会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第04話

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はじめに

テレビ朝日系放映番組「烈車戦隊トッキュウジャー」第04話での会話の構造を、少し明確にしてみたい。そして、その会話の構造をどのように「記述」「描写」してみるのが良いのかを検討したい。ここで「記述」や「描写」に用いられる語彙というものを、中学生以上なら使うことができて良い語彙として提示する試みである。趣旨の説明は「会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第01話」の最初の節を参照してほしい。

烈車戦隊トッキュウジャー第04話 会話の構造の説明例

  1. 「停車時間三時間も有るんだよねえ。私ちょっと運動して来ようかな。トカッチ、一緒にどう?ちょっと鍛えたほうがいいんじゃない。」とミオはトカッチの肩をたたきながら言った。
  2. 「いや、ぼくは図書館に行くよ。トッキュウジャーに重要なのはイマジネーションだからねえ。ミオも、体力作るより、イマジネーション鍛えたほうがいいんじゃないかな。」とトカッチは言って、去ろうとした。
  3. それを不満げに見ていたミオは次にカグラに言った。「カグラはどうする?」
  4. カグラは「あ、わたし?わたしはお買い物しようと思って。ワゴンさんが言ってたけど、これ、タッチするレジのお店なら外でも使えるんだって。」と、車両の乗車許可証となっているカード状のものを差し出してミオに言った。「レインボーパス」と呼ぶらしい。

「停車時間三時間も有るんだよねえ。私ちょっと運動して来ようかな。」というミオの発話は、すでに車内にライト、ヒカリ、トカッチの三人が居るところに隣の車両から移動して入って来たときになされた。「私ちょっと運動して来ようかな。」という言い方などは、多少聞こえよがしになされていて、最初から誰かを誘う目的でこの車両に来たかのようである。つまりこの発話はすでに、「誘う」という行為に半歩踏み込んでいる。自分がこうしようという「意思表示」というだけの発話では、あまりないのだ。

続けてミオは「トカッチ、一緒にどう?ちょっと鍛えたほうがいいんじゃない。」とトカッチの肩をたたきながら言った。ライトだとどうせ食べることのほうが重要だろうし、ヒカリは自分の世界にひたっていそうだ。だから誘うとしたらトカッチが良いと判断したのかもしれない。そして「ちょっと鍛えたほうがいい」という理由づけもしやすいのだ。このなかで男性でいちばん身体能力が高くないのが、トカッチであるからだ。

トカッチはその「誘い」に対して、なぜだかいつになく冷淡であった。「いや、ぼくは図書館に行くよ。トッキュウジャーに重要なのはイマジネーションだからねえ。」という発話のあたりでは、すでに読んでいた雑誌かなにかを見たまま、ミオのほうを見ようともしなかった。その内容に集中していたところだったのかもしれない。そして、去り際にミオのほうを見て「ミオも、体力作るより、イマジネーション鍛えたほうがいいんじゃないかな。」と言って、去って行こうとした。トカッチは、ミオの「勧誘」に対してわりときっぱり「拒否」し、その「理由」も述べ、反対にミオに対して「提案」をした、というところだろう。その「提案」に対してだろうか、それとも勧誘をにべもなく拒否されたためだろうか、ミオは少しだけ不満げな顔でトカッチの去るのを見ていた。

そこにカグラが、先ほどミオが入ってきたのと同じ車両から移ってきた。だから、すでに多少カグラとミオとは話をしていた状態だったのかもしれない。カグラを見てミオはすぐに「カグラはどうする?」と単刀直入に聞いた。停車時間が長いなどの点はすでに共有されているのだろう。ともあれ、これは「勧誘」の予告を含みうるような「質問」である。その回答しだいでは、「勧誘」などの発話が後続することを予感させるようになされている。

カグラは「あ、わたし?わたしはお買い物しようと思って。」と答えた。これは単純に質問に対する回答という定式化で良いと思う。ただし、この発話は後続する。「ワゴンさんが言ってたけど、これ、タッチするレジのお店なら外でも使えるんだって。」という状況説明であり、これがそのカグラの「お買い物」というプランの「理由」説明なのでもあった。そういうわけでもあり、「ミオがなぜその質問をしたのか」の理由についての考慮などは特には見られないカグラの発話となった。

