会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第03話

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はじめに

テレビ朝日系放映番組「烈車戦隊トッキュウジャー」第03話での会話の構造を、少し明確にしてみたい。そして、その会話の構造をどのように「記述」「描写」してみるのが良いのかを検討したい。ここで「記述」や「描写」に用いられる語彙というものを、中学生以上なら使うことができて良い語彙として提示する試みである。趣旨の説明は「会話の構造(そして中学生の語彙力):烈車戦隊トッキュウジャー第01話」の最初の節を参照してほしい。

烈車戦隊トッキュウジャー第03話 会話の構造の説明例

第二話でまだ終わっていない会話が繰り返されるところから、番組が始まる。

  1. 「なるほど、あなたたちが記憶が無く死んだも同然なのは、闇に呑まれたどこかの町の住人だったのではないか…と。」と車掌は五人に言った。
  2. 「ヒカリの推測ですけど、ぴったりはまりますよね。」とトカッチは車掌に言った。
  3. 「どうなんですか」とミオは車掌に言った。
  4. 「そうですねー…答は…」と車掌は五人に言った。
  5. 「当たり」と車掌は五人に言った。
  6. 「ハズレ」とチケットは五人に言った。
  7. 「どっち?」と五人は一斉に言った。

車掌が発話する前段階で五人の誰かが、そのような推測を披露したのであろう。その推測に対する車掌の発話は、言わば、引用的に繰り返すことで、「確認」の発話となっている。まず「なるほど」という言い方から開始し、推測の披露に対して、その披露行為自体への是認を与えている。その是認のうえでの、確認の発話とでも言えよう。特に「ないか…と。」で発言を切っている点が特徴的である。このような確認の発話には、通常何かしらのきちんとした体裁の応答が後続することが多い。なので、言わばその「応答の予告」にもなりうる発話である。

「ヒカリの推測ですけど、ぴったりはまりますよね。」というトカッチの発話は、どちらかと言えば、視聴者向けの要素も強いが、ここまで番組で提示されてきたいくつかの手掛かり(車掌やチケットの発言、怪人の発言として聞いた町の少年の証言)とは整合していることの主張である。これは抜き差しならない要素を提示することで、より強く車掌の応答を促している行為である、と言える。「応答の促し」である。

「どうなんですか」というミオの発話も、応答を促している点では同じである。というのも、ここまでのやり取りで、車掌は五人の反対側を向いていたのである。

総じて言えば、車掌は五人の方を反対側を向いたまま話しており、それに対して五人は言わば「詰め寄る」とでもいうような態勢で、応答の促しを行なってきたのである。ともあれ、ミオの発話の直後に、車掌(とチケット)とは、五人の方と対面するように向き直した。その際に「そうですねー」と車掌は発話したのである。これは「応答の予告」にほかならない。

五人が車掌に対して「応答の促し」を行なってきたことに対して、車掌は「応答の予告」でまずは応接した。次には、車掌は「当たり」と言い、チケットは「ハズレ」と言い、ともあれ五人の「質問」に対する「回答」もすることになり、五人が「どっち?」と疑念を呈するわけだが、この点は第三話に持ち越しとなる。この会話は、第三話に入って次のように続く。

  1. 「ま、どっちとも言えるってことですよ」とチケットは五人に言った。
  2. 「まず、あなたたちがシャドーラインの侵出により、闇に呑まれた町に居た、という推測は当たっていると思われる部分です。」と車掌は五人に言った。
  3. 「思われる、って曖昧だな」とヒカリが言った。
  4. 「別にー見ていたわけじゃないですしー、気がついたら、お前たちがレインボーラインに飛び込んで来てたんですよー」とチケットがヒカリたちに言った。
  5. 「おそらく、あなたたち五人が持っている、強いイマジネーションのせいで闇から弾き出されたのでしょう。そこを見込んで、トッキュウジャーになってもらったんです。」と車掌は五人に言った。
  6. 「ライトは弾かれ過ぎてシャドーラインまで行ってしまったようですけどね。」とチケットは言った。
  7. 「じゃあ……、ハズレてる部分は?」とミオが車掌たちに言った。
  8. 「あなたたちの記憶が無い理由です。」と車掌は五人に言った。
  9. 続けて「町は闇によって世界と切り離された。あなたたちは光によって世界と切り離された。」と車掌は五人に言った。
  10. 「つまりー、お前たちがレインボーラインに入ったせいですー。」とチケットは五人に言った。
  11. 「えっ」とミオが言うなど、動揺が少し五人の間に起きた。
  12. 「へー」と言いながらライトはチケットたちのほうに歩き出した。そして「じゃあ、列車降りれば戻るってことか?」とライトはチケットに言った。
  13. 「そんな単純な話じゃないですよ。まさか!」とチケットはライトに言った。
  14. 「一番最初に何か大きな衝撃を受けたのでしょう。町が闇に呑まれたせいか。或いはシャドーラインのせいか。」と車掌は言った。
  15. 「シャドーラインのせいに決まってますー。だからこそ早く排除する必要が在るんです。」とチケットは言った。
  16. 「いや、町の方の可能性も捨てきれないんじゃ?」とトカッチが言った。
  17. 「いいですよ、別に町だと思うなら町探しても。ただし、トッキュウジャーの使命はシャドーの排除ですからねえ。町探しは列車降りてやってくださーい。」とチケットは五人に言った。
  18. 「ええっ?」と五人が言った。
  19. 「さってっとー、仕事仕事ー。」と言いながらチケットが車掌を引きずるようにして、ともに去っていった。車掌は引きずられながら「チケット君言い方きつ過ぎー」と言った。

この箇所の会話内容のわかりにくさは、すでに一度書いたことが在るが、重複を厭わずにこの記事だけ読んでもわかるように、説明してみる。ともあれ会話の構造をまずは確認していく。

「ま、どっちとも言えるってことですよ」とチケットは述べた。これは五人の「どっち?」という質問に対する「回答」である。ただし、この言い方だけでは、ちゃんとした回答には聞こえない。更なる回答なり説明なりが、チケットたちの側から出ることが期待されるはずのものだ。

車掌は続けて「まず、あなたたちがシャドーラインの侵出により、闇に呑まれた町に居た、という推測は当たっていると思われる部分です。」という言い方をした。この言い方は効率が良い。というのは、ではその次に「当たっていない部分」の説明も行なわれる、という全体構造になるだろうことが、あらかじめ予示されているからだ。また、「まず」という接続詞で開始することも、その効率の良さを強めている。ともあれ、これによって、「どっちとも言える」というチケットの妙な回答が「当たっている部分」と「当たっていない部分」とが在った、ということを含意していることを、端的に示しえている。その点で、「どっち?」という五人の疑念に対する回答でもあり、「どっちとも言えるってことですよ」というチケットの言い方に対する説明の要素を含む発話にもなっている。

「思われる、って曖昧だな」とヒカリが発話した。これは「もっとはっきりと確実な話をせよ」或いは「わかっているならもっとはっきり言ってくれ」という含意をもちうる。いずれの場合にせよ、言わば「異議申し立て」とでも定式化できるだろう。

「別にー見ていたわけじゃないですしー、気がついたら、お前たちがレインボーラインに飛び込んで来てたんですよー」とチケットは、この異議申し立てに回答した。「見ていたわけじゃない」「気がついたら来ていた」これは、状況説明にほかならない。ライトを除く四人が「気がついたらレインボーラインに居た」のと同じように、チケットや車掌の側からみても「気がついたら四人がレインボーラインに居た」のは同じである、というわけだ。なので「曖昧だな(だから良くない)」というヒカリの異議申し立てに対して、「曖昧ですよ(しようがないでしょう)」という、軽い応酬のようなやり取りだと言えるだろうか。ともあれ、ここで単に応酬がなされただけではなく、事実関係が少し明らかになった。

