「東大に多く合格する高校の付属中学」に80年代に多く合格していた公立小学校の分布

Header of This Document

「新版：東京23区の格差を縮小していた東大入試」の補助的な資料として作成したのがこのページです。ですがこのページは今回一気にリニューアルします。それによって、「東京23区の格差を縮小していた東大入試」のページやその他関連するページのほうにも大きな変更がなされる可能性が在ります。「知られていなかった、中学受験実績が高くて住民平均寿命の長い地域」「「平均寿命」に表われる首都圏の居住地格差」とも関連の深い話題を扱っているので可能性が在ります。

• 対象校の選択は次のように行なった。まず当時の『サンデー毎日』を参照して、1988年～1993年の出身高校別東大合格者数を調査し、その上位校を抽出する。関東地方に限定して「ランキング」を作成する。そのうち「中学受験を行なっている男子校及び共学校」をマークする（図だと黄色）。ただし「お茶の水女子大附属」は男子は中学から高校に全く進学できないシステムなので、含めない。その結果を次の画像で示す。

• ここで抽出された「男子中学受験枠の在る（その過半は男子枠のみ）上位校」は、開成・学芸大附属・麻布・桐蔭学園・筑波大付属駒場・私立武蔵・栄光学園・筑波大付属・駒場東邦・桐朋・巣鴨・海城・聖光学院、そしてだいぶ差がついて浅野、となる。
• 上記から決定した対象校：筑駒、麻布、開成、武蔵、栄光、筑付、学芸付大泉、学芸付小金井、学芸付世田谷、学芸付竹早、駒場東邦、桐朋、聖光学院、巣鴨、海城、桐蔭学園、浅野（神奈川在住者限定）。
• 資料：四谷大塚進学教室合格者名簿　1982、83、84、85、86、87年
• これらの中学合格者のうち、私国立小学校出身者は考慮に入れず、公立小学校の出身者のみをカウントした。1人で何校合格していても1人として計算した。「15、10、5」とあればその署域の小学校のうち、15人合格した学校、10人合格した学校、5人合格した学校が各1校ずつ在ったことを意味する。結果として抽出したのは7025人で、82年1222人、83年1136人、84年1211人、85年1124人、86年1195人、87年1137人となっている。
• また、明らかに「越境」とわかる合格者はカウントしなかった。ここでの「越境」とは居住地と在籍小学校とで行政区分が異なることが、記載事項のみで断定できるケースの総称である。
• 小学校の住所の位置する管轄警察署によって、首都圏地域の小学校を分類。一部校は推定による。学校の管轄署と通学域の管轄署とは異なる可能性が在るが、生徒の通う小学校のほうの住所で分類している。

高橋隆介・安藤明『有名中学完全攻略本』（1987,光文社）から得られた情報は今回は活用しなかった。つまり、横浜駅以西は日能研の影響が大きい地域と推察されるので栄光合格者の実人数の３割前後しか四谷大塚名簿ではカウントされていないことが推定できるが、上掲本の情報は使わず、横浜駅以西はそのままにしている。

栄光学園だけの合格者数は、前回調査の数値によるものになってしまうが、名簿掲載の分で243人であり、おおよその定員の27％程度しか判明しない。そこで、これに浅野中学の合格者数を加算すると（栄光・浅野両校合格者は重複を除外して）583人となり、浅野の合格者を栄光の合格者に置き換えたものと見なした場合、栄光学園の定員の65％程度が判明した恰好になる。こういった栄光学園の判明合格者が特に少ないのを神奈川県在住の浅野中学合格者で代理的に補充するといった応急処置は一応している。

データの基礎となった四谷大塚進学教室について補足説明する。四谷大塚進学教室は週一度の試験を中心としている進学教室であり、東京都中野区に拠点をもち、試験会場も東京都の山手線沿線・内部でほぼ占められていた。しかし、1986年に新横浜（神奈川県横浜市港北区）に校舎を新設した（ウィキペディア：四谷大塚に拠る）。浅野中学の合格者数が、82・83年頃に比べて、85年で2倍程度、86年で目算で5～6倍程度に急増しており、神奈川県に新校舎を設置したことの効果はその年次から顕著に出ていると見ることができる（ほんとうはその翌年から出るのでないとおかしいのではある）。要するに、四谷大塚進学教室の合格者数のみで判断すると、とりわけ神奈川県の結果は明らかに「実際よりもかなり少ない」が同時にまた進学塾の戦略によって左右されるような「不安定な結果になる」ということが重要だ。

• 四谷大塚進学教室合格者名簿には、いろいろと欠陥が在る。まず、合格者が報告しないというケースが在る。次に、植字・編集の誤りなどが在り、間違った学校に合格したことになっていたり、合格した学校に合格していないことにされてしまっている。小学校名や氏名の誤植と思えるものも少なくない。編集から印刷の工程のどこかで種々の誤りが発生している。そして最後に、そのデータを編集する私のほうでもミスを犯す可能性は大いに在る。以上お断りしておく。

名門中高の生徒の居住地分布という話題は、社会派あるいは人文的な書籍のなかで「名門校」が扱われる場合、必ずといって良いほど登場するものである。ただ2019年現在、論壇で語る人が高齢化しているため、その多くは情報としては古すぎる。特に、本多勝一『子供たちの復讐』（amazon）や四方田犬彦『ハイスクール1968』（amazon）で情報を仕入れた人は、その情報は古かったり、偏っていたり、特徴づけが不適切だったりするので、このページの情報でリニューアルをはかって欲しい。たとえば本多本で開成や麻布の生徒の居住地について談話で語っている生徒たちは、1961年度生まれの人達なので、今の論壇で語っている人たちの中心世代に属するわけだから今でも形を変えて似た内容が語られ続けうるわけだが、それは、論壇で語る人が少ない世代からみれば少し年長世代の情報すぎて、古い。四方田本に登場する教駒生は1952年度生まれの人達であり、これまた論壇で語っている人達のなかでもさらに年長といったグループの世代に属する。橋本健二『階級都市―格差が街を侵食する』（amazon）は最近の情勢についての話題が多いのは良いが、著者の個人的な体験に由来する印象批評がベースなので、すべての記述が適切であるとは全く限らない。たとえば学歴取得に加熱ぎみの住宅街のなかには、「官僚の家族が住む公務員住宅」や「一流企業の社宅」の住民のみを巻き込んでいて、一般住民は学歴取得競争にほぼ無縁という街も在る。そういった街を「通りすがりの印象」だけで「社会階層の高くない街」と判断することは危険なのだ。

あるいは、次の書籍を読んだことのある人にも、このページの情報は関心をもちうるものだと思う。原武史『滝山コミューン一九七四』（amazon）、東浩紀・北田暁大『東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム』（amazon）、東浩紀・北田暁大・編『思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ』（amazon）・同『思想地図 vol.5 特集・社会の批評』（amazon）、竹内洋『教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化』（amazon）、泉麻人『東京23区物語』（amazon）、松山巌『乱歩と東京―1920都市の貌』（amazon）。石原千秋『秘伝 中学入試国語読解法』（amazon）。

なお、少し余談になるが、念のため書いておく。茨城古賀署域から開成に5人も合格しているのは、自治医科大学の医師の子供がこの周辺に集住しているからだろうし、神奈川伊勢原署域から桐蔭に7人合格しているのは、東海大学病院の医師の子供がこの周辺に集住しているからだろう。こういうわかりやすいケースばかりなら話は簡単なのであるが、と思う。医師は自分の子どもを医師にさせたがる、なぜだか知らないがそうなっているのだ。

Footer of This Document