買い物した大量の品物を抱えながらトカッチが列車に帰ってきたときのワゴンとのやり取りである。

  1. 「いやーん、トカッチさんたっぷり買ったのねえ。」とワゴンがトカッチに言った。
  2. 「そりゃそうでしょ。このパスで、何でもタダなんですから。」とトカッチがワゴンに言った。
  3. 「タダー?いやーん、パスで使ったお金は後で自分で払うのよ。」とワゴンがトカッチに言った。それを聞いたトカッチが、「ひゃっ」などと言いながら文字通り転んでしまい、買い物した品物も散らばった。
  4. その転ぶのを見たためか、「ハッ」と甲高い声でワゴンが何か声を上げた。
  5. 「や、やっぱり、買い過ぎたから返品して来ようっと」とトカッチが言って、買い物した物をまとめて車外に慌てて出て行った。そのときほぼ同時並行でワゴンのほうも「あ、あーあー」と何か慌てたように声を上げた。
  6. トカッチが車外に出たあと、ワゴンは「バイバーイ」と一人で言った。

「いやーん、トカッチさんたっぷり買ったのねえ。」というのは、機能として言えば帰宅した人に対する「お帰りなさい」の延長にある。相手の顕著な点に言及することが、少なからぬ場合一種の挨拶になりうるわけであり、ちょうどそれが挨拶として機能する場面でもあった。なので、これは「挨拶」であり、プラス「特徴の指摘」といった発話と定式化できるだろう。また「買ったのねえ。」の「ねえ」は、相手に対する志向がわりと強めの言い方を構成するだろう。たとえばそこで「返答」が無い場合などは、けっこう際立ってしまう言い方である。

「そりゃそうでしょ。このパスで、何でもタダなんですから。」という言い方はなかなか興味深い点を含んでいる。そもそも「パスで何でも買うことができる」というのはワゴンから聞いたということになっている話なのであった。だから、それが「タダ」だと思い込んでいるトカッチからすれば、「たっぷり買ったのねえ」という「指摘」がやや心外であるはずのものだ。トカッチの理解では、ワゴンはたっぷり買ったからといって特に驚いたりしないはず、となるのである。ところが、後続するトカッチの発話をみればわかるように、そのワゴン相手にわざわざ「このパスで、何でもタダなんですから。」と言ってもいるのだ。トカッチの理解では、ワゴンはこのことを知らせてくれた当の本人にほかならないのだから、わざわざ言う必要も無いはずだ。だが、言っているのである。これらのことを踏まえると、結局のところ、「パスで買い物ができる、というのはどういうことなのか」をきちんと確かめなかったことと、その情報源がワゴンであることを今一つ認識していないこととは、ひとつながりの現象だったということだろう。

「タダー?いやーん、パスで使ったお金は後で自分で払うのよ。」という発話に対するトカッチのリアクションにもその点が現れている。つまり、ワゴンに対して「話が違うじゃないか」と詰め寄ったり、などといったことはしないのである。そのくらいに、情報も情報源もちゃんと押さえていなかった、ということにほかならない。なのでワゴンが実際には言っていないことを「言った」などと論難したりするのではなく、文字通りずっこけるという反応をしてみせた。完全にトカッチ自身の早とちりであった、という理解である。ところで、ワゴンのこの発話はどのように定式化できるだろうか。「タダー?」というふうに、相手の発話の一部を引用して、それの否定になるような内容を主張するこういう発話行為は、会話分析だと「修復」と呼ばれる操作に該当するだろう。実際、このワゴンの発話は、相手の誤解を「修正する」という行為であると言って良い。

「ひゃっ」とか「ハッ」はただ単に声が少し出てしまっただけであり、発話行為としてはあまり重視しなくて良いのではないかと思う。その後の「や、やっぱり、買い過ぎたから返品して来ようっと」というのは、まあ「行ってきます」という挨拶代わりの、理由説明と定式化して良いだろう。そして、これを「行ってきます」代わりの発話であるというのは、ワゴンの受け止め方でもある。ワゴンはトカッチが出て行ったあとに、一人しか居ない状況で「バイバーイ」と言っている。しかしこれを独り言だとは思っていまい。「行ってきます」相当のトカッチの発話に対する「行ってらっしゃい」という「返答」だと受け止めているはずである。このように現実にはひとりごととしてなされてしまう発話の中にも、明確に相互行為とでも呼びうるタイプのものも有り、これもその一つなのである。

  1. トカッチがパスを無くして乗車できなくなっており、自分の服のポケットなどを探して慌てて叫んでいる。
  2. 一度乗車したメンバーがそこへ戻ってきた。ライトは「なんだよ。」とトカッチに言った。
  3. カグラは「どうしたの?」とトカッチに言った。
  4. トカッチは「無いんだ、ぼくのパス。」と言った。
  5. カグラは「え?」とトカッチに言った。
  6. トカッチは「慌てて返品したからどこかの店に…あああどうしよう。」と叫んだ。
  7. そこに車掌と連れられたチケットもやって来た。チケットが「パスの無い人は乗れませーん。」と言った。
  8. 「トカッチなんだから、いいだろ。」とライトは車掌たちに言った。
  9. 「顔パスは無いですし、パスの再発行は、できません。」と車掌ははっきりと五人に言った。
  10. 「そんなー」とカグラは言った。