「おそらく、あなたたち五人が持っている、強いイマジネーションのせいで闇から弾き出されたのでしょう。そこを見込んで、トッキュウジャーになってもらったんです。」と車掌は五人に言った。後半の「そこを見込んで」のくだりは、すでに第一話で車掌が演説的に説明していた。だからここでの新情報は主に前半部分になる。この前半部分は、「彼らがシャドーによって闇に呑まれた町に居た」という推測に後続する推測の披露である。推測を推測として述べているわけだ。それは、「自分もまた、事態の全貌を把握しているわけではなんらない」ということの表明をも含む。すなわち、五人が自分たちに対して「正解」を求めるような態度で接してくるので、それへの緩和になっている、という面もある。

「ライトは弾かれ過ぎてシャドーラインまで行ってしまったようですけどね。」というチケットの発話は、まあ「軽口」のようなものだろう。車掌の発言を踏まえれば、ライトが五人のなかでもイマジネーションが特に強いというすでに提示されている認識と、その「弾かれ過ぎ」という捉え方は整合する。そのことも含めて、少し軽口をたたいてみた、といった発話であると思う。なお、この箇所ではシャドーラインというのが、「鉄道車両」あるいはせいぜい「鉄道網」といった物的なものを指すことに注意しておこう。のちに、そうではない用法が出てきて(視聴者が)混乱することになるからだ。

「じゃあ……、ハズレてる部分は?」とここでミオが発話した。車掌たちが推測で述べることができる内容は、一通り説明が済んでいることはだいたいわかる。そういう時点で、車掌から予示されていた「当たっていない部分」の説明を、要求したというわけだ。そういうわけでミオの発話は「質問」でも良いが、「要求」や「説明の促し」でも良い。

それに対して「あなたたちの記憶が無い理由です。」と車掌が端的な回答・説明を行なった。ただし、その内容は決してわかりやすいものではなく、またもや神学的というか形而上的なものであった。

車掌は「町は闇によって世界と切り離された。あなたたちは光によって世界と切り離された。」と述べ、次いでチケットがなぜか少し怒ったような調子で「つまりー、お前たちがレインボーラインに入ったせいですー。」と付け加えた。チケットのこの語調や「○○のせい」という言い方の用法(悪い結果の場合にふつうは使う)に惑わされずに、この二つの発話の内容をみていくと、「光によって世界と切り離された」という言い方と「レインボーラインに入った」ということが等値されているらしいことがわかる。とは言え「世界から切り離された、いわば世界の外部だって、それもまた世界だろう」と普通なら思うところだが、ここではたとえば「人間界」のことを「世界」と特に呼んでいるのかもしれない。また、「光によって切り離される」という言い方も、それだけではわかった気はしづらい。光というのはおそらく「善」の何か象徴のようなものだろうから、なぜそれが「世界」から切り離したり、それによって記憶を喪うことになるのかが、わからないからだ。

なお、ここでの用語とも言える「光」と、登場人物の名前の「ヒカリ」とはイントネーションによって区別されており、混同されることはあまり無いようだ。

「えっ」という発話などの動揺は、意図的行為というよりは声が出てしまったという反応のほうに近いようなものだと思えるので、「動揺した」などと定式化すれば良いと思う。

車掌とチケットの難解な形而上的な話を、ライトはすぐに自分なりに理解して次のように述べた。「へー」「じゃあ、列車降りれば戻るってことか?」と車掌たちに言ったのだ。記憶が失われているのはレインボーラインの圏域に居るからであって、そこから外に出れば、たとえば列車から降りれば、記憶が戻る、と理解したのである。ともあれ、ライトは「質問」をした。その質問は「理解の候補の提示」というものでもあった。

「そんな単純な話じゃないですよ。まさか!」というようにチケットはライトに返答した。「まさか」の部分は不明瞭な発音なので、推測で私が補っている。これはライトの提示した「理解の候補」を「否定」したのである。ただし、どの程度の強い否定なのか、たとえば部分的には正鵠を得ているのか、或いは根本的に誤っているのか、とかそのあたりはまだわからない。「そんな単純な話」ではなく「複雑な話」ではあるが少しは当たっている、ということがありうるような言い方だからだ。

「一番最初に何か大きな衝撃を受けたのでしょう。町が闇に呑まれたせいか。或いはシャドーラインのせいか。」と車掌が述べた。この二択がまたわかりづらい。というのも、普通に考えれば、町が闇に呑まれたとすればそれはシャドーラインのせいだと見なせるはずだからだ。だからこれが二択になるのがそもそも奇妙である。で、筆者の見立てでは、シャドーラインという語が多義的であることから、この分かりにくさは来ていると思う。第01でシャドーラインという語が初めて車掌から紹介されたときは、この語は「鉄道網を支配している宇宙人か何かで構成されている組織」のことを指していた。つまり「人間に似たものによって構成されている集団・組織」のことだった。その一方で、先のチケットの軽口にもあったように、シャドーラインが即物的な鉄道車両を指すこともあれば、鉄道網全体を指すこともある。車掌がここで言うシャドーラインがそのうちのどの用法なのかがはっきりしないのである。ただし、もっとも狭義とも言える鉄道車両の意味だとしても、通用する。その場合、シャドーの鉄道車両によって「何か大きな衝撃」が与えられた、と解することができ、この場合は二択を形成可能である。それと「町が闇に呑まれる」とは別の事態だからだ。反対に、シャドーラインを「悪の組織」の用法で理解すると、この二択は全く理解できなくなる。なので、ここでの「大きな衝撃」というのは、シャドーラインという鉄道車両が与えた何かの大きな衝撃だと理解しておくことにする。ともあれ、この発話もまた推測を推測として述べるというものになっている。なお、車掌の発話のこの分かりにくさは、ここでの一連の会話では、まったく一義的で分かりにくさの無い、理解可能なものとして、問題無いものとして流通していくことになる。

「シャドーラインのせいに決まってますー。だからこそ早く排除する必要が在るんです。」というチケットの発話も、車掌の二択を異なった二つの選択肢として理解したうえで、なされている。従ってここで「シャドーラインのせい」と言っているのも、鉄道車両やそれの類比物(駅や線路など)による即物的な衝撃のことだと述べられていることになる。排除する必要が在るというのも、その水準での話がまずなされていると解するべきだろう。チケットはライトの発話を「そんな単純な話ではない」と述べたので、それへの回答という面も在るはずだ。だとすると、その物理的な衝撃に起因する、少し重度の記憶喪失がまず前提に在るはずだ、レインボーラインの圏域から降りれば済む程度のものではない、と述べていることになるだろう。ともあれ、この箇所はライトの提示した「理解の候補」への「否定」に関しての「補足説明」の面をもつはずだ。と同時に、「早く排除する必要が在る」→「だから五人にトッキュウジャーをやってほしい」という要求をも、少し示唆することにもなる。

「いや、町の方の可能性も捨てきれないんじゃ?」というのは、最初にヒカリが提示した可能性のほうである。この発話も扱いが難しい。シャドーラインのせいという言い方は、複数の可能性をもつので、その全部を否定してこちらの選択肢を支持している、とも言い難いからだ。むしろ普通に考えれば、シャドーラインという組織のせいで町が闇に呑まれたという部分までは、否定していないと見るべき発言だろう。シャドーライン以外の別の要因によって町が闇に包まれる、というような前提が特に当然視されているとも思えない。だから、このトカッチの発話は、「シャドーの排除」というチケットの要求までは否定していないと聞くのが、自然であるはずだ。チケットとは違う選択肢を支持できると示唆・推測する発言ではあるが、チケットの採用した選択肢の否定までは示唆していない、とみるのが自然であり妥当だろう。

