コメント:ジャン・ジグレール『世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』
ジャン・ジグレール『世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実』(合同出版)
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この書で扱っている「飢餓」は食べ物だけでなく飲み水の話題も含まれていることにひとまず注意したい。で、この本はわりあい読みやすく内容も豊富だが、体系だった構成になっている気はあまりしなかった。そのため、読者の側で一定の整理をすることが有用となる。また、読みやすい書き方にはなっていても、経済のメカニズムの話などは本当は素人にはわかりやすいとは言えない。その意味では上級者が読んでも良い本だと言える。
大きく分けると政治的な要因と経済的な要因とが在って、両者が関連することも在るが、或る程度独立に見ることができる。ともかく、なぜ世界中に飢えたり水が無い人がいるのに、その一方で、余った食べ物が何百万トンとかそういう規模で処分されたりする、といったことになっているのか。これがこの本の掲げた問題だ。それに対して、シンプルな解答が示されるわけではなく、ケースに応じて様々な事情が介在していることを解き明かしている。
政治的な方が話が簡単だろう。たとえば国内で内戦状態になっていて政府が機能していないような国で国民が飢餓に苦しむという構図は理解しやすい。或いは、そういう政府が自国の状態に無知無関心だったり、国際機関などに対して隠そうとすることも理解しやすい。或いはまた、政治家や官僚だけが裕福な暮らしをしていて、国民全体の暮らしを豊かにする展開にならない、腐敗した国家が在ることも理解しやすい。
独裁国家だけではなく、強国や宗主国の都合によって国民の暮らしが悪化してしまうケースも在る。複数の例として挙げられるのは、国民の暮らしを好転させようとする英雄や革命児が現れると、それが不都合である強国や宗主国の命によって暗殺されてしまうケースが在る。強国や宗主国にとっては、彼らに忠実な政治家や官僚が裕福になることでその国家を支配できることが好都合であり、国民のためになるような英雄は邪魔なのだ。そういうケースによって、国民が貧しくなることが在る。また、宗主国はその国家をモノカルチャー化し、自分自身で独立した食糧事情を形成させないようにする。つまり、特定の作物ばかりを栽培させて、他国から大幅に輸入しないと自立していけないように仕立てあげてしまう。そうすると、輸入する食糧の値段を吊り上げれば、売る側は儲かり、買う側は貧困化してしまうことになる。
経済的な話としては、たとえばEUなどは農作物の値段を適正価格におさえるために、余剰の農作物などを大量に(何百万トンとか)廃棄したり、といったことを平気でおこなっている。彼らからすると、飢餓に苦しんでいる人々を救出するのはFAO(国連食糧農業機関)等の仕事であって自分たちは関係無いと知らん顔をしているわけだ。また、穀物市場などでは投機家の利益のために、穀物の値段をいくらでも吊り上げることもできるし、される。そうすると、貧しい国家が穀物を輸入しようとしても突然値段が変動したりして、手も足も出ないことになる。そうすると、その国の国民が食糧不足に陥る、というわけだ。ここにはいくつかの問題が在ると思うが、セクショナリズムとでも云うべき問題もその一つだろう。
経済的な要因は、地球環境問題と結びついていることも在る。たとえば森林の無計画な伐採などは、伐採する側は儲かることだろうが、地球全体の砂漠化等を推し進めてしまう。そうなれば、なおさら農業のできる土地が地球全体から減ってしまうし、何よりもまず地球温暖化やその他さまざまに地球環境全体を悪化させる。また、森林を伐採されると、その森林で暮らしていた人々が突然の環境の変化に適応できず、亡びてしまったりすることも在るようだ。
この本のメッセージでぜひ知られてほしいのは、飢餓というのは病気などと同じで医療による専門的な手当てが必要になる、きわめて高度に専門的な技術の対象であるという点だ。貧しい国に、空から食糧をボンと投げて与えれば良いわけではない。それだと本当に飢餓で弱っている人は食べたりしても簡単に死んでしまいかねない。そのあたりは、医者・医学の専門的な治療がぜひとも必要な領域なのだ。ここはぜひ知られてほしい点だ。で、この書全体についてのコメントとしては、世界で起こっているいろいろな問題とつながっていたり、同型だったりするので、社会を、世界を、そして日本を学ぶことの縮図になりうる良書だろうと言える。そういうわけで高校生にもお薦めできる。ただし、少し古い本になってしまったので、世界情勢も変化しているかもしれないことも念頭においておこう。