トカッチの叫び声が聞こえたのだろう、ライトたちが様子を見に車内から戻ってきた。ライトはトカッチに「なんだよ。」と言った。この発話は、「質問」に聞こえる。ただし、声の調子などからすると、単なる質問というだけでなく、「何を騒いでいるんだよ」という「不審の表明」の要素も少し含まれていると思う。

すぐに後続するカグラの「どうしたの?」も、質問であると言ってよいが、同時に「心配する」という行為でもある。

「無いんだ、ぼくのパス。」というトカッチの発話は、これらの質問に対する返答であり、その返答がそのまま状況説明でもある。

「え?」というカグラがあげた声は、「驚きの表明」をも構成するが、同時にトカッチへの「さらなる説明の促し」にもなりうるものだ。実際、トカッチは、さらに説明を続けた。「慌てて返品したからどこかの店に…」と説明をしたのちに「あああどうしよう。」と車掌たちのほうを視線のレベルでも窺うように言った。これは狼狽しつつも、車掌たちに対する「質問」にもなっているだろう。車掌たちが、この件に関する決定権をもっていると見なすことが自然だからだ。

チケットから「パスの無い人は乗れませーん。」という発話は、すかさず有った。これは権限の強めの内容なので、トカッチに対する返答でもあるが、「通告」といったあたりに定式化もできると思う。

「トカッチなんだから、いいだろ。」というライトの発話は、チケットに対する「異議申し立て」といったところであろう。

その異議に対しては、車掌からすかさず返答が有った。「顔パスは無いですし、パスの再発行は、できません。」と、柔和ではあるがきっぱりと言ったのだ。もちろんこの発話もチケット同様に「通告」である。

「そんなー」と今度はカグラが車掌たちに対して異議申し立てを行なった。だが、ここで次の駅がシャドーラインに乗っ取られているということがわかり、このやり取りはここでいったん中断される。その際、ワゴンが「あのー」と言いながら乗っ取りの件を通知に来ることについて簡単に述べておく。「あのー」は相手が何かの活動や作業をしてたり、会話をしているときに、あえて注意を向けさせ止めさせるときに使うことが多いだろう。そして、その後に「用件の通知」などが後続することを期待させる言い方であろう。カグラの発話などのやり取りがいったん中断されたのは、そういったワゴンの発話の効果であるのだ。

次の駅がシャドーラインに乗っ取られたことがわかった直後のことである。

  1. 「緊急発車しましょう。トカッチ君は、徒歩で移動してください。」と車掌は五人、特にトカッチに言った。
  2. 「は、そんな…」とトカッチは言った。
  3. 「あーもうめんどくさい。こんなの取っちゃえ。」とライトは言い、自動改札を撤去しようとした。トカッチも加わった。
  4. チケットがそれを見て「あ、ちょっと何してくれちゃってるんですか。重大な違反ですよ。」と言った。
  5. ミオが言った。「ライト、待って。今は先行って。あたしがパス使って、トカッチとバスでもタクシーでも追いかけるから。」
  6. 続けてヒカリも「今はそのほうが現実的かも。」と言った。
  7. ライトは「わかった。ミオ、頼むな(↓)。」と肩に手を置いて言った。
  8. チケットが「はーい、ドア閉まりますよー。」と言った。
  9. ミオが、トカッチを「トカッチ」と言って引っ張って行った。

「緊急発車しましょう。」という車掌の発話は、その権限からすると「提案」というよりも「通告」に近いだろう。五人に対してひとまず、通告を行なったわけだ。そして、後続するのは、トカッチの扱いに関してである。「トカッチ君は、徒歩で移動してください。」というふうに、これも丁重な言い方ではあるが「命令」であるのに近い。ただし、これは車掌の個人的な決断でなされている面も有るので、覆すことのできない「通告」や「命令」というほどではない。もっと良い代案があるのなら、それでも良いと車掌は言うかもしれない、そんな程度の強さである。

