コメント:岩永 竜一郎『もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ』(花風社)

Header of This Document


岩永 竜一郎『もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ』(花風社)

  • ふと気付いたら「発達障害」という、あまり適切に思えない語がひんぱんに使われるようになり、そしてそれはメンタルや実存や社会性の問題として扱われていた。そういう状況で、この書に代表されるような、それとは異なるアプローチが現れて、新鮮な印象を与えていた。今ではこの書のようなアプローチもありふれたものになっているのだろう。ともあれ、学校の特別支援学級の教師という専門家の職能を理解するために適している書になっている。もちろん当事者の保護者・関係者にも読まれて役立っていることだろう。
  • 岩永や花風社のアプローチの特徴は、知覚・感覚・運動といった水準での問題に照準し、対策をたてていくことに在る。そしてこの書では発達障害というわかりにくい語はあまり使われず、主に自閉症スペクトラムに照準をあてて、その周辺をも含めて知覚感覚の過敏という問題や、ものごとへの注意の向け方の特殊さ、そしてそれらへの対策としての運動アプローチを提示していく。その提示はあまり体系的でも物語的でもなく、やや散漫な感じの順番ではあったと思うが、大きく見れば「感覚」→「運動」という順番でそれらが述べられている。
  • こういうタイプの「症状」或いは「体質」の人びとがいれば、もっと昔から何かしら対策がたてられていたはずのようにも思うがその点にはふれられない。つまり、昔からいたけどあまり気づかれていなかったのか、それとも昔は少なかったけど最近増えてきたのか、そのどちらなのかといったあたりの「素朴な疑問」はこの書では晴らされない。ともあれ言えることは、少なからぬ人はこういう症状や体質が存在していることをあまり知らないだろうから、読んで損なことはない、ということだ。特別支援学級のような存在がなぜ必要とされるのかもわかるだろう。
  • なお、イラストやマンガの箇所が良い。ここだけ眺めても役に立つ情報が得られるはずだと言いたいほどだ。