結局放映上の都合で少し、切り詰められたりしたせいなのだろう。チケットはこの発話を自分の要求した「シャドーの排除」への否定と性急に受け取った。その受け取りとワンセットになっているのは、トカッチたちは「町が闇に呑まれれて記憶を喪った」→「町を探しに行こうとする」というふうに決めてかかっている点だ。実際、のちの展開にみるように、「町を探したい」という欲求自体は、五人の間に無いわけでは決してない。それはすごく在るのだ。おそらくその欲求を感じ取ったのであろう。「いいですよ、別に町だと思うなら町探しても。ただし、トッキュウジャーの使命はシャドーの排除ですからねえ。町探しは列車降りてやってくださーい。」と、相当唐突にチケットは述べることとなった。これは、トカッチが「推測」を述べたのに対して、それ以上の「欲求」を感じ取ったチケットがその「欲求」への「否定」或いは「交換条件」を先回りして提示したものだと言えよう。その「町探し」という話は、トッキュウジャーをやっている限りは飲むことはできない。もしそれをやりたいなら、トッキュウジャーを辞めてレインボーラインから降りてくれ、というわけだ。言わば「先手をとって封じた」かっこうだ。

これに対して「ええっ?」と五人が言ったわけだ。これもどの箇所に対する驚きなのかにもよるが、結局のところ「町探し」と「トッキュウジャーをやること」とが両立不可能な二択であることを告げられての、そのことに対しての驚きだと見るのが良いだろう。この箇所だけ視聴してもそれは断定できないので、のちの展開からの遡行的な推測として、そのように言える。

「さってっとー、仕事仕事ー。」とチケットは五人に聞こえるように言いながら、車掌ごと去って行った。この発話は「言いたいことはすべて言った」という含意であり、相手の返答を聞く気が無いことを通常意味することになる。「さてと」という語の特に「さて」が通常話題の転換や会話自体の終了に用いられることが、その発話行為を可能にしている。また、会話をすみやかに終了させ退場することの「理由」も、口実にしか聞こえないとは言え、それなりにきちんと述べている。「仕事仕事」というわけだ。

またその退場の際に、車掌が「チケット君言い方きつ過ぎー」というふうに発話している。この発話は、チケットの発話内容そのものを否定しないまま、言い方だけに異議申し立てをする、ということをしている。そのこと自体を言葉で述べることで実演的に、異議申し立て(ということ)をしている。これは、或いは僅かながら、五人に対する影響を緩和しているかもしれない。車掌のほうなら話に或いは応じてくれるかもしれない期待が少しもてるからだ。

  1. 「あれ、絶対自分で動かしてるなあ。でも隙が無いんだよなあ。」とライトは言った。
  2. 「今そこじゃないでしょ。」とすぐにヒカリがライトに言った。
  3. 「話聞いてた?あたしたちの町探すなら、列車降りろ、って。」とミオがライトに少し詰め寄って言った。
  4. 「うん、トッキュウジャー辞めろってことだろ。」と言いながら、ライトは皆の方を向かずに席に座った。
  5. 「無いな。絶対無い。」とライトは、他の者に聞こえるように、しかし皆のほうを向かないで言った。
  6. カグラはその一部始終を見ながら考え或いは感傷等にふけっているようだった。

ライトの発話は、先ほどの車掌とチケットの態度に対しての、「話題提供」くらいのものだろう。先ほどまでの話の内容ではなく、その態度のほうを話題にしたわけだ。

その点に関して、ヒカリが速攻で「異議申し立て」をした。内容的な異議ではなく、「そもそもその話題自体が間違いだ」と述べたのである。「今」という語をその際ヒカリは用いている。これは「緊急性」の主張でもある。「その話題は緊急性が低い」というわけだ。

続けてミオがそのヒカリの発話を支持するようにして、さらにはっきりと述べた。「話の内容こそが重要である」というふうにライトに異議申し立てをしたのである。その際「話聞いてた?」から開始することが注目される。この言い方から開始することで、車掌たちの話した内容のエッセンスを、次にあえて繰り返して述べるということが自然になる。万一話を聞いていなかったなら、今私が話すから聞きなさい、というわけだ。「あたしたちの町探すなら、列車降りろ、って。」というふうに後続することが、しやすくなったわけだ。

「うん、トッキュウジャー辞めろってことだろ。」というライトが発話する際に、他の四人と目を合わせていない。そして、皆の方を向かないで着席してしまう。おそらくこの点にこの発話の特徴が在る。ライトの発話は明確にミオの発話への応答になっている。まず「うん」でミオの話を理解していることを表示し、「トッキュウジャー辞めろってことだろ。」とミオの提示した「車掌の話のエッセンス」を、別の言い方できちんと言い換えてみせた。だが、内容的にはミオへの応答であり、その発話を理解しているという提示なのだが、身体はそのミオたちの方向を向かず、目を合わせようとしない。それはおそらく後続する発話を、皆の方向を向かずに行なうためだ。

「無いな。絶対無い。」。文字だけで見ると少しわかりにくいが、音声を聞くと「トッキュウジャーを辞めるなどということは絶対無い。」と言っているようにしか聞こえない。そのくらいきっぱりと伝わるように発話している。だが、それを他の四人の方向を見ないで、コミュニケーションとしてではなく、個人的な意思表示として行なうというそういう態勢をライトは明確に取っているのである。だから、この箇所までをミオへの応答や応接と見なすことは少し難しい。むしろ、そういう、誰かとのやり取りから切り離された個人的な独り言に近いような言い方を、ライトがあえて選択しているように見える場面である。

  1. 車両の座席の在る客室外部の、接続箇所のあたりでカグラが車窓を見ながら独り佇んでいる。そこにライトが通りかかる。「カグラ、まだ起きてんのか?」とライトはカグラに言った。
  2. 「ライト」とカグラはライトに言った。
  3. 「あー、腹減ったんだろう。夕飯残してたもんな。よし、夜中のおやつに取っといたの特別に分けてやる。ほら。」とライトはカグラにおにぎりを差し出しながら言った。
  4. おにぎりを受け取って少し時間をおいてから、カグラはライトに「ライトは町に帰りたくないの?」と言った。
  5. 少しおいてカグラはまた「秘密基地が在って、たぶん、お父さんとかお母さんとか居るのかな?ほんと何も覚えてないね。名前だって、ライトとかミオちゃんとかいうだけで苗字も。」とライトに聞こえるように言った。
  6. 「カグラ。(少しおいて)お前列車降りたいのか?」とライトはカグラに言った。
  7. 少し経って「降りたいなら降りてもいいんだぞ。」とライトはカグラに言った。
  8. 「え?」とカグラはライトに言った。
  9. 「何にも覚えてないってことは何にも縛られてないってことだからな。町探したいなら探すし、何やるのも自由だ。」とライトはカグラに言った。
  10. 少しおいて「ライトがやりたいのはトッキュウジャーなんだよね。どうして?」とカグラはライトに言った。
  11. 「へ??いや、だって、シャドー斃さないと世界が、なんつうかまずいだろ。斃せるのはトッキュウジャーだろ。そしたらやるしか無い。てか、やりたい。それだけ。」とライトはカグラに言った。
  12. 「なんか、あたしには難しいかな。」とカグラはライトに言った。
  13. 「そうか?」とライトはカグラに言った。
  14. その後「まあ、いいや。よーし、トイレ行って自由に寝るか。おやすみ。」とライトはカグラに言って去って行った。。
  15. 「おやすみ。」とカグラはライトに言った。
  16. 「偉いな、ライトは。みんなもそうなんだろうな。」とカグラは車窓を見ながらひとりごとを言い、さらに「わたしは…」と言った。