「は、そんな…」とトカッチは言った。車掌の「命令」に対する、いわば「非同意」とでもいった態度を、あまり冷静でもない状態で表出してしまったといったところだ。

「あーもうめんどくさい。こんなの取っちゃえ。」とライトは、トカッチが乗車できなくなっている「物理的な障壁」である自動改札機を撤去しようと試みた。車掌の「命令」に対する「代案」ではある。だが、法規的にも物理的にもおそらくこれは無理筋の「代案」であった。物理的に撤去できそうにないだけでなく、チケットから「あ、ちょっと何してくれちゃってるんですか。重大な違反ですよ。」と、強めの「通告」がなされた。

そこで「もっと良い代案」を出してきたのが、学級委員だったしっかり者のミオである。「ライト、待って。」とまずその撤去を制止し、次いで「今は先行って。あたしがパス使って、トカッチとバスでもタクシーでも追いかけるから。」と、「トカッチは徒歩で」という車掌の「命令」に対する「代案」を出した。

ヒカリは「今はそのほうが現実的かも。」と述べた。「そのほう」というのは「ミオの提案した代案のほう」ということである。なので、これは、車掌の命令よりもミオの提案したもののほうが、良いという主張であり、ミオの援護と事態の促進とを行なうことになる。この「現実的」という語が脚本上選択されているのは、のちの伏線としてでもある。つまり「ミオはイマジネーションは強くないが、現実的なことなら頼りになる」とでもいった対比を示唆する伏線としてである。だが、その点はここでの視聴にはあまり関係ない。車掌の命令のほうがあまりに非現実的であり、実現性に乏しいのだから、ミオの提案のほうが現実的なのは、当然と言えば当然ではある。だがともかくその指摘によって、ミオの援護と事態や決断の促進にはつながることとなる。

「わかった。ミオ、頼むな(↓)。」とライトはミオの肩に手を置いて言った。車掌の「命令」のことなど意に介していない。別にリーダーであると決められているわけでもないだろうが、ともかくリーダーであるかのように即決し、ミオに一任した。冷静さを欠いているように見えるトカッチはこの場合、あまり頼りになりそうにない。その点も含めての「頼むな(↓)。」である。文字だけだと一応わかりにくいが、もちろん「頼むな。」という禁止文ではなくて、「頼むな。」という強い依頼をする文である。

このような展開に、車掌やチケットは特に口をはさむこともなく、見守っていた。鉄道法規上の問題は何も無い代案だったのだろう。「はーい、ドア閉まりますよー。」とチケットは通告し、ライト・ヒカリ・カグラの三人を乗せて、発車していった。ミオは、まだ呆然としているらしいトカッチを引っ張って、連れて行った。

怪人の居る場所に、先にライト、ヒカリ、カグラが駆け付け、あとからタクシーで来たミオとトカッチが来たのちに行なった、戦隊の名乗りのときである。

  1. 五人が怪人たちに言った。「烈車戦隊トッキュウジャー」。
  2. 怪人が五人に「二人ほど、特急じゃなかったのだ。」と言った。
  3. トカッチがひとりごとのようにして「た、確かに。」と言った。
  4. ミオが、トカッチにか怪人にか、いずれにせよどちらにも聞こえるように「いいの、事情が有るんだから。」と言った。
  5. ライトが「そういうことだな。出発進行。」と言って、五人で怪人のほうへ進撃していった。

五人が「烈車戦隊トッキュウジャー」と怪人に言った。これは通常「名乗り」と呼ばれることの多い、儀礼性の高いものだが、まあ「通告」くらいの定式化をしておけば良いと思う。この番組を含むシリーズを始めとして、この種の「通告」という儀礼がルーティーン化しているものは、ごく多い。この種の番組では、問答無用で無断で攻撃をいきなり開始することは、比較的少ないのだ。

ミオとトカッチはタクシーであとから来たので、そのことをあげつらって、怪人のほうは「二人ほど、特急じゃなかったのだ。」と言った。別に必要も無いのに、わざわざ言葉にして発話しているわけだ。このような仕方で「余裕」を見せつける敵役は(味方役も)また少なくない。ともあれ、この種の発話は「指摘」ないし「あげつらい」とでも定式化できるだろう。

ミオは、怪人のこの発話とトカッチの独白めいた発話の両方に対して通用するように、「いいの、事情が有るんだから。」と言った。怪人のなした「指摘」に対しては或る種の「反論」となるように、そして、トカッチの「た、確かに。」という独白に対しては、「擁護」ないし「正当化」となるように、ミオの発話は構築されている。そもそも怪人のあげつらいが意味を成すのは、特急という語が、「鉄道のスピードの速さ」と「鉄道が到着するタイミング的な早さ」との両方が合致しやすい乗り物のシステムであることから来ている。そのことを浮き彫りにしているとも言いうる。蛇足ではあるが、そういう指摘もまあ可能だろう。

