コメント:町山智浩『最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』

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町山智浩『最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』(集英社)

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  • 私は長いこと「アメリカ合衆国がわりと特殊な国である」「特に国民がわりと特殊である」ことに思い至らないで過ごしていた。そのアメリカ合衆国を理解しないと日本国の政情等も理解できない、とここ十年、2010年代頃から急速に感じさせる状況となった。私同様にして、米国民の特殊性のようなものを急遽理解しないとならないとなったときに、町山のこの書はかなり好適なものになると思う。
  • 先住民族(インディアン)の扱い、黒人差別、公民権運動、マジカル・ニグロ、空爆という手法とディズニー、ヴェトナム戦争とその後遺症、KKK(クー・クラックス・クラン)、マッカーシズム、反共、新自由主義、アメリカンドリーム、軍産複合体、ポピュリズム、反知性主義とキリスト教福音主義、など米国を理解するうえで、ぜひ知ったほうが良い論点があちこちに散りばめられている書である。
  • 映画の評論としての適不適や良しあしは私にはまったくわからない。それどころか、人名や地名もろくに記憶できず、登場人物なのか実在の人物なのか、などもわからないことが多い。なので、そういった細部への検討はまったく私には不向きだ。だいたい私は映画一般をほとんど知らないのだ。だがそれとは別に、解説されている話題や内容には重要なものが多く、また、この一冊でかなりカバーできているのではないか、という期待がもてる。その点でお得だと思う。
  • この書の出版元が「集英社」であることにも、私は注目してしまう。2010年代になって、この種の「反米」要素を多少でももつ出版物が集英社関連出版社によるものであるという状態が、本当に目立つようになった。その一方で、東西冷戦下でのたとえば1980年代頃の集英社はといえば、あきらかに「親米右翼」に親和的だった。これが変化なのか、それとも一貫した姿勢なのか、すら私にはわからない。他の集英社関連の書籍について書くときも私はたいがいこの点に触れるが、今回もやはり触れざるをえない。なぜ、この書が集英社のものなのか、ということも気にしておきたいと思う。
  • 併読して損がない、共通する方向性をもつ本に、木村朗・高橋博子『核の戦後史:Q&Aで学ぶ原爆・原発・被ばくの真実』(創元社)(amazon)、有馬哲夫『原発・正力・CIA: 機密文書で読む昭和裏面史』(新潮社)(amazon)は挙げておきたい。