らない。このときすかさずライトの「あ!」という発話がなされるからだ。そのせいかもしれない。だから、ここでチケットの発話した文が、述語のない中途半端な文になってしまったのが、チケットの意志によるのかライトの発話が開始したことによるのかは、はっきりしない。ともかく、そこがはっきりしないようにしてこの発話がなされていた、という事実があるのみである。ただそれでも、ここで文が切れてしまっても、文意がちゃんと伝わるようにはなっている。「全く」のあとには「不明です」「わかりません」などといった語群が来るに決まっているのだ。ではなぜそう予測・推測できるのか、と考えたときに、その前の「わけですが」の「が」が逆接の「が」に聞こえるという点もポイントになるだろう。「任務の一つであるが、しかし任務として命じることができるほどに、探す場所を絞り込めていません」というふうにつながるように聞こえるからだ。ともあれ、このチケットの発話は、「状況説明」といった定式化で良いのではと思う。

そこでライトがなした「あ!」という発話は、「今気づいたということ」の主張である。「じゃあ、あれ、そうかな?」という発話はその「気づいた」内容の説明或いはその予告くらいのものになるだろう。「じゃあ」というこの言い方は注目される。この言い方は先行する発話内にその「気づき」につながる要素が存在していなければ、使えない。その「気づきにつながる要素」というのは、おそらくチケットの「町・森・山・海」という箇所だろう。この言い方が先行していたため、「山」に心当たりのあるライトが反応しやすくなったというわけだ。

車掌とチケットが「え?」と言った。これは「驚きの表明」であり、相手のさらなる発話を促すものでもある。

「山の中で食べ物探してるときに変なの見たんだよ。この列車くらいありそうな水色のー」というライトの発話は、その予告された説明に該当する。ただし、全部言い終わるあきらかに前に、「のー」という音の伸ばしの箇所で車掌とチケットとが同時に「それですよ!」と発話して途切れることになる。この「それですよ!」という発話はどのように定式化できるだろうか。「指摘する」という行為であることはあきらかだ。それ以外にどう捉えることができるかだ。「それ」という指示語は、「自分よりも相手のほうに近い」対象を指す。「それですよ!」というのは、自分たちではなくライトのほうが近くに在った、という事柄を含むのだ。なので「自分よりもあなたのほうが近くに居ながら、なんで気づかないんですか」とでもいった非難の気分を軽く伝える言い方になりうる。この場合の「それですよ!」も、「ことと次第によっては非難につながる」こともありうるという、そういった言い方だと定式化可能だろう。非難そのものではないにせよ、その可能性は潜在させた言い方なのだ。いずれにせよ、もう一度その場所にわざわざ引き返さねばならない、ということになるのだから、自然とそうなる。

この「わざわざ引き返す」必要に反応したということだと思うが、ともかくそこで、他のメンバーが口々にライトを「なぜすぐに言わなかった」といった論難をした。そんなものが重要で自分に関係するものだとわかるわけもないのだからずいぶんと無理筋の要求のようにも思うし、人命が掛かった話でもないのに、少し奇妙な展開ではある。だが、車掌とチケットの「それですよ!」にすでにその非難の萌芽は含まれてはいたのだ。そう見なしたい。万全の見方とは決して言えないだろうが、それでも、そういう観点をたたき台として出してはおこうと思う。

第05話の主な会話の箇所の記述・描写は、可能な箇所はまだ有ったと思うが、それでも主要なものはだいたい行なったと思うので、ここで終わらせたい。