ライトが「そういうことだな。」と述べたのは、いわば「これにて一件落着」といった文言に近い機能をもつ。ミオのその発言で全部解決した。と、そのように扱うことで、この話題を終了させるというわけだ。

ミオとトカッチとが、他の三人に通信で知らされた目的地を探して、そこへ向かおうというところである。

  1. 「ここだ。この山を越えたほうが早い。」とトカッチはパスに表示された地図を見て、言って、駆け出して行った。
  2. 「え、でも山だよ。登れる。ねえ、トカッチ。」とミオがトカッチを走って追いかけて行った。
  3. しばらくのちに、「ぼくの体力心配してるんだろうけど、これくらいできなきゃぼくは自分が許せないから。」とトカッチはミオに言った。
  4. 「え」とミオはトカッチに言った。
  5. 「ぼく、本当は気にしてたんだー。一番役立たずなんじゃないか、って。」とトカッチはミオに言った。
  6. 続けて「戦いは当然ライトやミオにはかなわないし、勉強好きなわりに頭の良さはヒカリ(笑)のほうが上だし、女の子のかたまりみたいなカグラだって、いざとなれば強い。」とトカッチは言い、また少し黙る。
  7. 続けて「ぼくの…存在価値って!」と「存在価値って」を大声で言い、そのまま頭を抱えて座りこんでしまった。
  8. ミオは「トカッチ。とりあえず先進も。」とトカッチの肩に手をかけて言った。
  9. 「うん、ごめん、進む」とトカッチは小声でミオに言い、歩き始めた。
  10. 「う、いや、あたしトカッチのこと、すごい男らしくて頼りになるなあ、って思ったことがー有ったような」とミオが言い、まだ発言途中らしきとき、突然トカッチが振り向いて言った。「いつ?何時何分何秒?」。
  11. ミオはそれに対して「それがほら、記憶無くしてるから。ごめん。」と言った。
  12. 「そっか」とトカッチは無声音でつぶやいて、また前を向いてしまった。

「ここだ。この山を越えたほうが早い。」とトカッチは言って、先に走り出してしまった。相手に返答する余裕を与えずに、猪突猛進してしまうこのようなトカッチの発話は、たとえば「提案」とか「問題提起」といったものが似合わない。「即断即決」というのも違う。相手の態度を構っていなさすぎるのである。「独断専行」といったものにいちばん近い行為ということになるであろう。

「え、でも山だよ。登れる。ねえ、トカッチ。」と、ミオは叫びながら言った。これは「制止」したという行為がふさわしいものだろう。「再考の促し」でもあるが、それにしても、相手のほうが聞く態勢にないので、「制止」の要素がやはり強い。

しばらくのちにミオが追い付いてから、「ぼくの体力心配してるんだろうけど、これくらいできなきゃぼくは自分が許せないから。」とトカッチは言った。この内容が、「敗戦する軍隊」などにしばしば体現される思想であることに、むろんトカッチは気づいていない。ただ、そのトカッチの選んだコースというのは、もし体力その他の点で可能であるならば最善のものであったのではむろんあろう。その前提で、ミオは「可能か可能でないか」という次元を問題にしていたのに対して、その次元を問題にすること自体が「許せない」のだとトカッチは回答したことになる。ミオの制止や再考の促しに対する、拒否とでも定式化できるだろう。そして発話以前に身体動作のほうですでに拒否していたのでもあった。発話は事後説明でしかない。

おそらくこの回答だとミオは納得できる要素が無いことになろう。そのためでもあろうが、「え」と発話の促しを行なった。「もっと説明してほしい」ということである。

「ぼく、本当は気にしてたんだー。一番役立たずなんじゃないか、って。」とトカッチは突然話を切り出した。「本当は」という言い方は、「一見そう見えないけど」という主張を伴う。そして、この回のトカッチは確かにミオに対していつになく冷淡だったり、すこし偉そうだったりはした。その点を考慮すると、ここで「本当は気にしていた」という言い方が使われるのはまっとうであることがまずわかる。また、「役立たず」という認識は、そもそも今回のトラブルの原因を考慮すれば、当然指摘されうるものである。「パスを紛失して皆に迷惑をかけた」ということが「役立たず」であることにほかならない、というわけだ。だがここでトカッチが「役立たず」で言わんとしていたことは、その件がらみの事柄ではなかった。そのことがこの箇所ではまだわからない。

