コメント:児美川孝一郎『夢があふれる社会に希望はあるか』
児美川孝一郎『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベストセラーズ )
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この書のタイトルは2019年までなら「すっ」と受け容れられたことだろう。2020年以降、私たちの暮らしている社会を「夢があふれる社会」と素直に受け取ることは難しい。なので、以下2019年までの日本社会を想定しながらコメントを書くことにする。この著者だって2020年以降ならこういうふうには書かなかっただろうからだ。
この著書の特に前半のほうには、いくつかの重要な事実関係の指摘や紹介が在る。たとえば経済界の動向や政府の動向、キャリア教育の動向などについてだ。また「夢」に関してのアンケート調査の結果なども紹介されている。こういった事実関係に関する話題は重要だ。この周辺のことを知らないで、「夢」「希望」について考えてもしようがないと思う。なので、この書は高校生に推薦したい。特に、日本が就職活動で、職種ではなく会社等に就社する点、そのことが「アンケート結果」にも反映して偏った結果になっていることはよく押さえておいてほしい。
反面、「ではどうすれば良いか」という著者からのアドバイスなどは、一般論的すぎてあまり有益ではない、と感じる読者がいてもおかしくはないものだ。私が感じたのは、「夢」のなかに「世の中をこう変革したい」というタイプの夢の話題が出て来なかった気がすることだ。もちろん、若者に「夢をもて」と説く人たちが若者に「社会変革」などを求めているわけもない。それはそうなのだが、だからこそその点を浮き彫りにするためにも、その「社会変革という夢」という話題はどこかに書かれてもよかったはずだ、と私は感じる。