このシーンは、カグラが言わば「誰かに肩を押して欲しかった、しかしどういう方向に押して欲しいか自分でもわかりかねていた」とでもいう状況に在ったもののように、私には思える。そして、ライトとの会話が、半分程度「肩を押す」結果になってしまうというその伏線場面である。

「カグラ、まだ起きてんのか?」とライトはカグラに言った。これはごく単純な「質問」である。

カグラは「ライト」と言った。カグラの発話は「自分が話しかけられたことをわかっていること」「相手が誰だかわかっていること」の主張以上のものではないだろう。ここで発話順番が交代する意図だったかはわからない。ここでカグラが話し続けることも可能だっただろう。発話順番を譲渡するような言い方には聞こえない。だが先にすかさず、ライトが話し始めた。「あー、腹減ったんだろう。夕飯残してたもんな。」と言った。これは、カグラがなぜその場所にそのタイミングで居るのか、についての「仮説の提示」くらいであろう。「質問」よりはもう少し確信の度合いが強い言い方だと聞こえる。

続けてライトは「よし、夜中のおやつに取っといたの特別に分けてやる。ほら。」とカグラに言い、実際におにぎりを手渡す。「夕飯残してた」ことを記憶しているくらいなのだから、それはカグラの場合、或る程度珍しい出来事だったのだろう。だが、それを「腹減った」という方向で解釈するところが、ライトならではの「假説」の特徴である。普通は、むしろ心配事や健康状態の悪さと関連付けて解釈するからだ。そのライトならではの解釈の延長での「親切」の提示として、このおにぎりの提供とその発話を定式化できるだろう。

その後少し時間をおいてから「ライトは町に帰りたくないの?」とカグラはライトに言った。これは「少し言い出しづらい話題を思い切って切り出す」とでもいうような発話行為として定式化できるだろう。もっと簡単にまとめてしまえば「問題提起」である。ここで発話順番が入れ替わって、ライトが発言し始めることも可能だっただろう。だが、ライトもこの問いに即答はしなかった。そのため、少しのブランクののち、カグラが話し続けることになる。

「秘密基地が在って、たぶん、お父さんとかお母さんとか居るのかな?ほんと何も覚えてないね。名前だって、ライトとかミオちゃんとかいうだけで苗字も。」と、これはライトに対して言ったというよりかは、ライトにも聞こえるように言ったくらいの話し方をカグラはした。言っているうちにだんだん、半分くらいは独白調に近づいていき、また途中からライトの方向を向かないような態勢になってもいった。「ほんと何も覚えてないね。」あたりからが、ライトに話しかけるというよりは、ライトに聞こえるように言う、に変化していった地点である。

要するに、前回ヒカリが問題にしていただろうはずの「根拠の無い想像はできない。記憶が無いから根拠が無い。だから戦闘は難しいだろう」という論点が、先ほどのチケットが町探しの断念を求めたことによって、カグラの中ではまったく振り出しに戻ってしまったことになるのだ。その「記憶の無さ」を「放置すべきか、しないべきか」という二択になってしまったわけだ。特に積極的にトッキュウジャーを辞めるという選択をしない限り、「記憶の無さ」は「放置」されることが宣言されてしまったわけだ。

カグラは最初「ライトは町に帰りたくないの?」とわりと明確な問題提起を行なったが、その問題の説明をしているうちに、だんだんそういう自分自身に自信が無くなる、とでもいったふうに変化したのであろう。そのように見える。ともあれ、ライトに対して訴えかけるその明確さは徐々に失われたとは言え、「問題提起」のより詳しい説明を言葉のうえでは適切に行なったというふうに、この箇所は定式化できると思う。

「カグラ。(少しおいて)お前列車降りたいのか?」とライトはカグラに言った。カグラの問題提起に対して応答するのではなく、ちょうどカグラの最初の質問と対称的になるように、質問し返したのである。これは言わば、ライトなりの解釈で「カグラが肩を押してもらいたがっている」と受け取ったということでもあろう。実際、後続のライトの発話ははっきりとそういう方向性のものになる。

少し経って「降りたいなら降りてもいいんだぞ。」とライトはカグラに言った。これは「肩を押した」という行為である。つまり「決心がつきかねている相手に、なんらかの助言的なことをすることによって、決心をつけてあげる」行為である。少なくともライトの側から見れば、この発話はそのように位置づけて良いはずだ。

「え?」とカグラはライトに言った。戸惑いの表明でもあり、相手にさらなる説明を促す発話でもある。

「何にも覚えてないってことは何にも縛られてないってことだからな。町探したいなら探すし、何やるのも自由だ。」とライトはカグラに言った。これは、自分の助言の「根拠の提示」であると言える。

ライトの助言には特に応接しないまま、カグラは少しおいて「ライトがやりたいのはトッキュウジャーなんだよね。どうして?」とライトに質問した。この質問は、先ほどの「ライトは町に帰りたくないの?」と、ほとんど「同じこと」である。こういうことだ。「AかBか、片方しかできない」と条件がつけられている状態で「Aをやりたい」という明確な意志をもった人物が居た場合、「Bは(なぜ)したくないの?」と聞くことも「Aはなぜしたいの?」と聞くこともできる。どちらを聞くこともできる。それをカグラは行なったわけだ。ともかくさきほどの質問の言わばやり直しの質問である。

「へ??いや、だって、シャドー斃さないと世界が、なんつうかまずいだろ。斃せるのはトッキュウジャーだろ。そしたらやるしか無い。てか、やりたい。それだけ。」とこれまたライトはきっぱりと「何やるのも自由」「トッキュウジャーは自分の自由意志でやる」とまで応答したことになる。別に町に帰りたくないわけではない、そうではなくて、トッキュウジャーをとにかくやりたいのだ、というわけだ。(のちにこれはライト自身が明言することになる内容でもある)。

「なんか、あたしには難しいかな。」とカグラは言った。これは筆者は「問題の訴え」という発話だと見たい。「あなたと違って、自分はその点に困難を抱えている」と述べている内容だからだ。或いはカグラが本当に肩を押して欲しかったのは、こちらの点だったかもしれないほどだ。だが、「本人の自由意志」を尊重するライトはそうはしない。

「そうか?」とライトはカグラに言った。これは「問題の訴え」に対する、「疑念」の表明ではある。だが、ライトはこの疑念をこれ以上つきつめて話すことはしなかった。

「まあ、いいや。」とライトは述べて、それでこの「訴え」はそれ以上つきつめなかったのであった。そして「よーし、トイレ行って自由に寝るか。おやすみ。」と会話自体を打ち切るように、発話した。

カグラがライトを相手に「問題の訴え」を行なうようになったなりゆきは、完全に偶然のものであった。ライトを相手に特に選んだわけでもないし、最初から「問題の訴え」をしようと思っていたわけでもない。ずっと迷いのなかにあったのがカグラであった。肩を押してほしい気持ちも多分あったが、どういう方向に押してほしい、ということがはっきり決まっているほどでもなかっただろう。ともかく、この件に関してカグラと最も対極的な姿勢をとっていたライトが「訴え」の相手であったために、カグラはより一層強い戸惑いの状態に置かれることになった。そのように戸惑いや迷いのなかにあるために、行動なども緩慢になり、のちに起こるような「駅に取り残される」事態にもつながったようにも思える。