「戦いは当然ライトやミオにはかなわないし、勉強好きなわりに頭の良さはヒカリ(笑)のほうが上だし、女の子のかたまりみたいなカグラだって、いざとなれば強い。」とトカッチは言う。「役立たず」という言い方で言わんとすることが、何か戦士としての能力や資質に関するものであるらしいことが、この箇所あたりから見当がついてくる。

「ぼくの…存在価値って!」と、存在価値のあたりから大声で叫び、トカッチは頭を抱えて座り込んでしまった。ここまで来て、ようやくトカッチが気にしていた「役立たず」の内実の方向性がだいたいわかって来るようになっている。まあここに来るまでの発話が少々長めであったが、ひとことで言えばトカッチは「人前で自己嫌悪をする」ということをしたのである。まだこれだけだと「このくらいできないと自分が許せない」の直接的な説明までには至っていない。しかしもうかなり想像はつきやすくはなっている。人より劣っていると思っている分だけ、よけいに埋め合わせや背伸びをしなければならない、という思いがあるということなのだろうな、というわけだ。

その様子を見ていたミオはいやな顔など一切せず「トカッチ。とりあえず先進も。」と肩に手をかけて言った。これはミオが特にできた人物だから、というのもあるだろうが、他にも理由や事情が有る。その一つが直後に語られる。

「うん、ごめん、進む」とトカッチがとりあえず立ち上がって歩き始めたのち、ミオが語り始めた。「う、いや、あたしトカッチのこと、すごい男らしくて頼りになるなあ、って思ったことがー有ったような」というものである。この内容だけでも、ミオがいやな顔をせずトカッチを励ました理由になりうると思える。だが、ここまでミオが語ってまだその語りが終わっていなそうなうちに、突然振り返りまた先ほどの自己嫌悪以前のときの口調で早口に「いつ?何時何分何秒?」とトカッチはミオに言った。

このトカッチの「質問」に対しても、ミオはやはりいやな顔ひとつせず、ふつうに「それがほら、記憶無くしてるから。ごめん。」と返答した。この「ごめん」は通常必要無いだろう、この状況・この場面で「ごめん」など不要だろう、とふつうなら思うところだ。ミオの側に、賞賛すべき点こそ有れ、落度などおよそ無いように見える視聴者が多いはずだからだ。だがここでミオは「ごめん」とまで言った。そのことによって、ミオが思い出せない「トカッチのこと、すごい男らしくて頼りになるなあ、って思ったことがー有った」というのがどんなに強い思いだったのか確信させるような、そういう効果をもつと思う。ともあれ肝腎なのは、ここで無くしている記憶というのが、何年何月何日何時何分何秒の出来事だったのか、ではなくて、出来事の概要であるということだ。日時や時刻がわからなくても、何かわかることが有れば、このミオの態度からすれば、確実にトカッチに述べているはずだからだ。それを言わないということは、出来事の概要などからして記憶に無いということであるのだ、と判断できるのである。

ともあれ、トカッチの「自己嫌悪」に後続して、ミオはトカッチを励ますべく自分の体験を語ろうとしたが、その記憶が空白であることが判明して、励ますことができなくて済まないと、まあ「謝った」わけである。ともかく、ミオはトカッチの自己嫌悪に対して、それを解決するヒントを持っていて、かつそれを思い出すことができない状態であることがわかった。と同時に、それは「現在の青年トカッチへの評価が高い」ことは意味しないことでもある。もしそうなら、そちらを述べているはずだからだ。「そっか」とトカッチが無声音で述べたときにも、そこまでトカッチ当人も想定しうることが重要だ。「過去の自分にしか良いところは無いのかもしれない」とだ。だからよけいに元気が無いのかもしれない。

ここまでのやり取りで問題の所在はわかったが、「これくらいできないと自分が許せない」というトカッチの独断専行への説明は、本人からは充分にはまだなされていない。あくまで、推定できるようになった、にとどまる。その点も押さえておいて良い。

山歩きの途中で、ミオがスタスタ歩くのに、トカッチが止まって休んでしまう。

  1. 「結局足手まといに。」とトカッチは言い、続けて座り込んで「情けない。」と言った。
  2. 先を歩いていたミオが振り向いて、「トカッチ。」と言い、トカッチのほうに近づきながら、さらに発話する。「あのね、わたしも気にしてること有ってさ、みんなよりイマジネーション弱いんじゃないかなあって。」とトカッチに言った。
  3. 「え」とトカッチは顔を上げてミオに言った。
  4. 「ライトに引っ張ってもらわないと、きっと何も想像できないと思う、あたし。だからなんでトッキュウジャーに選ばれたのかなあ、って。」とミオはトカッチの方を向かずに言った。
  5. 「ミオ」とトカッチは言った。
  6. 「トカッチに“イマジネーション鍛えれば”って言われたとき、カチンって来ちゃった。図星だから。」とミオはトカッチに言った。
  7. 「そんな。ミオは凄いじゃない。みんなのことフォローしてくれて。今だってぼくのことを。(少し呼吸を入れて)トッキュウジャーに居なきゃダメだよミオは!」とトカッチはミオに言った。
  8. かなり時間を置いてから、ミオはトカッチのほうを向いて「ありがとう」と言った。
  9. トカッチはここでまた呼吸をいれてから、無声音で何か言いながらうなずいた。

