コメント:平塚晶人・山根祥利『今こそ知りたい!三権分立』(1.立法権、2.行政権、3.司法権)

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平塚晶人・山根祥利『今こそ知りたい!三権分立』(1.立法権、2.行政権、3.司法権)(あすなろ書房)

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  • 日本国は完全な三権分立制度ではおそらくない。だが、三権分立という枠組でひととおりの主な役職やしくみをまず知ることは、学習の最初の手順としてはおそらく最も無難であるだろう。この三冊シリーズには「帯に短したすきに長し」とでもいう中途半端な印象を筆者はもっているが、それでも初学者のための比較的良い道筋だろう。そのうえで知識を補正するために、日本国が完全な三権分立制度ではないことを主張している、山口二郎『政治のしくみがわかる本』(amazon)などを読むのが良いかと思う。
  • この三権分立の三巻本を選んだ理由の一つは、「事務次官が省庁の事実上のトップである」ことを明記していたことと、「死刑執行は法務大臣が命じることでおこなわれる」ことを明記していたことだ。この二点は、重要であり知られてもいるわりには、書いていない類書が意外と少なくないようだ。また、日本国憲法で日本国が三権分立制であると明記しているわけではない、と明記してあるのも良い。
  • この書には、「制度やしくみ」についての記述と、「実態や傾向」についての記述が在り、前者は信用できそうだしだからこそ薦めているわけだが、後者は必ずしもそうではない、と思った。言えることは、読者の側でも、「この記述はあるべき姿やしくみについてのものなのか、実際に成立している出来事や傾向についてのものなのか」の区別をしながら読むということだ。
  • 「制度やしくみ」についての紹介をするのであれば、立法・行政・司法の三つが同じくらいの厚さの書になり、同じくらいの情報量におさまる、という現状のようになるはずはない。本来、行政が膨れ上がるに決まっている。なので、行政府のしくみに関しては、この三巻本以外にも何か他の書籍や情報源が欲しいところだ。たとえば、稲継裕昭・監修『キャリア教育に役立つ!官公庁の仕事』(amazon)をその候補として今検討中である。過度に期待させすぎないところが稲継本の良いところのように思う。
  • 「実態や傾向」についての記述というのは、たとえば国会で審議するというときのその審議のあり方を考えてもらうと良い。実態や傾向などはその都度変わるのだから、情報として記載しづらいのもよくわかるのだが、読者のほうでは審議のあり方に対してイメージをもちづらい。実際に審議のなかで行なわれていることの多くが、法律の範囲内であり、かつ法律で明確に規定されていないものが少ないからというのも在るだろう。いわゆる「強行採決」「人間かまくら」にせよ、或いは対抗する側の「牛歩戦術」にせよ、それにおそらく該当すると思う。ともあれ国会は決してお行儀の良い言論機関ではなかった。最近は特にそうだった。そのあたりの話題も知りたい場合、他の書籍・情報源をさぐりたいところだ。多くのマスメディアが往々にしてきちんと報道しない部分でもある。
  • 次の箇所は大変気になる箇所であり、その記載の意図はわからない。ともあれ、注意喚起のため、メモしておく。3巻「司法権」のp21にあるコラム「司法権の限界」に書かれたものだ。たとえば、日米安全保障条約の合憲性が争われた裁判で、裁判所は「高度に政治性のある統治行為は司法権の範囲外にある」として判断をさけた。これは、国のあり方そのものを決めることがらにまで司法権が口をはさめば、司法権の力が強くなりすぎ、三権分立のバランスをくずすことになるという考えにもとづく。と在る。この記載内容に何らかの欺瞞的なものを感じないことは難しいだろう。ともあれ、国のあり方そのものを決めることがらにまで司法権が口をはさめば、司法権の力が強くなりすぎ、三権分立のバランスをくずすことになるという考えというものがどこかで言われている(のだろう)、という貴重な記載・記録ではある。誰がどこでそう言っているのかは不明だが、この裁判というのが砂川事件(wiki)(コトバンク)の最高裁でのものであることは想像に難くない。この本の著者は記載意図は不明ながら、この不透明で欺瞞的な事態に関してひとこと残しておきかったのだろう、と推察はできる。この論点をせいいっぱいの書き方で残しておいたことは、おそらく良いことだ。私は評価したい。
  • 一方、評価できないと思ったのは、この書の1巻の「立法権」のp15で北朝鮮と中国とを独裁国家と断定しているが、その主張の根拠がちゃんとしていないことだ。この書の論調からすれば、三権が分立していないで意思決定機構が単一であるから「独裁」だということになるはずなのだが、そういう書き方をしていない。中国の場合、一党独裁ということが根拠であるらしいが、単一政党しか認められていないのと、三権分立が機能していないのとは異なる事柄であり、単一政党制を根拠に独裁国家だと述べるのは、おかしい。北朝鮮に至っては何の根拠も示していないで独裁と決めつけている。北朝鮮が三権分立がもし機能していないのなら、いかに機能していないシステムなのかをちゃんと説明する必要がこの書には在るはずなのに、そうしていないのである。ただ、その欠落は読者にわかるものだ。気づく読者は気づく。その点ではまだ無害なほうだろう。