会話の流れとして見た場合、ライトとカグラとの会話は、隣接ペアのようなものをあまり多く含んでいない印象が強い。お互いに、相手に直接応接されなかった発言内容は多い。相手の発言内容を踏まえては居るのだが、それへの直接的な応接という形をとっていない箇所が多いのである。そのあたりが、この一連の会話の特徴であるように思う。

今回は、シャドーの幹部級の間で会話が多い。一転してここで取り上げよう。以前の回で述べたように、ネロ男爵とノア夫人とは同ランク程度の幹部であり、かつ不仲である。シュバルツも幹部級だが、どうやら1ランクほど格下のようである。だがそれを感じさせる場面は、少なくも今回は見られない。

  1. 「新たに家臣をレインボーラインに放ったようですな。」とネロ男爵がノア夫人に言った。
  2. 「ええ、城の奥底に引き籠っていましたのを見つけましてね。チェーンシャドーといって、とてもいい闇を作る者ですの。」とノア夫人はネロ男爵に言った。
  3. 「我が配下の者たちも負けてはおりませんぞ。秘かに拡げている闇がすでにいくつか。」とネロ男爵はノア夫人に言った。
  4. 「まあ、素晴らしい(笑)。でも、闇は量ではなく質ですわ。」とノア夫人はネロ男爵に言った。
  5. 「ほおー、我が配下の闇の質が悪いと仰せか。」とネロ男爵はノア夫人に言った。
  6. 「お二人ともトッキュウジャーの存在をお忘れでは?」とそこに現れたシュバルツが二人に言った。
  7. 続けてシュバルツが「奴らに邪魔されれば、質も量も在りますまい!」と二人に言った。
  8. 「だったら、そなたがさっさと排除すればよいでしょう!」とノア夫人がシュバルツに言った。
  9. 「そうだ!なぜ動かん?」とネロ男爵がシュバルツに言った。
  10. 「戦いには情報収集が欠かせませんので。失礼。」とシュバルツは二人に言って、一礼してその場を去った。

全体的な傾向として、シャドーラインの幹部どうしでは、連携や意志の統一などがあまりとれておらず、チームワークがなっていないことがしばしばである。そういう関係であることを少し念頭においておくのも悪くない。

すると「新たに家臣をレインボーラインに放ったようですな。」というネロの発言は、もちろん「確認」といった言語行為でもあるのだが、「おそらくもしネロがこれを確認しなければ、ノアのほうから進んでネロに告知などしたりしないのだろうな」と推察できてしまうようなところがあるのだ。そうすると、そもそも「確認をしなくてはならない状態での行為」として「探りを入れる」とでも言った行為に近いことがわかる。少なくともこの件に関して「自分は知らなかった」ことを含む言い方であり、展開によっては「非難」も在りうる可能性をもつ言い方である。

「ええ、城の奥底に引き籠っていましたのを見つけましてね。チェーンシャドーといって、とてもいい闇を作る者ですの。」とノアはその「確認」に対して「回答」をした。というか、もう少し言えば「自慢」をしたのである。また、相手の「探りを入れる」ような調子に対して、ずいぶんとあけすけに回答をしているようでもある。これは「自信が在る」ということでもあるのかも知れない。

「我が配下の者たちも負けてはおりませんぞ。秘かに拡げている闇がすでにいくつか。」と応酬した。この種の応酬はすでに第一話でも見られた。「負けてはおりませんぞ」と本当に文字通りに応酬しているのである。こちらのほうでは自慢のポイントは「いくつか」というふうに数のほうにあるようである。ともかく、ノアの自慢した分だけ自慢し返したいというような発話になっている。

「まあ、素晴らしい(笑)。でも、闇は量ではなく質ですわ。」と、ノアは最初に反語的にほめておいて、その後からまさにネロの自慢した「数」という点を否定してかかった。なので「ほおー、我が配下の闇の質が悪いと仰せか。」とネロはすぐに、その帰結するだろう「否定」に「言及する」「話題として取り上げる」ことを行なった。たしかにノアの発話はそこまでは明言していない一般論の形をとっているのだが、なぜそのときその発話がされたのかと言えば、「我が配下の闇の質が悪い」と帰結するからだ、というわけだ。このあとに、「喧嘩」になるのか、「自慢」の応酬(たとえば「質」だって良いのだ)になるのか、ともかく、不毛な展開が予想できてしまうような、少し喧嘩腰での「言及」ではある。

その予想できる「不毛な展開」に介入し制止すべく会話に入ってきたのが、シュバルツであった。「お二人ともトッキュウジャーの存在をお忘れでは?」とそこに現れてすぐにそう述べた。これは「お忘れでは?」という言い方に示されているように「注意喚起」でもあるし、「新たな話題への転換の提案」でもある。

続けて「奴らに邪魔されれば、質も量も在りますまい!」と、シュバルツにしては少し大きめの声で言った。トッキュウジャーと戦闘するようになって、今のところ二回すでに経っていて、今のところ敗北しかしていない。そのことに危機意識をもたずに、支配圏の拡張だけに邁進してもしようがない。そういう「訴え」だと定式化できるだろう。

「だったら、そなたがさっさと排除すればよいでしょう!」とノアが言った。この言い方がどの程度「命令」として機能するのかは、全体状況が不明なのでわからない。確かなのは、「それは私の分担領域ではない」「だからその話をするな」「お前がやればいい」という含意をもちうるということまでである。

「そうだ!なぜ動かん?」とネロが言った。「そうだ!」というのはノアの発話に対する「同意」である。おそらくネロとノアが一致するなど、この点くらいのものなのだろう、と思わせるところがある。続けて「なぜ動かん?」と、これは権限の在る命令かどうかはともかくとして、はっきりと「お前がやれ」という内容を伝えたのである。

ともかく、視聴者はこのやり取りをみていて、「怪人を中心とした支配権の拡張」はノアやネロの分担、トッキュウジャー対策はシュバルツの分担、というふうになっているのだな、そして皆自分の分担にしか関心が無いのだな、とひとまず理解することになる。尤もせりふの言い回しや語彙が総じて難しいので、中学生以上でないとなかなか理解はできにくい。また、語彙だけでなく、皮肉や慇懃無礼といった言語行為のパターンにも或る程度なじみが無いと、この会話自体はそこまでではないにしても、理解の難しいものとなるかもしれない。

「戦いには情報収集が欠かせませんので。失礼。」と言って一礼してシュバルツは去って行った。ともあれ、シュバルツもまた、言いたいことだけ言って去っていくタイプの行動をとるのであった。この発話は、まずは「約束する」ということを含意する。「戦い」なり「情報収集」なりをちゃんと遂行する、というネロやノアへの約束ということである。と同時に、なんだかまるで、ネロやノアが「ちゃんとした情報収集」をやっていないようにも聞こえうる言い方ではある。なのでこの発話は「ちょっとした警告」とか「ちょっとした諫め」とでもいった発話行為だとも定式化できるかもしれない。「闇雲にやれば良いというものではない」というわけだ。

  1. シュバルツが去って行く際に、ハンカチを地面に落としてしまっていた。シュバルツのことをずっと見守っていたグリッタがそれを拾った。そしてグリッタは「あの」とシュバルツに言った、
  2. 落ちたハンカチを拾ったグリッタは、シュバルツに「シュバルツ様、今これを」と言って、ハンカチを渡そうとした。
  3. シュバルツは「ああ、せっかくながら一度地に落ちた物は身に付けぬ主義でして」とグリッタに言った。
  4. 「では…、ではいただいてもよろしいでしょうか?」とグリッタはシュバルツに言った。
  5. 「ご随意に。失礼。」とシュバルツはグリッタに言って、一礼して去って行った。