「結局足手まといに。」「情けない。」と、ミオのペースに全く追いつくことができず座り込んでしまったトカッチは言った。もちろん、当初威勢良く「ぼくの体力心配してるんだろうけど」などと反論的な内容を言ってしまい、当初からこの展開を充分心配していたミオに対して、それを振り切って来てしまった結果として「言葉も無い」状態になってしまったというときの発言である。「情けない」というのが、何に関する情けなさなのかは、明言されていないが、さすがに「足手まといになったこと」だけではないだろう。当然、最初から危惧されていたのにそれを振り切って山登りを選択したことまで含めての「情けなさ」だろう、と思う。さすがにそうだろうと思う。ともあれ、今一度「人前で自己嫌悪する事」をトカッチは行なう展開となった。

先を歩いていたミオが振り向いて、いやな顔一つせず「トカッチ。」と話しかけた。そしてトカッチの感じている情けなさがどのレベルであっても通用するような、「フォローすること」をその後行なったのである。「あのね、わたしも気にしてること有ってさ、みんなよりイマジネーション弱いんじゃないかなあって。」と、自分のコンプレックスを話題提供したのである。

「え」とトカッチは顔を上げて言った。ミオのイマジネーションという話題は、すでに車内で自分自身がしてしまっているし、或る意味ではそれほど意外な内容ではない可能性も有る。ただ、そこをミオが気にしていることは意外だったのだろう。気にしていないと思ったからこそ、車内で「イマジネーション鍛えれば」なんて言ったに相違ないからだ。この「え」はその驚きの表明と、発話のさらなる促しであろう。

「ライトに引っ張ってもらわないと、きっと何も想像できないと思う、あたし。だからなんでトッキュウジャーに選ばれたのかなあ、って。」とミオはさらに述べる。とは言え別に、ミオの場合実害や失敗がそれで生じたというわけではないだろう。あくまで当人が感じている範囲内の劣等感ではあるだろう。ともあれ、自身の提供した話題のさらなる説明であり、トカッチに対するフォローである。「悩んでいるのはあなただけではない」というわけだ。「なんでトッキュウジャーに選ばれたのかなあ、って。」この箇所はトカッチの反対側を向いて話している。

「ミオ」とトカッチは言った。これは「下手をするとミオがトッキュウジャーを辞める」という可能性が浮上してきたことに、おそらく関係の有る話しかけである。こういうタイプの相手を呼ぶ行為は、おそらく「話が一通り終わったら、こちらも言いたいことが有る」という場合に、予示的に使われやすいものだろう。

ミオは、さきほどの件をあらためて話題に引きずり出した。「トカッチに“イマジネーション鍛えれば”って言われたとき、カチンって来ちゃった。図星だから。」つまり、トカッチから見てもそう思えている、ということまで含めての、コンプレックスだったというわけだ。「第三者からみてもイマジネーション無いように見えてるんだろうなあ」というわけだ。具体的な実害や失敗は無かったとしても、このくらいだと悩みは深刻だし、イマジネーションはトッキュウジャーという戦隊の戦力の根幹なので、重要性が低いとは言えない。

トカッチはそこで熱烈に訴えた。「そんな。ミオは凄いじゃない。みんなのことフォローしてくれて。今だってぼくのことを。(少し呼吸を入れて)トッキュウジャーに居なきゃダメだよミオは!」と言ったのだ。これは相手の劣等感を否定したのではなく、別の長所が有ると述べて、擁護したのである。相手の劣等感を否定しなかったのは、おそらく何もそれで実害や不利益が生じていないから、否定のしようもない、ということが有るだろう。

「ありがとう」とかなり時間を置いてから、ミオはトカッチのほうを向き直して言った。これはトカッチがこの回の最初の頃に見せていた冷笑的だったり、かと思えば動揺ばかりしていたのと少し違って、不器用ななりに真剣な顔つきを見せていたことに、応接したものだろう。

