コメント:有馬哲夫『原発・正力・CIA: 機密文書で読む昭和裏面史』
有馬哲夫『原発・正力・CIA: 機密文書で読む昭和裏面史』
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高校生向けに勧める最大の理由は、日本にディズニーが定着したプロセスと日本に原子力発電が導入されたプロセスとは、正確に重なっていて同一の事態であることを知ってもらいたいからである。
元来日本は原爆の唯一の被爆国であり、水爆の最初の被曝国ともなった。だから普通に考えて、このような国が嬉々として原子力発電などを導入するはずがないように思えるはずだ。実は、そこにはアクロバティックな策略が行なわれており、その立役者の一人がディズニーなのであった。すなわち、ディズニー制作の『わが友原子力』というプロパガンダ映画を見せられることで、日本人の何割かが「原子力は平和利用にも使う事ができるのだ」と信用するようになり、原子力忌避を軽減するのに大いに役立ったのである。
日本に「東京ディズニーランド」という遊興施設があるのも、もちろんこういった事柄の延長上に在る。といって、別にこの遊園地が何か「原発推進」などという思想性を帯びているわけでは多分無いのではある。
もう一つ高校生に知ってもらいたいのは、そこで原子力発電の導入を大いに推進した人物が、讀賣新聞と日本テレビという二つのメディアの頂点に立つ人物だったことだ。讀賣新聞は当然のことながら、原子力の「平和利用」(原子力発電など)ということを日本人に訴える中心的なメディアであった。そのことも忘れてはならない点だ。
この著作は、政局的な動きやCIAといった諜報機関の動き、或いは、国際政治の話題も当然のごとく多い。それらの中には重要なものも在るし、重要度のかなり落ちるものも在るだろう。登場人物なども全員が重要というわけでもない。なので、高校生はそれらを取捨選択して適当に読み流しつつ読んでもらうしかない。それでも特に、政治や諜報機関の動きを知ることや、戦後史の理解のために何かしらは役立つ点も在るだろう。
この本は読んでいて気づく人もいると思うが、2008年に出版されており、2011年の福島第一原発事故以前に書かれたものだ。その空気感がこの著書のなかにも横溢している。つまり、この中で原子力発電について書かれているときに、「あの」原子力発電所の事故のことはまったく念頭に無いように書かれているのだ。当たり前だ。そのような立場から書かれている点でもこの著書は貴重であり興味深いと言える。尤も、今の高校生だと福島第一原発事故にもあまりなじみが無いかもしれない。