グリッタはシュバルツに「あの」と発話した。「話しかける」という行為であり、「用件が在る」ことの提示でもある。

「シュバルツ様、今これを」と言って、グリッタがハンカチを渡そうとしたのは、「用件の説明および提示」である。落ちたハンカチを拾って相手に知らせるのは、嫌っている相手にはあまりしない行為である。その点で「嫌ったり苦手意識をもっているわけではない」ことをも結果的に表示する行為でもある。

「ああ、せっかくながら一度地に落ちた物は身に付けぬ主義でして」とシュバルツは、グリッタの提示した「用件」に対して、「丁重にお断りする」行為をとった。その主義自体はおそらく口実ではなく、実際にそうなのであろう。ともあれ、ここでは用件をお断りする理由が、グリッタの側に在るわけではないことの説明を行なっている。また、同じ理由からと言ってよいのかどうか、「お礼」に類する何らかの発話が特に無い。この「お礼の無さ」がこのやり取りの特徴的なところかもしれない。もう一つ注目してよいのは「せっかくながら」で発話を開始する点だ。これがあるために「付けぬ」の「ぬ」が「ぬ」に聞こえやすくなる。相手の用件提示に対して否定的であることが予想できる言い方をしているからこそ、「付けぬ」がそうと聞き取りやすくなるのである。

「では…、ではいただいてもよろしいでしょうか?」とグリッタはシュバルツに言った。この発言はかなり踏み込んでいる。というのも、少し前まで相手の所有物だったものを欲しがる理由は、通常二つしか無いからだ。一つは、その物自体の価値のためであり、今一つは、所有者への好意等のためである。要するにグリッタは、シュバルツへの愛慕というものを機会が有れば示唆することに余念が無いのである。

「ご随意に。失礼。」と一礼して、シュバルツは去って行った。グリッタの感情というものに取り立てて関心が無い、ということを前面に出した発話である。グリッタはノアの娘であり、まあ「上司」の娘であるだろうから、そのような地位的なことだけがやり取りを行ない、また「一礼」などをする理由のすべてである、とでもいった印象を与える。

舞台をレインボーラインに戻す。カグラが駅に取り残された、次の朝の車内での会話である。カグラが居ないので、皆焦っており全体的に切迫した早口の会話になっている。

  1. 「おっ、居たか?カグラ?」とライトが言った。
  2. 「ダメ。通信も通じないしやっぱり途中で降りたんだよ。」とトカッチが言った。
  3. 「でも、何で?」とミオが言った。
  4. 「あっ、俺が“降りたいなら降りていい”って言ったせいか。」とライトが言った。
  5. 「えっ!」と三人は一斉に言った。
  6. 「何でそんなこと言ったの?」とミオがライトに言った。
  7. 「だから、降りたいのかと思ってさ。」とライトが言った。
  8. 「そんな!」とミオが言った。
  9. 「待ってよ。あのカグラが独りで降りるとは思えないな。」とヒカリが言った。
  10. 「あ、確かに。相当の怖がりだもんね。」とトカッチが言った。
  11. 「そっか、フラッと降りて置いていかれた、ってことも…。」とミオが言った。
  12. ライトがすぐに、車掌に車両を進路変更するように頼みに向かって走って行った。

「おっ、居たか?カグラ?」とライトは言った。この発話は「質問」という定式化で良いだろう。

「ダメ。通信も通じないしやっぱり途中で降りたんだよ。」というトカッチの発話は、「ダメ」の箇所がライトの「質問」への「返答」であり、その後の箇所は、「通信も通じない」が「状況説明」で、「やっぱり途中で降りたんだよ」が「假説の提起」といったところだろう。

「でも、何で?」というミオの発話のその「何で」は「なぜ降りたのか」というよりは「なぜ、皆に言わずに無断で降りたのか」という疑念の提示だろう。そう言いうる理由は、のちのミオの発話に在るがここではまだ推察にとどまる。

「あっ、俺が“降りたいなら降りていい”って言ったせいか。」というライトの発話は、どちらかと言えばミオの発話を「なぜ降りたのか」のほうに解したうえでの、假説の候補の提示になっている。というか、まだ皆に周知されていない、事情の説明でもある。「あっ」というふうに「今そのことに気づいた」主張をライトは行なっており、このことから、昨夜のライトは事態を比較的軽く見ていたことを示唆することにもなっている。

ライトの発言に対して「えっ!」と三人は一斉に驚きの提示を行なった。三人にとっては初耳である事情説明でもあるし、「降りたいなら降りていい」という言い方はライト以外のメンバーならしなさそうな「意外な」ものでもあるからだろう。

「何でそんなこと言ったの?」とミオは言った。これはライトの事情説明に対する「非難」に近いものだろう。と同時に、疑問文でもあるので、理由説明の要求でもある。

「だから、降りたいのかと思ってさ。」とライトは、まさかここまでおおごとになるとは思わなかった、とでもいった顔で理由説明をした。それに対してすぐにミオは「そんな!」と言った。ミオにしては冷静さを欠いている状態での発話ではあるが、この種の発話はライトの理由説明に対する「異議申し立て」の一種であると定式化しても良さそうだ。

ここでミオがライトをこれ以上責めるといった展開にはならなかった。というのは、即座にヒカリが「待ってよ。あのカグラが独りで降りるとは思えないな。」と発話したからである。これは「問題提起」とか「假説の提示」とでもいったタイプの発話だろう。ともかくそれまでに無い新しい論点を提示している。すなわち、カグラの性格などから事情を推察しようという方向を打ち出したのだ。

トカッチが「あ、確かに。相当の怖がりだもんね。」と応接したのは、まさにそのヒカリの提起した路線でのものであった。カグラの性格を「相当の怖がり」と規定し、そのことでヒカリの問題提起を支持するとともに、問題の解決に役立ちそうな推察につながる事柄をも提供したことになる。電車を降りたとすればもちろん夜なので、「怖がり」だと駅に降りることは難しいかもしれないわけだ。

ミオがそれらの提供された問題やヒントたちに対して「そっか、フラッと降りて置いていかれた、ってことも…。」と応接した。カグラの性格を考慮して、電車を降りたことが本人の意志や覚悟によるものではなく、意図しないハプニングであった可能性を提示したわけだ。

ここまでの発話は、全体的に隣接ペアをなしている度合いが高い印象を受ける。「居たか?カグラ?」→「ダメ」は、「質問」-「回答」になっているし、「やっぱり途中で降りたんだよ」→「でも、何で?」は「提案」-「質問」となっているし、完全な隣接ではないにしても、「あっ、俺が“降りたいなら降りていい”って言ったせいか。」→「何でそんなこと言ったの?」-「だから、降りたいのかと思ってさ」→「そんな!」という流れも、「提案」-「質問」-「回答」-「異議」とでもいったふうにも定式化しうる。

列車が進路変更することとなって、カグラを捜索に向かっている途中の車内である。

  1. 「カグラ、言わないけど、本当は町を探したいんだろうな。」とトカッチが言った。
  2. 「その気持ちは、みんな同じなんだけどね。」とミオが言った。
  3. 「そう思ってないかもよ。降りてもいい、なんて言われたら。」とヒカリがライトの隣に移動しながら言った。
  4. 「なんだよ、別に俺はそういうわけじゃ…」とライトが言ったところで、車内の照明が突然消えた。この話題はここでいったん終わる。

「カグラ、言わないけど、本当は町を探したいんだろうな。」というトカッチの発話は「問題提起」と定式化して良いと思う。こんなことは皆わかっていたことだろうとは思うが、改めて公然の話題として取り上げたということだ。「だろうな。」という語尾をもつことで、ここで発話順番が入れ替わって良いこと、或いはむしろ誰かに発話順番を譲渡して聞こえるようになされている。

