コメント:金水 敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎 (もっと知りたい!日本語)
金水 敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎 (もっと知りたい!日本語) 』(岩波書店)
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「わしの発明は世界でも画期的なものなのじゃ」とか「お譲りしてもよろしくってよ」といった「博士語」や「お嬢様語」は、どのようにして形成されどのように普及したのか、を検証するという国語学者による研究書である。ただ、話の順番としては「標準語の成立」から入るのがいちばん自然なのだが、そうすると読者を退屈させてしまうので、まず「博士語」の話題から入るというしかたで構成されている。
「標準語の成立」の話題は、専門の国語学者でないと、なかなか適切に読むことができない。擬古文やその他古めかしい日本語は、たいていの人は読めないからだ。なので、とりわけ江戸時代から明治にかけての考証は、著者によってきちんとなされているらしいのだが、多くの読者には「はあ、そうですね」としか言えない。その程度には専門的な書物である。それに対して、明治以降の話題になると一般の読者でも或る程度ならついていけるものになる。
総じて良く練られた説明になっているように私には思えた。この著書が難易度のわりに評判が良いのもそのためだろう。また、お嬢様語に関しては意外な指摘もあり、その点でも興味深いものが在る。お嬢様語の由来は未知の点が在るが、その普及の舞台となったのが女学校であり、そこでのお嬢様語は当時有識者から非難されたりもした。意外である。また、お嬢様語のうち、標準語に取り入れられず「役割語」化してしまったものについても、その理由を説明しており参考になる。
取り上げているマンガ作品に関しては、古典的なものと、或る程度最近のものとを取り交ぜており、「ひどく古めかしい」とまでは思われないように仕上がっていると思う。と言いたいが、もしかすると平成生まれの若者だとマンガに関しては「もう古い」と感じる可能性も在る。
総じて言えば、「多くの世間の読者は読んでわかるところだけに反応し、そしておおむね好評である」といった受容のされかたをしていると思う。ただ、専門的にはまだ検証しなければならない点もあり、話題領域を拡大していく余地もまだいくらでも在るテーマである。国語学(日本語学とも名乗る)に対して、「こんなことができるのか」というふうな見方を読書人層に投げかけることに成功した書だろう。高校生に限らずお薦めする。