コメント:小熊英二『決定版 日本という国』

小熊英二『決定版 日本という国』(新曜社)

  • 次の二つの疑問を日本史の勉強のときに感じたことの在る人には、小熊のこの著作は特に勧めたい。というのも、読んでいるうちにあまり疑問に思えなくなり、「当然そうだろう」と思うようになるはずだからだ。
  • 一つ目の疑問はこうだ。「明治維新を起こした人々は尊王攘夷という主義だったはずだ。だから幕府の井伊直弼という開国派の重臣を殺したほどだったのではないか。だが、明治維新とやらが終わって明治になってみると、とたんに、ころっと態度を変えて開国そして文明開化やら富国強兵やらという方向に転換した。その段になっても攘夷を主張する者は抵抗勢力的に扱われた。これはなぜだろう。」この疑問は、この小熊の本を読んでいるうちに、だんだん不思議だと感じなくなってくると思う。
  • 二つ目の疑問は、学校ではまず教わらない知識だと思うが、こうだ。「極東国際軍事裁判での日本のA級戦犯で“終身刑”の判決を受けた者のうち、のちに釈放され、池田内閣で法務大臣を務めた賀屋興宣という人物がいたらしい。この人物は東条英機内閣の大蔵大臣だった者だ。他の被告のなかにも“終身刑”の判決を受けた者の何人かは釈放後に、財界のちょっとした大物になったり、政治家の相談役などをやっていたケースも在る。どうしてこんなことが可能だったのだろうか。」この疑問は、小熊は書いていない。知っていて書いていないのか知らないのかもわからない。しかしいずれにせよ、小熊のこの著作の後半を読んでいるうち、これらの疑問は疑問でなくなり、「当然そういう展開も在りうるよな」と思うようになる。そのような説明がなされている。
  • 上記の二つの疑念を晴らすことが、日本という国を知るために大変有益であると私は考える。なので、それを見事に達成している小熊のこの著作はおすすめできるものである。
  • ちなみにもう一つ、代表的な疑念というものがある。「なぜ日本が十五年戦争で敗戦したときに、占領したのがアメリカ一国だったのか、連合国の集合体ではなかったのか。」である。この疑念も読んでいるうちに、「いやさもありなんだろう」と思うようになってくると思う。ただ、少しだけ「答」を書いている本があった。早尾貴紀『国ってなんだろう?: あなたと考えたい「私と国」の関係』のp114に「答」が簡潔に書いてあった。「さもありなん」といったものだった。ただ、假にそれを読まなくても、小熊のこの著作を読むと、その件があまり不思議ではなくなってくると思う。
  • 日本には「反米右翼」というものがほとんど存在しない。「親米右翼」ばかりなのである。この点に関して小熊に考えが無いということはないはずだが、この本では説明は特に無い。だが、そのヒントもこの著作のなかに在る、と私は感じている。ほとんど「答」が書いてあるも同然だと思う。