「その気持ちは、みんな同じなんだけどね。」とミオが言った。この発話がトカッチの問題提起に直接答えたものではないことに注意してほしい。少し前の発話でミオは「なぜ、列車を降りたのか」というよりは「なぜ、皆に黙って列車を降りたのか」のほうを問題にしているのではないか、と筆者は述べた。そう考えて良い理由が、このミオの発話に在る。ミオは以前に自分が問うた疑念に対しての回答とも言いうるものを、ここで述べているからだ。つまり「カグラは、他の皆は町探しをしたいとまで思っていないと思っていたからだ」というわけだ。ここでのミオの発話は、その言い換えのようなものだ。「その気持ちは、みんな同じなんだけどね。(でもカグラはそう思ってなかったかもしれない)」というわけだ。そしてその指摘は、トカッチの問題提起に直接答えたわけではないが、「言わないけど」の部分には、関説している。

ミオが考えていたことは、直接的な形でヒカリが述べた。「そう思ってないかもよ。」とだ。ただし、ここではライトへの非難を伴っている。「降りてもいい、なんて言われたら。」とわざわざライトの隣に移動することを伴って発話しているのだ。ただし、このヒカリの発話は、それが終了したことがとてもわかりにくい。「降りてもいい、なんて言われたら」という言い方は、その後にもまだ文章なり発話なりが続くかもしれない言いかただからだ。発話順番が交代して良い箇所や一文が終わった箇所に聞こえないのだ。ヒカリの発話のわかりにくさはこれだけではない。「そう思ってないかもよ。」のほうの「そう」が何を指すのかも、一回視聴しただけでは、わからないだろう。この「そう」は実際には「皆が町探しをしたい」ことを指しているようだが、ふつうに聞くとむしろ「カグラが町探しをしたいと思っている」のほうを指しているように聞こえる。つまり、むしろトカッチの問題提起を否定しているようにも聞こえる。ここでヒカリがわざわざライトの隣に座るように移動したのは、おそらくそういったわかりにくさが発話内容に在るからでもあろう。意図を示すためには、身体動作でもそれを提示する必要が在ったのだ。

結局のところ、ここではヒカリがライトを非難したという行為は、ヒカリとライトとの合作のようにして構成されていると見なすのが良いと思う。ヒカリはライトの隣の席にわざわざ移動したが、その席は「ライトの隣」という以外にも特徴付けは可能である。四人で顔を突き合わせて話すつもりなら、そこしか適切な席はそもそも無かったのだ。だが、そこでライトが「なんだよ、別に俺はそういうわけじゃ…」と応じたために、そこは「ライトの隣の席」という位置づけになり、わざわざライトの隣にヒカリが移動したのだ、という事態の記述がふさわしくなってしまう。同様に、ヒカリの「降りてもいい、なんて言われたら」は実際には発話の途中までであり、その後発話が続く予定だったかもしれないわけだが、そこでライトが「なんだよ」と応じたために、ヒカリの発話がわかりにくい終わり方をした、という事態の記述がふさわしくなってしまう。このわかりにくさや、その発話が非難であるということは合作的に作られたものだと見なすことが充分可能なのだ。

ともあれ、ライトの「なんだよ、別に俺はそういうわけじゃ…」という発話は「弁明」や「正当化」といったふうに定式化できるだろう。ヒカリの「非難」に対する応接としての「弁明」ということである。

シャドーによって棺に幽閉され鎖に縛られていたカグラたちを、ライトが発見し棺のなかに乗り込んでいったときの会話が次である。

  1. 「カグラ、やっぱり居たか。」とライトがカグラに言った。
  2. 「ライト。どうして?」とカグラがライトに言った。
  3. 「これが落ちてたから。もしかしてと思ってさ。」とライトがおにぎりを出して、カグラに言った。
  4. 「待ってろ。」とカグラを縛っている鎖をライトが剣で切ろうとした。
  5. 「ううん。大丈夫。」とカグラがライトに言った。
  6. 「え?」とライトがカグラに言った。
  7. 「ライトの言ってた通りだった。難しくなんかないね。だって私も今普通に思ってる。この子たちを助けたい。トッキュウジャーやりたいって。」とカグラがライトに言った。
  8. 「だろ。そういうこと。」とライトがカグラに言った。カグラがしきりにうなずいていた。

「カグラ、やっぱり居たか。」というライトの発話は、言わば「合図」であると見なすことができる。被害者であるカグラに行なう「助けに来たぞ」という合図である。

「ライト。どうして?」というのはもちろん質問であるわけだが、しかし文意が複数候補をもつ。まず「なぜ」と「どのようにして」とが在る。ただ、ここまで番組を視聴してきた者が「なぜ助けに来たの?」という意味に解するはずはない。そうでないことまではわかるため、却って少しわかりにくいと感じるかもしれない。ともあれ、ここでは「この場所がどうやってわかったのか」「この場所にどうやって来ることができたのか」を多少曖昧に含むようにしてなされた疑問文だと解するほかはない。ライトがどのように受け取ったかは次の発話でわかる。

「これが落ちてたから。もしかしてと思ってさ。」というライトの返答によって、「どうやって場所がわかったのか」という質問であったことが、事後的にわかる。というか事後的に決まることになる。ライトの返答が「どうやってこの場所がわかったのか」だけを述べているからである。

「待ってろ。」というライトの発話は、「今から助ける」という「宣言」であると定式化するのが良いだろう。と同時に、カグラが身体の不用意な動き方をしないようにするための、「通告」の要素も少し在る。

「ううん。大丈夫。」というカグラの発話は、その今から助ける「宣言」に対する、「辞退」とでも言えようか。「拒否」というと強すぎるし、「断り」というとその日本語自体が多義的なので、「辞退」が特徴付けとして比較的適した言い方だと思う。

その辞退に対するライトの「え?」は、そこまで明確な発音ではない。ともかく、カグラの意外な応答に対する、驚きの表明であり、説明の促しでもある。

「ライトの言ってた通りだった。難しくなんかないね。だって私も今普通に思ってる。この子たちを助けたい。トッキュウジャーやりたいって。」と、もし厳密に書けば間がいくぶん空いた形で、カグラが言わば一文ずつ区切るように、述べた。こういう述べ方が可能なのも、やはり会話が合作だからなのであり、この途中にライトが口をはさんだりしなかった。カグラの発話はそれが可能なものだったが、ライトはここまで口をはさまなかったのだ。「助けが不要であることの理由説明」がひととおり終わった感じがするのが、「トッキュウジャーやりたい」というフレーズが出現したことであるためでもあるだろう。そういうわけでこの発話は「救助が不要である」ことの「理由説明」を含むものだ。と同時に、かつてのライトの態度表明への「賛同」でもあるし、自分自身の心境の「状況説明」でもある。

「だろ。そういうこと。」というライトの発話は、カグラがライトに呈した「賛同」に対して「自負心の表明」で応接する、とでも言ったやり取りということになろうか。なかなか独特であり、明確に定式化することが難しい箇所だと思う。ともかく、「賛同」に対して「謙遜」で返すということはしていないのである。かと言って、「自慢」というわけでもないのである。

怪人とカグラとの戦闘中に、ライトが他の三人に、カグラの「第二のピンチ」という語の説明や理解をしている箇所である。ライト以外皆変身しているが、名前のほうで表記する。