ミオはトカッチを「フォローする」「励ます」ために、自分の側の劣等感を話題として提供し披露した。それは先ほどのトカッチのような「自己嫌悪してみせる」ような態度ではなかったし、その劣等感も実害を生んでいるような資質についてのものではなかった。そういうわけなので、ほんとうのところ、トカッチのフォローや励ましになっているほどのものかどうかは、少々疑わしくはあった。ただ、それはトッキュウジャーという戦隊の根幹に位置する劣等感であるため、ミオが思いつめて「辞める」選択をすることは今後ありうるものだった。トカッチはそのため、ミオを熱烈に擁護し、それこそフォローや励ましをし返した。トカッチにこのような行動をとらせたことこそが、トカッチの自己嫌悪状態から多少脱する契機になったとも思えるものだった。と、そのように総括できるだろう。トカッチが最後に無声音でうなずいたのは、ミオが「ありがとう」とトカッチに「お礼」を言った時の態度で、ひとまず辞めるということは無さそうで安心したという、その安心の提示であろう。

崖から落ちそうになったミオをトカッチが救助し終わったあとの会話である。同じような出来事が子供時代にも有った記憶がよみがえっている。

  1. 「あのときだ、トカッチのこと頼りになる、って思ったの。」とミオはトカッチに言った。
  2. うなずいて「ちょっとだけ思い出した。でもなんでああなったんだろう。」とトカッチはミオに言った。
  3. 「うーん」としばし考えて「いいよ!こうやってちょっとずつ思い出せば。でもほんとだったでしょ。あたしの話。」とミオはトカッチに言った。
  4. 「うん」とトカッチはミオに言った。
  5. ミオは「よし」と立ち上がり、トカッチに向かって握手の手を差し伸べた。
  6. 続けてミオは「頑張ろうよ。コンプレックス有るものどうし。」とトカッチに言った。
  7. トカッチも立ち上がり、ミオと握手を交わした。

ミオの「あのときだ、トカッチのこと頼りになる、って思ったの。」という発話は、その件こそが以前やり残した「トカッチに対する肯定的な記憶」の概要であることの、遡行的な説明である。つまり、「さっき言おうとしていたのは、これであった」という念押しの確認でもある。

トカッチもミオと同時にこの件を思い出している。それで「ちょっとだけ思い出した。」とまずミオに同意した。「でもなんでああなったんだろう。」と少し問題提起をした。実際この「記憶」には「経緯」というものが欠けている。突然、核心的な場面だけがぽっかりと宙に浮いたように思い出されたのである。その点を問題提起することは、不自然ではない。ミオのほうがもし覚えていれば、さらなる記憶の回復につながるかもしれない。また、それは「トカッチのことが頼りになる」ことのさらなる根拠につながるかもしれないのだ。トカッチのほうが思い出しに熱心であることは、不自然ではない。

だが、やはりというか、トカッチが思い出せないものは、ミオにも思い出せないのであった。「うーん」としばし考えて「いいよ!こうやってちょっとずつ思い出せば。」とミオは言った。この「いいよ」は、「思い出せなくてもいいよ」という文意である。そして、トカッチの「問題提起」に対しては、「保留」的な態度をもって応接したことになる。

続けてミオは「でもほんとだったでしょ。あたしの話。」とトカッチに言った。この記憶の箇所だけでも、トカッチが頼りになることの証左にはなる。そのことで自己嫌悪していたトカッチの心境を変えることもできうる。なので、この点に関してあらためて「確認」をミオがとり、トカッチに「同意を求める」ことは不自然ではまったくない。その同意の求めに対して、トカッチも「うん」と言って「賛同」をした。

続けてミオは「頑張ろうよ。コンプレックス有るものどうし。」とトカッチに言った。きわめて現実的な話をすれば、そもそも彼らは戦闘場面に一刻も早く到着しないといけないのである。だから、トカッチの自己嫌悪や数々の失策にかかずりあっている場合ではない、という現実的な要請が先行している。無自覚的なのだろうが、そういうときに、問題の「解決」を行なうことができるのはやはりミオのほうなのであった。トカッチの失策のあれこれに拘泥することなく、その根幹である劣等感だけを相手にして「頑張ろうよ。コンプレックス有るものどうし。」と提言し、「解決」「事態の収拾」をはかることが、ミオにはできる、トカッチがパスを無くしたときの手際の良さと同じような「解決能力」がここでもまた際立つのである。

第04話の主な会話の箇所の記述・描写は、可能な箇所はまだたくさん有ったと思うが、それでも主要なものはだいたい行なったと思うので、ここで終わらせたい。