  1. 「やばい」とライトが言った。
  2. 「確かにすごいけど、強いんだからいいじゃない」とトカッチが言った。
  3. 「強い自分になるのが、カグラのイマジネーションでしょ」とミオが言った。
  4. 「お前たち、恐ろしさを知らないんだ。あいつの“なりきり”は飛んでもないんだぞ。」とライトが言った。
  5. 「え」と三人が言った。
  6. 「小さいとき、人魚姫になりきって溺れかけててさ。助けようとしたら“王子様”ってすがりつかれて、一緒に溺れかけて。思い出してもぞっとするよ。」とライトが身体動作でそのときのことを再現するかのように、言った。
  7. 「なりきりも命がけか」とヒカリが言った。
  8. 「自分の限界を忘れてるからやばいんだ。」とライトが言った。
  9. カグラの戦いぶりを見ていて、ライトが「あんな勢いでぶつかったら自分が地獄行きだ。」と言って、カグラの救助に向かった。

「やばい」とライトが言ったのは、「問題提起」と定式化できるだろう。

「確かにすごいけど、強いんだからいいじゃない」というトカッチの発話は、ライトが「やばい」と危機を見出したのに対して、「すごい」と別の語で述べている。このことからわかるように、ライトが提起した問題は、トカッチ(たち)にはまだ理解されていない。のちにわかるように、その「強さ」こそが「やばい」つまり危機であり、それまでのライトの言い方で言えば「第二のピンチ」なのである。そのことはまだ一度もきちんとライトから説明はされていない。なので、トカッチ(たち)はここでは、そもそもライトが問題提起をしたと認識していない。ここで適切な定式化となるだろうものは、トカッチはライトの発話を「驚きの表明」と理解したうえで、それへの「なだめ」を行なった、というものになるだろう。

「強い自分になるのが、カグラのイマジネーションでしょ」というミオの発話も、ライトの発話を「驚きの表明」と理解したうえで、「驚くほどのことではないでしょ」と応答したかっこうである。なので、やはりライトの「驚き」に対して「なだめ」を行なった、と見なして良いと思う。

「お前たち、恐ろしさを知らないんだ。あいつの“なりきり”は飛んでもないんだぞ。」とライトは述べた。他の三人が自分の問題提起を理解しなかったことを踏まえての、問題提起のし直しとでも定式化できるだろう。

他の三人が「え」と言ったのは、驚きの表明でもあるだろうし、さらなるライトの説明の促しでもあるだろう。

ライトはそこで、今まで語ったことのない過去のエピソードを語った。「小さいとき、人魚姫になりきって溺れかけててさ。助けようとしたら“王子様”ってすがりつかれて、一緒に溺れかけて。思い出してもぞっとするよ。」この語りによって、言わば情報が皆で共有されたことになる。で、このポイントは、人魚姫になりきったカグラが溺れかけたという箇所である。

その箇所を的確に押さえて指摘したのがヒカリであった。「なりきりも命がけか」という、指摘である。

そして、ライトはその箇所をさらに明晰に表現し直した。「自分の限界を忘れてるからやばいんだ。」これで、ライトの問題提起が一通り終了したことになった。その直後の場面で「あんな勢いでぶつかったら自分が地獄行きだ。」とカグラの戦いぶりをみて、言った。まさにその提起したとおりの問題が目前で起こっていることの指摘である。そのためライトたちはすぐにカグラの救助・加勢に向かった。

戦闘の勢いで、水の入ったプールに突っ込んだ、ライトとカグラとの会話である。変身中だが、名前で表記することにする。

  1. ライトとカグラの二人は同時に言った。「海!」
  2. 「俺たちの町には海が在った。」とライトがカグラに言った。
  3. 「思い出せた。ちょっとだけど思い出せた。」とカグラがライトに言った。
  4. 「うん、カグラ」とライトは言い、プールから上がり始めた。
  5. 「カグラ。俺、町に帰りたくない、ってわけじゃないからな。」とライトはカグラに言った。
  6. 「え?」とカグラはライトに言った。
  7. 「ただ覚えてない町探して後戻りはしたくない。トッキュウジャーやって、前に進んで進んで、進みたい。その先に俺たちの町が在る気がしてる。そうゆうの、どう?」とライトはカグラに言った。
  8. 「うん。そう思う。」とカグラはライトに言った。
  9. そして、二人で互いに手と手を合わせた。
  10. 「行こう!」とライトは言い、「うん」とカグラは言った。そして戦闘場面に戻って行った。

「海!」という発話は、そのとき突然思い出したものを口に出したものだ。「そのとき発見した」ということの主張になりうる。

「俺たちの町には海が在った。」とライトは、改めてきちんとした形で、その発見した記憶を文章化した。これは「確信の表明」とでも定式化できるだろう。

「思い出せた。ちょっとだけど思い出せた。」というカグラの発話は、その「確信」に対する「同意」の表明である。ただ、そこでは「思い出せた」を二回繰り返して述べることからもうかがえるように、「感激の表明」の要素も在ると思う。

「うん、カグラ」と言い、カグラを引っ張るようにしてライトは、水からプールサイドに上がった。ここでの「うん」がどういうものか、である。「うん」はたとえば「うん、あのさ」というふうに、何かを次に述べるときの予示として用いられることが在る。この場合の「うん」にもその要素が見られると思う。「うん」は一方では、以前の発話の是認・承認でもある。他方で、これから何かを述べるときの「予告」にも使うことができる。ライトのこの「うん」はその両方を見てとることができよう。

「カグラ。俺、町に帰りたくない、ってわけじゃないからな。」とライトは、すでに示唆はしていたが、明言はしていなかった点を明言した。カグラがライトに「町に帰りたくないの?」と以前に質問したときに、それへの応答というものをライトは特にしていなかった。なので、その履歴を踏まえての、ここでのライトのあらためての「説明」だと定式化できるだろう。「自分の考え」の説明である。

だがこのライトの「説明」は、カグラにとってはやはり意外なものであったようだ。ライトがそう考えていないと思ったことが、駅に取り残されるまでの経緯につながったのだから、当然そういうことになる。なので、ここではカグラは「え?」と述べて、驚きの表明とさらなる説明の促しを、ライトに対して行なった。

「ただ覚えてない町探して後戻りはしたくない。トッキュウジャーやって、前に進んで進んで、進みたい。その先に俺たちの町が在る気がしてる。そうゆうの、どう?」とライトはその促しに対して答えた。後半部分は、たった今自分たちに起こった「記憶の回復」こそがそれに該当する。トッキュウジャーをやっていると、その進んだ先に「俺たちの町」が在る、ということを、身を以て体感したわけだ。そのことの一般化された形での主張である。また一方前半の「覚えてない町探して後戻りはしたくない。」は、これ単独だと二通りの含意をとれてしまう。一つはそもそも過去の記憶を取り戻そうとすること自体が「後戻り」である、というごく一般的な見方であり、もう一つは、「トッキュウジャーをやることやシャドーを斃すことが前進である」という見方である。ライトの語り方はどちらかと言えば、後者のようであり、その点が少しわかりにくいと言えば言える。

そもそも視聴者の観点からすれば、トッキュウジャーを辞めて町探しをしたところでシャドーと遭遇するだろうから、きっとそのプランには無理が在るだろう、という可能性こそが思い浮かぶ。だから、トッキュウジャーをやることによってしか、町探しができないことは、ほとんど最初から自明ではある。だが、その点は、登場人物の会話のなかではまったく言及や考慮される形跡は無い。

カグラは、「うん。そう思う。」と特にライトの発言の後半部分を一緒に体験した立場から、賛同した。

第03話の主な会話の箇所の記述・描写は、可能な箇所はまだたくさん在ったと思うが、それでも主要なものはだいたい行なったと思うので、ここで終わらせたい。